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       小天狗(764.7m)

尾根上から望む小天狗岳はなかなかの迫力だ

 1/25000地形図「定山渓」

道道沿いの作業道入口に車を駐める
急斜面をキックステップで登る
送電線下の広い雪面を登る
さっほろ湖のエメラルドグリーンが美しい
707mへ向けて尾根上を忠実に進む

まるで水墨画の世界そのものといった感じの定山渓天狗岳、雪が付いたこの山は私が知っている定山渓周辺の山岳景観の中ではピカイチである。定山渓側から見て、その前衛峰ともいえる小振りな岩山が読んで字のごとく小天狗岳で、ファミリー登山等ではその手軽さからか人気の山となっている。定山渓ダムの下流園地からは約1時間、そんな程度で高度感のある頂上を踏むことができるのはやはり魅力的である。この山の登山道は総じて急であるため、木製の階段が延々と続き思わぬ苦行を強いられるが、それがかえってこの山の名物となっているようだ。登山道入口には「八百段の階段がある登山道」との宣伝文句も見られる。息子たちがまだ小学校の低学年だった15〜16年前に一度ファミリー登山で訪れたことがあるが、それなりに楽しい山登りだったという記憶がある。

今回は予定していた道北方面の山行が降雨のために中止となり、戻ってみると札幌周辺の天候が回復傾向にあったため、この山を急遽訪れることにした。積雪期ということもあって登山道を歩く必要はなく、地形図で別のルートを探ってみた。この山の西側を通過する2本の送電線のうち1本が支稜線上の601m標高点を通っていて、尾根上へと続く保守用の道路は必ずあるものと考えて送電線の通過地点へと向かう。雪解けが進んだこの時期ではあるが車の駐車スペースを見つけるのはやはり難しい。ところが、車を停めたところが偶然にも探していた保守道路の入口であったのはラッキーであった。未だに厚い積雪に覆われてはいるが、確かに作業道のような形跡は奥へと伸びている。道路となればやはりスキーが便利、早速スキーを付けて出発するが、すぐに道路は消えてしまい、尾根そのものに取り付くことになる。(帰路、急カーブを見落としていたことに気付くが、そのまま道路を進んでいればもっと楽に尾根上へ上がっていたことだろう)

尾根の雪渓は傾斜が急になると消えてしまったため、雪渓が繋がっている西側の斜面へとトラバースするが、これがかなりの急斜面であった。途中まではキックターンでがんばるが、結局はスキーを外してキックステップで尾根上へと出る。だが、尾根上にも雪渓などまるでなく、おまけに痩せ尾根となっているためスキーはその場にデポ、ツボ足にて頂上を目指す。今シーズン最初の藪漕ぎとなる。薄い藪尾根をひと登りすると小尾根の合流点となって送電線の鉄塔が現われる。どこかにここまで登ってくる保守道があるのか、ピンクテープが点々と結ばれていた。空き缶が捨てられており、夏場には電力関係の作業員が行き来しているのだろう。

次の鉄塔が601m標高点であるが、気分的にはさらに先の707m標高点ではないだろうかとの期待もあった。東北東へと続く尾根と一段高い高みが見えたときには少々がっかりさせられるが、スキーを外して余計なエネルギーを使っていることもあり、実際の距離以上に遠く感じているのかもしれない。時間的には出発してから約1時間、相応の距離であることに間違いはない。601m標高点からは雪庇を飛び降りて樹林帯の痩せ尾根へと乗る。札幌近郊にもエゾシカが増えたのか、ちょっと前に踏んだと思われる足跡が我々を進行方向へと先導してくれる。雪が消えたところではまるで登山道を歩いているかのような明瞭なシカ道となっている。

707m手前のポコへ飛び出すと目指す小天狗岳が一段高い位置に顔を出す。何とも遠く、しかも険しい。いざ出発と、一歩踏み出したところでズッポリ雪渓に埋まってしまった。さらに登り、さらに下らなければ本峰に取り付くことさえできない。たとえ取り付いたとしてもあの険しさでは登れる保障もない。もしかしたら頂上へは届かないかもしれない…こんな小さな山でもスキーやスノーシューなしで雪渓上を歩いているという不安要因が潜在的に私の弱気の虫を騒がせているようである。すかさず、チロロ2さんが先頭に立つ。彼女は長年の経験からか私の弱点を知っているのだろう。雪渓を避けて藪の中から硬そうな雪渓上へと淡々と進んで行く。後で考えれば単にシカの足跡をたどっていただけのことであった。

ここもしっかりヒグマのエリア、けっこう大きなヒクマのものと思われる
小天狗岳頂上に立つチロロ2さん ここもしっかりヒグマのエリア、けっこう大きなヒクマのものと思われる

707m標高点のポコは巻くことにして、あとは小天狗岳まで真っ直ぐである。途中、50mほど下ればいよいよ小天狗岳への登りとなる。痩せ尾根には雪庇が張り出し、シカの足跡もさらに頂上へと向かっている。それが、本能的なものなのか経験的な知恵なのか、雪庇を上手にかわしているから驚きである。終いには我々は何も考えずに彼らの足跡を追っていた。そのくらい信頼できる彼らのルート取りであった。途中にはトラロープが見られ、登山道らしきものが薄っすらと見える。こちらからの登山道もあるのだろうか…? そんな話は一度も聞いたことはないが、途中で見られたシカ道と思われた踏跡は実は登山道で、そのまま鉄塔の保守道へと続いているのかもしれない。シカの足跡に交じってヒグマの足跡も…この山域にもヒグマがいるとは聞いていたが、この小天狗岳も彼らの生息地ということである。確か昨年の南区のクマ出没情報でも、この山の頂上付近でヒグマを見かけたとの情報が載っていた記憶がある。

険しく見えた本峰への登りであるが、実際に登ってみると険しさなどはぜんぜん感じない。最後は岩峰へと回り込む形で展望案内用のレリーフが雪面に顔を出す頂上へと到着する。もちろん登山者の姿などは見られず、いつもの薮山と何ら変らぬ光景である。さすがに木々の葉がないこの時期とあっては頂上展望も100%である。近郊の山々はほぼ見渡せる感じだが、雪雲のかかった余市岳や無意根山だけは見えない。無雪期には見られないさっぽろ湖の青さと足許に見える雪の付いた小岩峰との美しいコントラストは人造湖あってのもの。以前のガイドブックで今村氏が人間の作ったもっとも美しいものと表現していた記述を思い出す。

遠く感じた西尾根からのルートであったが、終わってみれば約2時間、結果的にはやはり小さな山ということになるだろう。しかし、別ルートを選ぶことによって定番となっている“階段登り”とは違った山の姿を見ることができた。こんな登り方があっても良いのではないだろうか…ついそんなことも考えさせられる小天狗岳山行であった。(2010.4.25)

【参考コースタイム】作業道入口 P 10:15 601m標高点 11:15 → 小天狗岳頂上 12:30、〃発 12:40 601m標高点 13:55 作業道入口 P 14:30   (登り2時間15分 下り1時間50分 )

メンバーsaijyo、チロロ2

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