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   上忠別山(1121.9m)

 

1/25000地形図 「俵真布」「旭 岳」

この時期はやはりニリンソウが咲き乱れていた いたるところでコゴミが頭をもたげていた
エゾノリュウキンカが咲いていた  この時点で間違っていた 稜線まではもう少し
羽衣トンネルのすぐ手前に車を止める
沢に入ってすぐに現れる砂防ダム  ここは巻いた方が良い
沢に入ってすぐに現れる砂防ダム  ここは巻いた方が良い
長靴でも十分な細い流れ
つい見とれてしまった枝沢の飛沫 だが、ここが予定のルートだった

  羽衣の滝で有名な天人峡温泉だが、旭川からは近いようで意外に遠い。以前は山間部に入ってからが単調で、今か今かと思いながら運転していたが、現在は忠別ダムができたこともあって、忠別湖に映る旭岳が何とも素晴らしく、そんな逸る気分を癒してくれる。到着間際に羽衣トンネルを抜けて、クワウンナイ川を渡って、やっと温泉街となるが、そのトンネルのすぐ上に位置している山が今回目指した上忠別山である。湖に併せたわけではないが、確かに忠別湖の上流に位置しているから計らずもその名の通りとなった。もちろん、山名がなければ、ほとんどだれにも登られることのなかった山と思われるが、二等三角点「上忠別山」が埋められていることもあって、地形図上では立派に一山となっている。こんな地味な山だが最近ではそれなりに登山者が多いようで、そのほとんどの山行が積雪期の西尾根末端からのものである。その中で、EIZI@名寄さん(山の時計管理人)の記録だけは無雪期に登っており、この時の同行者が北海道全山男のKo玉氏というのも珍しい。最強のコンビだったことは言うまでもなく、その山行の様子まで容易に思い浮かべることができる。

 私の以前の計画では、温泉街側のトンネル入口から直接斜面を上がろうというものだった。天人峡温泉へはここ何年かの間に何度か訪れており、その度ごとに駐車場からこの山を見ていた。閑散としている冬に訪れており、思わず登ってみたくなる衝動に駆られていた。だが、木々の葉が落ちる積雪期とあっては公共駐車場からでは目立ち過ぎ、下手したら見世物である。有名どころであれば登山者と思われるであろうが、こんな一般的ではないルートを1人で登っていたなら、自殺志願者と見られてもおかしくはない。さすがに、私としても二の足を踏んでしまった。今回もこのルートからはどうかと探ってみたが、取付きは簡単そうだが尾根上に登ってからの様子が判らない。結局、距離的にはあまり変わらない、EIZI@名寄さんとKo玉さんが選んだ北面の沢ルートをたどることにした。同行してくれた山遊人さんからも、沢筋の方が計算できるとの意見。

 羽衣トンネルを戻って、何らかの工事で使っている駐車帯に車を止める。日曜日でもあり、時間的なことを考えても休工日と思われる。小沢の入口には意外に背の高い砂防ダムがあるため、手前の斜面から高巻く。現れたのは小沢で、沢自体の水流が少ないこともあって、EIZI@名寄さんの記録でも何も無い沢と載っており、スパイク長靴でも大丈夫と思われた。北面なので雪渓が残っていることも考えられ、記録的と言われているここ数日の暑さを考えても、やはり長靴が良い。細い水流の中、快調に上流へと向かう。

頂上直下の稜線上から見る旭岳  手前には羽衣の滝が見えている

 スタートから30分、時間的には少々早いが枝沢が入り込む二股で小休止。枝沢上流の陽光に輝く滝の飛沫を見ながら、写真の師匠でもあるIkkoさんと撮影についての談義となる。こんな光景はじっくり見ていると感動的に美しいものだが、写真にすると意外と単調である。陽光に映える木々の新緑と真っ青な空というのも同様だ。人間の目というのは優秀で、どんなカメラよりも優れている。そこには人間の脳の中にある感性というものが微妙に連動しているためなのだろうか… これを写真で表現するとなると、それなりの技術が必要だ。つい、そんなことを考えつつ、じっくりと休憩、地形図上での位置確認をしないまま、慌てて出発となる。

 直ぐにナメの小滝が連続となり、あれ… ? と思った。確か、EIZI@名寄さんの記録では何もないはずだった。彼らの力量ともなれば、こんな小滝は何にも無いに等しいのか… ついそう感じる。ところが、さらにすぐその先で、倒木がうるさい雪渓の付いた滝が現れる。この滝は、傾斜は緩いが多少だが大きい。私の方に間違ったという認識が全くなかったので、彼らであれば傾斜が緩ければ滝を滝とも感じなかったのだろうと勝手に解釈してしまう。しかし、取付いてみて、さすがに怪しいと感じる。先頭を行くIkkoさんには声をかけて待ってもらい、とりあえずは地形図とGPSを見ることにする。確認したところでは、右股へと入り込んだようで、このまま進むのはリスクが大きいと感じた。稜線に出てからの藪漕ぎが多いことと、この先ではコンタが込んでくるのでそれなりの滝の出現も考えられるからである。結局、本来のルートへ戻るのが良いとの結論となる。

