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       小天狗(南峰 1272m、北峰 1263m)

御茶々岳西斜面から見る小天狗・南峰 (小天狗最高地点)

 1/25000地形図「布部岳」

極楽平付近から見る小天狗・北峰
ゲートからは林道歩きとなる
18線川本流は倒木を頼りに渡る
だんだん傾斜が増す18線ルートの詰め
槙柏とのコルは平らで格好のベースキャンプ地

あまいものこさん(甘藷山荘管理人)が後芦別山群と名付けた夕張山地・主稜線西側には実に魅力的な山々が点在している。火山性の丸みのある山が多い道内にあって日高山脈と並んで険しい山が多い山域で、しかもそのどれもが奥深い。主だった山々を登りつくした道内の岳人諸氏にとってはこの山域に足を踏み入れたくなるのは必然的と言っても良いだろう。ネットによる新しい情報化の時代に突入して十数年が過ぎ、その影響か中岳、シューパロ岳、1415m(夕張マッターホルン)など、以前にはあまり知られていなかった山々にも脚光が浴びる時代となった。そんな中にあって未だあまり登られることのない山が小天狗の南峰と北峰である。極楽平の西側に位置する二つの小ピークだが、小粒の山椒とも言える険しさを秘め、正に天狗が現れてもおかしくない雰囲気を漂わせる山である。

小天狗の名は八谷和彦氏(ガイドブックにない北海道の山々著者)から初めてその名を聞いて知った。その後、氏からこの山への誘いがあり、一緒に目指したのがこの山との最初の関わりである。この時は御茶々岳の巻きに入ったところで春の荒天のために中止している。その後、ずっと気にはなっていたが、簡単には踏めない遠い山であった。今回は道内全山登頂を目指すKo玉氏からの依頼で、中岳登頂を目指す藪山仲間に声を掛け、中岳とセットでこの山を計画することにした。中岳は8年前にEIZI@名寄さんと我がチームで登頂しており、今回は二度目となる。EIZI@名寄さんは8年前の山行時に終始リードしてくれた頼りになる岳友で、彼の友情参加によって残る課題は当日の天候のみとなった。

この先、御茶々岳西面へと入るが、雪渓がなくて四苦八苦 極楽平への登り返しは意外に大したことはなかった
極楽平は正に別天地 極楽平から見る夕張・中岳をズーム

十八線沢の今年の雪解けは早い。車乗り入れ終点付近は既に新緑に染まっている。以前は最終砂防ダムまでの車の乗り入れが可能だったが、その後最初の砂防ダム付近にゲートが設けられ、余計に30〜40分歩かなければならなくなってしまった。さらには、今回は林道入口にシカ避けの柵まで設けられ、こちらは開放されてはいるものの山がますます遠くなった感は否めない。また、古い作業道の橋が崩壊してすっかり消滅、融雪期の増水した十八線川を倒木を頼りに渉らなければならなくなってしまった。この十八線からのルートを前回たどったのは3年前の松籟山、御茶々岳、槙柏山の山行の時以来で、この時のことは昨年発刊された冬山ガイド(北海道新聞社刊)にもsakag氏の執筆で載っている。ちなみにこのガイドブックの基準でこの時のルート評価は95点、今の状況で点数化すればいったい何点になるのだろうか。山ヤとすれば興味のあるところである。 

作業道終点からは右岸側の集材路跡をたどる。十八線ルートは槙柏山のコルまでは残雪のつなぎ方がポイントとなる。小沢とはいえ、雪渓の踏み抜きは思いがけない事故へとつながりかねない。単独であれば尚更で、下手したら命取りともなる。一見簡単なルートと考えがちだが、雪渓の下部から流れの音が聞こえるようなところでは特に注意が必要だ。当初の予定では主稜線の1196mコル付近にベースキャンプを設ける予定であったが、普段担ぎ慣れない泊り装備に、不自由しないための十分なビールを背負ってのボッカ作業はきつく、結局は槙柏山のコルで荷揚げは終了とする。中岳のみの参加となっているK山岳会のYoshidaさんに電話を入れるが、携帯がしっかりと通じるのもこの十八線ルートの特徴といえる。

