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 上来馬(543m) 黒松内 

麓の牧場から上来馬山を望む

1/25000地形図 「静 狩」

稜線への斜面  予想したよりは良い
古い作業道入口付近に車を置く
古い作業道入口付近に車を置く
籔は密で、見た目よりもかなり悪い
途中から写万部山を望む

  上来馬山は道央自動車道で函館方面へ向かう途中、金山トンネルを過ぎたあたりで左手に見えてくる山で、以前から道央自動車道を走る度にカーナビに表示されるこの山が気になっていた。山岳風景としては誰もが目にする何の変哲も無い風景であるが、それを上来馬山として見る人間がいたとすれば、余程のマニアックな山おたくか、地元の人間だろう。493mという低山ということもあって、山としての魅力には乏しいが、付近の山塊の中では数少ない地形図上に名がある山でもあり、一度登ってみる価値はあると思っていた。Web上で検索してみると、何と積雪期の記録が1件ヒットした。頂上展望が意外に良く、それなりに山行として成り立っていた。それでは… と、我々は無雪期のこの山を目指すことにした。ちなみに、登別の来馬山とは距離的にも無関係と思われるが、山名由来としては同じアイヌ語地名「河口付近が淀んでいる」からと思われる。ただし、付近に流れる来馬川は朱太川の支流でもあり、そんな地形がどこにあるかは判らない。

 情報に乏しいこの山、やはりgoogleの航空写真と地形図が唯一の道標である。南西側の農場から続く林道がやはり第一選択となる。この道路は航空写真にも明瞭に写っており、ゲートがあった場合にはそこから歩くつもりで現地へと向かう。道道266号(大成黒松内停車場線)から枝道へと入り、養鶏場のような建物群が近づくと、路面上には消石灰が蒔かれており、何やら物々しい気配。農場の看板を見ればインターファーム鰍ニ書かれている。後で調べたところでは我が日本ハム・ファイターズと同系列の会社で、ここでは豚肉の生産を行っているらしい。消石灰の道路をそのまま進み「一線の沢林道」へと入り、途中からは上来馬山の中腹を巻く支線林道へと入る。途中にゲートはなく、立入り禁止の看板も見られない。

  地形図を見たところではこの林道は途中で終点となるはずだったが、終点を過ぎてもさらに続いていた。結局、山の西面から下って来る小沢のカーブを過ぎてもさらに続き、少し戻った古い作業道分岐の駐車スペースに車を置く。驚いたことに目の前から尾根上へと向かって歩道が伸びている様子。おそらくgoogleの航空写真で見た植林地へと向かうものだろう。そもそもは植林地を利用しての登頂計画だったが、地形図を見る限りでは間に1本小尾根が入っており、ここは慎重な判断を要する。とりあえずは、正攻法である小沢を偵察することにする。

稜線に飛び出すと丸山が見えた 上来馬山頂上にて

遠くウインザーホテルも望むことができる   頂上で、いつもの1枚

 少々籔は被ってはいるが、同じ藪漕ぎであれば沢筋が有利のはず。協議の結果、沢筋からのスタートを選ぶ。流れはちょろちょろだが両岸から伸びた根曲がりが流れに覆い被さった形で我々の行く手を阻む。しかも高密度、最初だけだろうと思っていたが、どうやらそうではなさそうだ。悪いことに被った籔にツルが巻きつき、網の目のようになって全く身動きが取れない。何とも汚い沢だ… というのが率直な感想で、こんなルートを取る登山者など居るものかと思いつつも強引に前進する。当然のこと、刈り分を進めば良かったとの後悔も残るが、これは結果論。意外に刈り分け側にもそれなりの障害が待ち構えていたかもしれない。この辺りは人生と一緒で、今ある状況にベストを尽くすことが事態打開のセオリーである。

 そんな閉塞状況を吹き飛ばしてくれたのが、Ikkoさんのザックから出てきた大型の剪定ばさみだった。超大型で切れ味抜群、聞けばホーマックで1000円足らずで売っているとのこと。山の道具としてはかなり奇異なもので、両手を使ってバツバツと枝を払う道具。こんな大きなものをザックに入れてきたIkkoさんにはただ驚くばかりである。ルートの確保も然ることながら、この道具の凄いところは、ツルどころか、竹すらも切れてしまうところだ。山行全体で考えても、その心理的な効果は抜群である。もちろん、全部を切りながら進むことが無理であることは百も承知、言うなればお守り的存在といえる。さすがに同じ状況はどこまでも続かず、途中からは流れがすっきりと見える普通の小沢となった。

 途中、滝と言えるかどうかは別として、1mのF1を通過する。これを通過する頃から沢形が怪しくなり、やがて笹の斜面となる。笹の密度としては標準的、高さの割には細身で、心理的な負担はあまり感じない。標高を徐々に上げて行き、稜線が近づきつつあることが実感された辺りでひと休みとする。木々の間から写万部岳が端正な姿で見える。また、長万部岳や黒松内岳もその背後に確認できた。いよいよ詰め、急傾斜の笹斜面だが標高の低いこの山ではそれも長くは続かない。笹の隙間が明るくなって、稜線上へと飛び出す。こんなケースは日常茶飯事だが、いきなり目の前に広がる眺望にはやはり格別のものがある。先ほど登ったばかりの丸山も全体像で姿を現す。さて、あとは頂上を残すのみである。暗黙のうちに一番乗りを譲り合う私とIkkoさん。こんなところで譲り合ってもしょうがない。なぜかチロロ2さんが先頭となって軽い藪漕ぎで最後のひと登り、程なく三角点が目に飛び込んで来た。500mにも満たないピークではあるが、眺望はまずまずといったところ。いつもこの山を見ていた道央道が逆に線となって横に延びている。山と山との間には6年前のサミット活躍した幌萌山・ウィンザーホテルが遠くちょこんと見える。もちろん、帰りの運転がない私はザックから金麦を出して三角点に置いていつもの1枚。これで予定通り、この日の計画は完了となる。

 下山は速かった。最後尾から登ってきたIkkoさんが、例の道具を駆使していたのか、薄っすらとルートが出来上がっていた。この山行記を目にした方で、もしこの山に興味を感じたなら、登るのは今かもしれない。自然の力というのは手強く、来秋には何も無かったように今年と同じ状態を作り出していることだろう。(2014.10.12)

【参考コースタイム】 林道 1035 上来馬山頂上 1230 、〃発 13:00 林道 1340 (登り 1時間55分、下り 40分)

メンバー】Ikkoさん、saijyo、チロロ2

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