 それにしても、いったいどこから右股へと入り込んだのだろう。考えた答えとして、正解は先ほどの休憩地点が二股で、見ていた枝沢と思っていた流れが予定していたルートだったようだ。休憩後の先頭は私であり、明らかに私の失敗だった。Ikkoさんは左岸側の草付きを低く巻いて進んで行ったが、後続としてはそんな微妙なところは巻けない。枯れ木を支えに、騙し騙し、ナメ滝へと入って、Ikkoさんが待つ滝上へと登る。予定のルートへと斜面を横切って向かうには、地形図上ではこの辺りが一番緩そうな感じである。メンバーが揃ったところで、すぐにトラバースを開始する。根曲がり竹であれば、相当に苦労させられるところだが、籔とも言えないほどの薄い藪。そんな意味ではラッキーだった。そうこうしているうちに古い作業道跡に飛び出す。確認のため間違った方へ戻ってみると、作業道跡は先ほどの滝の取り付き付近で崩れて消えていた。取り付いた時には滝しか見ていなかったため、この作業道跡には気付かなかった。

 再び作業道跡をたどって、難なく予定の沢へと飛び出す。とは言っても水流などは無く、ただの広い斜面のみである。GPSを持っているので確認できるが、地形図のみであれば少々不安になることだろう。右岸側に現れた岩壁を見ながら急な斜面を登って行くと、細い水流が現れて少し沢らしくなる。要はルートに戻った辺りが一部伏流となっていただけであった。水際には出てきたばかりのコゴミが至るところに見られる。何度か作業道跡が現れるが、林業が衰退している今の時代とあっては久く使われてはいないだろう。途中いたる所でずたずたに崩壊していると想像する。雪渓が現れ始め、その雪渓をつなぎながら標高を上げて行く。気が付くと青空が広がっており、稜線がぐんと近づいたようだ。

頂上から望む小化雲岳   頂上から望むトムラウシ山をズーム

 雪渓は稜線のすぐ手前まで続いていた。さて、藪漕ぎかと思われたが、上手い具合にルートを取れば、さして本格的な藪漕ぎとなることもない。Ikkoさんを先頭に天人峡側を見渡せる稜線上に出る。さすがに稜線からの眺望は感動的だ。Ikkoさんの教えてくれたビューポイントからは、木々に邪魔されることなく温泉街とその上部に聳える旭岳が、この山ならではのアングルで、縦に大きく広がっていた。そこからわずかに登った地点が上忠別山の頂上で、東側の眺望は正にパノラマ、航空写真である。かなり以前にたどったことのある天人峡〜トムラウシ山への登山コースも一望のもとだ。こんな長すぎるルートの全容を見てしまっては、今の私であればスルーすること間違いなしだろう。

残置されていた三脚に金麦を載せて右側はIkkoさんの腕、木が邪魔で引っ張っている

 頂上には測量用の立派な三脚が置いたままとなっている。Ikkoさんが、これを入山口まで運ぼうと丁寧に畳んでいたが、ひょっとして対空標識となっていてはまずいかもしれないとの旨を伝えたところ、また丁寧に、最初のあった状態に設置し直していた。この人は本当に労を労とも感じない人だと改めて思う。最後はいつもの金麦写真である。ところがザックの中を探し尽くしても出てこない。私としては、しぶしぶ諦める。さて下山と、メンバーがザックを背負っていざ出発…と、その時、ザックに入れたザイルの下から何と! 探していた金麦が現れた。正直、やった! と思った。メンバーには申し訳ないが、やはり頂上の金麦写真を1枚撮りたい。 大雪山は晴天の陽に輝いて眩しいほどだ。ところが、我々のいる場所は樹林帯の日陰の中。Ikkoさんのアドバイスで、強制ストロボにて貴重な1枚を撮る。一見、合成写真だが、この写真は本物である。

 こんなマニアックな山に付き合ってくれるメンバーなど居ないと思っていた上忠別山だが、結果的には3名ものメンバーに恵まれ、首尾よくゲットとなった。大雪山の前衛峰的な山だが、この位置でなければ見ることの出来ない見事な大雪山・旭岳がここにはある。新緑と真っ白な雪渓、そして真っ青な空との競演、この時期だからこその実に見事な光景である。下山後、印刷して持ってきたEIZI@名寄さんの記録を読み直してみたが、彼らも同じところで間違っていたようだ。情報を持って来たにもかかわらず、見事に前車の轍を踏んでしまったことについては、自分自身を笑うより他にはなかった。 (2014.06.1)

参考コースタイム】  羽衣トンネル入口 P 8:05 → 上忠別山頂上 11:00、〃 発 11:40 →  羽衣トンネル入口 P 13:15 (登山時間 登り2時間55分、下り1時間35分)

メンバー山遊人さん、Ikkoさん、saijyo、チロロ3(旧姓naga)

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