キャンプ地のコルからは少しの藪を漕いで御茶々岳南面の平坦地へと抜ける。雪解け間もない場所にはアイヌネギが今が盛りとばかりに群生している。さすがに山菜取りはここまでは登ってこれないので、まるで収穫期を迎えた畑状態そのままだ。標高を落とさぬように主稜線上の1196mコルへと向かう。途中、南面上部から発生した土砂混じりの全層雪崩れのデブリを横断する。見上げたところでは斜面ごと完全に剥ぎ取られたようである。その破壊力の凄まじさには圧倒されるばかりだ。コル手前から主稜線に乗るが、さらに続くトラバースを予定している西斜面に雪渓は見当たらず、既に笹薮が起き上がっていた。全道全山登頂まで残りわずかとなっているKo玉氏は、この時期を置いて次のチャンスは来年になることもあって強引に藪中へと突っ込むが、闇雲に突っ込んだところで雲を掴むような話である。雪渓つなぎは迷路と同じ、私もこの状況では今回もここまでか…と半分諦めた。そんな中、冷静なsakag氏から「もう少しぎりぎりまで上がってみてはどうか」との提案があり、その通りに登って行くうちに藪の向こうに雪渓が現れる。結果的にはそこが突破口となって下部の大雪渓へとつながっていた。付近は無理なトラバースをせずに、平らな地点まで標高を落とすことが正解のようだ。急な斜面よりは平らなところの方が雪渓が残りやすいということだろう。

遠く道北方面を見詰めるoginoさん 小天狗・北峰へいよいよ出発
小天狗・北峰の頂上にて。向こうに見える尖峰は中岳、その手前に小天狗・南峰
小天狗・北峰の頂上にて。向こうに見える尖峰は中岳、その手前に小天狗・南峰
途中、岩峰横の雪渓を進む。背後には急俊な北峰が見えている

再び極楽平へと登り返すが、思っていたほどの登りでもない。極楽平の残雪はかなり薄くなっているようで、一部では黒く泥炭化された湿地も顔を出している。富良野西岳、布部岳、北ノ峰周辺が一塊、中天狗周辺で一塊、どの山もすっきりと望め、正に夕張山地らしさの真っ只中といった感じである。目指す小天狗へは西に方向を変えて北峰が真正面となるように進む。雪渓に乗ってからは水平移動がメインとなり、その距離はぐんぐん縮まって行くように感じられる。ひとつ気がかりなのは北峰の残雪量が極端に少なく、下手したらハイマツ漕ぎになることへの時間の問題である。とはいえ、たかだか70m程度の標高差、北峰のゲットはほぼ間違いないだろう。途中、道北(特に天塩山地、増毛山地)の山々に特化しているOginoさんから、夕張の鋭峰の合い間に見える道北の山々を教えてもらうが、大勢の生徒の集団の中からたった一人の我が子を見つけ出すように、一山一山正確にその同定を行っていた。親でもなければ判らない我が子の姿ということだろう。

気付かぬうちに南峰への分岐を通り越して北峰への取り付きとなっていた。藪山メンバーとの山行では決して褒められることではないが、緊張感というものがつい何処かへ行ってしまう。どのメンバーもこの手の山のスペシャリストであり、敢えて自分がルートファインディングの先頭に立つ必要がないからだ。無精者の私としては易きに流れ、この日も地形図はほとんど見ていない。そんな中で、いきなり北峰への登りとなった感じである。雪渓から取り付いて後は急斜面の藪漕ぎとなるが、藪があるので多少傾斜があっても安心して登ることが出来る。15分で頂上をゲット、予想もしていなかった360°の大パノラマが我々を待っていた。意外だったのは遠く石狩湾を挟んで積丹半島の山々までもが一望のもとだったことだ。Oginoさんに促されて足もとを見るが、何と何と下方の様子が確認できない程の落込みよう、まともに覗き込むことすらできず、吸い込まれそうで思わずハイマツを握る。

藪山グループ、南峰到着。後方のVサインは私です。(sakag氏提供)
藪山グループ、南峰到着。後方のVサインは私です。(sakag氏提供)

南峰への分岐に戻りいよいよこの日の終着地点を目指す。こちらはスタートからいきなり藪漕ぎとなる。まずは下りの笹薮漕ぎで鞍部の岩峰を目指すが、ここの帰路の登り返しを考えるだけでどっと疲れてしまった。岩峰付近は旨い具合にすぐ横が広い雪渓となつていて難なく通過、南峰がぐんと近づく。雪渓には真新しいヒグマの糞も見られ、彼らにとっても格好の通過場所となっているようだ。南峰への取り付きはまるで登山道ともいえる踏み跡となっているが、人間によるものでないことだけは確かである。途中、南峰側から見る北峰は惣芦別川源流に向かってスッパリと垂直に切れ落ち、あの頂点に立っていたのかと思うだけでも背筋が寒くなる。極楽平側から見れば小ピークにしか見えないこの2山も、惣芦別川側から見れば立派に天狗の片鱗を見せているということだろう。

