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      喜茂別岳(1176.8m) 

   

中山峠から喜茂別岳を望む (2016年9月撮影)

    1/25000地形図「中山峠」

中山峠・開発局のトイレ前に車を停める
無線中継所への道は途中で舗装道路まで現われる
今は役目を終えた中継所、次の時代には産業遺産となっているか?
これは森林管理所が置いたものと思われる

札幌市の西側の市町村界には1200m〜1500m級の山々が連なっているが、その南端が喜茂別岳である。アイヌ語の「キム・オ・ペッ(山・にある・川)」から転化して喜茂別の地名となったようであるが、喜茂別川そのものがその地名を示している川ということになるのかもしれない。いずれにせよ喜茂別川の水源ということでこの山名となっているようだ。この山は以前から、残雪期の無意根山への縦走の道すがらに踏まれることが多かったが、近年では中山峠からも容易に登れる春山ということで、スノーシューの普及と共に多くの登山者を迎え入れることとなった。いかんせん、峠の標高が既に831mであり、天候さえ安定していればいとも簡単に1000mを越えるピークに立つことができ、少々もの足りなさは感じるが、反面その手頃感は魅力的である。

北海道の生きた山情報の発信源ともなっているHYML(北海道山メーリングリスト)からのメールはいつもチックしてきたが、積雪期の山としての認識しかなかった喜茂別岳に実は夏道があったとの報には正直びっくりした。早速、自分自身の目で確かめるべくこの山を計画する。この日、集まったのはオジロワシの空の下のタカさんご夫妻、甘藷岳山荘のあまいものこさん、「北の山に遊ぶ 僕の山遊記」の山遊人さん、そして地図がガイドチーム4名の計8名。温暖化と騒がれている昨今ではあるが、札幌近郊の山々も初冠雪の時期を迎え、例年よりも少し早い降雪に何となく安堵感さえ感じられるから時代も変わったものである。

我々が準備をしていると離れた場所から一人の登山者が出発して行く。中山峠から出発する普通の登山スタイルでの登山者は未だかつて見たことがなかったので、情報の伝わり方の早さには驚かされる。我々は一歩遅れての出発となるが、ゲートは開かれており車でも入れそうだ。ただし、状況が判らないのでは歩いた方が安全である。ところどころに舗装路面も現われ、かなり整備された道路のように思われる。初対面同士のメンバーが多い今回のパーティの話題はやはりキノコである。今回はキノコに詳しいキンチャヤマイグチさんとあまいものこさんも参加しており、さっそくだが沿道に見られるオシロイシメジにキノコ談義となる。キノコは秋を代表する山の幸、美味しいキノコへの憧れは誰にでもあり、パーティ全体が盛り上がるのは必定である。事実、私もついつい頭の中はキノコモードとなってしまい、珍しいキノコはないものかと視線は地面や倒木ばかりを追っかけている。自然が豊かな北海道、秋の1コマである。

二ヶ所の送電線を通過、この道路の終点であるNTTの無線中継所に到着する。聞くところによれば、この中継所は既に役目を終えて解体を待つばかりの状態とのこと。光通信が当たり前の時代となった現在、一本の光ファイバー芯線のみで、この大きな施設全体に匹敵するほどの通信能力を持つそうである。道内の山々をめぐる中では多くの産業遺産を見てきたが、こんなところにも次の時代の産業遺産となりつつある施設があった。いっそのこと、建物部分だけでも避難小屋として使わせてもらえないものか、山ヤであればつい考えてしまうところだ。

頂上へあと100m 喜茂別岳・三角点頂上
定山渓天狗岳を望む 喜茂別方面(右側の山は尻別岳)