惣芦別川側はやはりかなりの傾斜で切れ落ちている。出来るだけこちらは巻かぬように木々の枝につかまりながら慎重に登って行く。途中、直進できない岩稜もあるがハイマツが密生しているので、そう恐れずに左を巻くことができる。完璧に雪が付いている時期であれば、おそらくこれ以上登ることは無理だろう。分岐から1時間15分、密生したハイマツを抜けて小天狗の最高地点に飛び出す。こちらも北峰に負けず劣らず360°遮るものなしである。帰りのここの下りと分岐への上り返しを考えれば決して手放しでは喜べないが、今この瞬間にそんなことを考える必要はない。大事に背負ってきた500mlのビール1缶を皆で回し飲み、正に至福と感じられる藪山グループ孤高の一時がそこにはあった。(2012.5.19)

小天狗頂上からの眺め

【夕張山地の大天狗とはどこか???…私の推論】

中天狗だったのではないかと思われる中岳 (奥芦別側から撮影)
大天狗の本命と思われるシューパロ岳 (奥芦別側から撮影)

付近には中天狗という山があり、今回登った山は小天狗である。となれば、大天狗は何処か…誰もが気になるところだ。これらはそう呼ばれていた時代を考慮すれば、山越え無しの奥芦別側から見ての呼称と考えるのが自然である。岩がごつごつとした荒々しい山が当然のことながら大天狗の候補であり、高さはあっても端正な中岳では少々役不足かもしれない。むしろこの中岳こそが中天狗で、標石設置時の誤り(山名がとなりの山に移ってしまった例はいくらでもある)からか山容が似ている現在の中天狗にその呼称を取られてしまい“中”だけが残ったのではないかと考えるが、これはあくまで私の推測である。この山については「鉾ヶ峰」とも古地図に記載されていたとあまいものこさんのサイトにあったが、鉾とは両刃の剣状の穂先のことで、おそらく富良野側から見ての呼称であろう。この山だけに焦点を合わせればこの名は的を得ているような気がするが、今の時代に鉾では少々時代遅れとなってしまった感がある(戦前であればこの山名の復活も可能だったかもしれない)

 結論から言って、大天狗とはシューパロ岳のことだったのではないだろうか。ようするに高さという要素は大きいが、ゴツゴツ度とその広がりの大きさこそが大天狗の名で呼ばれるための絶対条件と思われる。道内の他の大天狗2山(神恵内村・小平町)を見てもこのことは明らかだ。シューパロ岳の1436mピークから南に約2.5kmにも及ぶ岩稜の連なりには圧倒させられるものがある。ひょっとしたら見る位置によっては芦別岳をも重なって一つの大きな山塊に見えたのかもしれない。であれば、高さ的にも軽くクリアする。当時の横文字の読み方は右から左、見ての通りに大中小の“天狗”が横並びに揃うことにもなる。これらの推測を重ね合わせれば、シューパロ岳+芦別岳? これこそが謎の大天狗の最右翼と考える。その更に南側に位置する1415m峰(通称*夕張マッターホルン)の標石は「天狗岩」となっており、距離的な遠さを考えれば見かけ上は大天狗の付録に過ぎない。大方、この山までが奥芦別付近から見ての“天狗エリア”ということになるのだろう。中岳もしくはシューパロ岳に標石がなかったのは残念だが、あったとすればこの疑問に対する解答はもう少し明確になっていたことだろう。

sakag氏のページへ ■Oginoさんのページへ ■EIZI@名寄さんのページへ

【参考コースタイム】18線林道ゲート前P 6:45 槙柏山コル 9:45、〃発 10:20 極楽平 11:55 → 小天狗・北峰 12:55 南峰分岐 13:15 → 小天狗・南峰 14:30、〃発 14:45 南峰分岐 15:45 槙柏山コル 17:00     (小天狗・南峰まで 登り6時間40分)

メンバーsakag氏、EIZI@名寄さん、Oginoさん、Ko玉さん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga)

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