建物のフェンスに沿って踏跡が続いているが、うっかりすると見落としてしまいそうだ。先まで進むとしっかりと刈り分けられた歩道が見えてくる。「歩道 NTTコース線 4165m」とあり、おそらくは旧営林署と地元喜茂別町あたりが開削したと思われる。Web上ではこの山で町民登山が開催されているとの情報もあり、地元では以前から知られた登山道であったと思われる。旧営林署の格付では林道・作業道・集材路・歩道の四段階からなり、歩道としっかり明記されているところを見ると、森林資源の監視などに使われていたのだろう。登山口や頂上などに標識さえ設置すれば、明日からでも立派にガイドブックに登場する山となりうる感じである。

歩道は頂上へ向ってほぼ真っ直ぐに続いており、地形図上で見るほどの距離感はない。ところどころで倒木が邪魔するが、斜面が急になるところでは丸太の階段も現われ、どこまでも明瞭な歩道は続いている。気がつくと標高が上がっており、空沼岳や札幌岳、恵庭岳、狭薄山など、おなじみの山々が背後に広がっている。途中からは積雪状態となり、ズック靴の中はべちゃべちゃで、足回りの選択ミスを悔いるが我慢するしかない。もう少しで頂上というところで、先行していた登山者が下山してくる。見れば40歳前半くらいの男性で、あっという間にすれ違い、形通りのエールの交換後、待てよと思って振り返るとあまいものこさんのところで身元が割れていた。アソビホローケル山のサトマサさんであった。やはりHYMLのメンバーで、メーリングリストの情報を確かめるべく登ってきたようである。私も顔見知りであるが、不覚にもサングラスに年齢を見誤ってしまった。さすがにこの日にこの山で出会う登山者はHYMLメンバー以外には誰もいないようだ。

頂上はやっぱラーメンでしょ!(地図がガイド・特製ラーメン)
頂上はやっぱラーメン!(地図がガイド・特製ラーメン)

三角点のある1177m頂上はこの歩道のすぐ脇にある。展望も良く、正に頂上といった感じであるが、あまいものこさんによれば、西隣りのコンタは一つ多いとのこと。であれば、喜茂別岳の頂上は西側のポコとなる。いつも完全な登頂を目指すことにしている私としては、このポコもぜひとも踏まなければならない。皆で頂上を目指すが、最初は雪で倒れていた根曲がり竹も途中からはハイマツとなり、しかもだんだん深くなってしまう。皆はこれ以上は進まないとのこと。寒い三角点頂上に待たせるのは自分の我がまま以外の何ものでもなく、積雪期には何度も踏んだ頂上でもあり、今回は途中で止めることにする。頂上まではあと5〜6mであった。歩道に戻ったうちの何人かは、その行き先を確かめようとさらに先へと向っていた。私も行ってみたところ、歩道は頂上をかすめて黒川林道へと下っていた。この歩道は三角点頂上へと二方向から開削されていたというのが“喜茂別岳夏道”の真相であった。

風を避けて頂上直下にて休憩していたところ次のパーティが上がってきたが、さすがに今度はHYMLのパーティだとすぐに判った。ゆっくり歩きで低山を楽しむの通称・“山ちゃん”こと山内氏の3人パーティとYOSHIOの北海道山情報のYOSHIOさんである。彼らも途中で偶然に出会ったとのこと。結局、終いには十数名もの団体に膨らんでの下山となる。以前からこれだけしっかりとした登山道があったにも関わらず、だれもが何の情報も持っていなかった。こんな意外なことがあるのだといった率直な驚きが、自然発生的に団体登山となった皆の感想であった。(2009.10.12)  

千歳のたかさんの山行記へ    ■サトマサさんの山行記へ

【参考コースタイム】中山峠 7:55 NTT無線中継所 8:50 喜茂別岳頂上周辺 10:20、〃発 11:40 →  NTT無線中継所 12:50 

 (■NTT無線中継所から 登り1時間30分、下り 1時間10分 ■中山峠から 登り約2時間30分、下り約1時間30分)

メンバー】千歳のたかさんご夫妻、山遊人さん、あまいものこさん、キンチャヤマイグチさん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga)

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