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 上記念別山(419.3m)

閉鎖した道道の途中から見る上記念別山

1/25000地形図 「滝 下

ゲートでがっちりと冬期閉鎖中、ここから入山地点までは約4km
ゲートで冬期閉鎖中、ここから入山地点までは約4km
出発時は硬かった雪面も途中からは沈み始める

  7月下旬に中記念別山に登って、その時に気になったのが、やはり未だ登っていない上・下の記念別山だった。小平蘂川に注ぐ上中下の三本の記念別川、それに因む三つの「記念別」の標石、ここは三山全てやらなければ“記念別山”は終了しない、記念別三山(Ogino氏が命名)は1セットある。我々が中記念別山へ登った翌週に突然「中記念別へ行ってきました!」とのメールが舞い込み、びっくり仰天だった。驚いたのはあの藪の中へ単独で入ったことも然ることながら、一般的に考えればとても魅力的とは言いがたいあの藪山へ向かったという事実である。そのメールの相手がIkkoさんで、類は友を呼んだのか、今回は同じパーティとして上記念別山を目指すことになる。

巨木はパワースポットと言える (Ikkoさん提供)

 アプローチとなる道道126号(小平幌加内線)は未開通のままで、冬期間は道道742号(霧立小平線)との分岐でしっかりとゲートが閉められていた。袋小路となっていて分岐から先には人家が一件も無いとあっては当然だったが、頭の片隅にはひょっとしたら開いているかもしれないとの期待があった。中記念別の山行の時に下見で一度入っており、この時には車に乗っていたので距離感はまるで感じていなかった。まあ、歩けばいいさと思って道道へと入る。積雪は20cm程度、さほどの億劫さも感じずに取付き地点へと向かう。だが、積雪にツボでは時間が経てば経つほど疲れが増してくる。そんな時に見る動物たちの足跡は疲れを癒してくれる。ヒグマやエゾシカ、キツネ、ウサギ、ノネズミなど、雪面には彼等の活発な活動の様子が写し出されている。冬期閉鎖となったこの道道は彼らの生活の場であり、雪解けまでの半年間の楽園である。

 少し話は逸れるが、先日、ある講演会へ行ってきた。「サバイバル登山」…食料は現地調達で山をやるというもの。文明の利器を一切使わず、ヘッドランプすら持たない登山である。だが、なぜか猟銃のみは別のようで、サバイバルの本家であるグアム島・故横井氏やルバング島・小野田氏ともそのスタンスがちょっと違うようだ。私は山ヤが猟銃を持って山に入ること自体に大きな違和感を感じる。銃が好きなのなら猟友会に参加して食害駆除でもやっていれば良い。岳人である以上、自然動物たちの聖域に入るにはそれなりに暗黙のルールやマナーがあって、その基本となるのは彼らとの共存である。意図的な殺生によって成り立つサバイバルなど、身勝手さ以外の何者でもなく倫理観の欠片もない。演壇の様子からは登山家としての必死さは伝わって来たが、話の内容自体は人間性を疑いたくなるものばかり、私にとっては不快感が残る後味の悪い帰宅となった。そんなこともあってか、ここの道路に印された自然動物たちの営みには余計にほっとさせられるものが感じられるのだろう。

 硬かった雪面も徐々に沈み込むようになり、途中からはシカのラッセル跡を利用させてもらう。よく見るとシカも熊の足跡を利用しているようだ。ゲートから1時間15分で取付き地点に到着、ここからはスノーシューを付けて登りに入る。考えてみれば、最初からスノーシューでも良かったのかもしれない。私としてはスノーシューの経験は数える程度で、この道具の有用性をよく知らなかった。だが、履いてみると意外に軽く、この日の硬い雪面にはなかなか効果的である。まだまだ笹が飛び出しているこの時期、スキーを使うにはもう一〜二度の降雪が必要だ。道具の使い方にもそれぞれにTPOがあるようである。 緩い斜面を、笹を避けながら登って行く。普通の雪山であれば尾根筋を忠実に登るのがセオリだが、この時期ではまだ笹がうるさくて尾根筋はたどれない。だからといって沢筋はまだ流れが顔をのぞかせており、ここもダメ。結局、その中間の適当に雪が付いた斜面が良いようだ。緩い斜面とコブの組み合わせがしばし続くが、基本的には高みへと登れば良い。コブを巻いて、コブから続くコルへと直接上れば素晴らしいルートファインディングと言えるのかもしれないが、地形図を余程読みこなさなければそんな芸当などできるものではない。まあ、多少のアップダウンは許容範囲と考えることにしよう。

痩せた尾根筋を登る 正面の樹林帯が上記念別山の頂上
なかなか見つからなかった三等三角点「上記念別」 ・・・発見時にはビールも空缶になってしまった
頂上付近から見たおびらしべ湖の天狗山
なかなか見つからなかった三等三角点「上記念別」        発見時にはビールも空缶になってしまった
閉鎖中の道道は野生動物の楽園となっている (Ikkoさん提供)

  登って行く途中でIkkoさんが巨木を見つける。彼によれば巨木は心が休まるとのこと。後日ネットで調べてみたが、確かにバワーの源があるらしい。というのは、その樹木が巨木へと育って行くためにはそれなりの巨大なエネルギーが必要で、巨木が育ったということは、そこにそれがあったということである。宇宙誕生のようなスケールの大きな話となるが、物理的にはエネルギーと質量は表裏一体ということらしい。そう考えれば、何かしらのパワーを感じても決しておかしくはない。巨木から細尾根をトラバース気味に進むと頂上台地へと飛び出し、頂上がいよいよ近づく。木々の間からはおびらしべ湖の天狗山がくっきりと見える。Ikkoさんから写真の構図について教わるが、確かに全景と背景のバランスを考えることによって、同じ位置からの写真でも一味も二味も変わってくる。一足先に進むIkkoさんが頂上へのルートから少し外れたところで呼んでいるので行ってみたが、小天狗や奥三毛別山が特徴的な姿で並んでいた。少し位置を変えることも写真の大事な要素のようだ。

 Ko玉氏とチロロ2さんの立つ頂上へは遅れて到着、三角点は未だ発見されてはいない様子。三角点の周りによく見かける石は確認しているが肝心の三角点は薄い雪渓の下である。薄いとは言っても全部の雪渓を掘り返すわけには行かない。Ko玉氏は別に三角点など見つからなくてもかまわないといいつつも、私のスコップで各所を突き刺しながらうろうろしている。久々に三角点の匂いを感じる男・Ko玉氏が気を吐く場面かと期待したが、彼がほとんど掘り尽くしてしまって、わずかに残していた雪渓の下からそれを発見したのはチロロ2さんだった。チロロ2さん、凄いな〜 ついそう言ったが、彼女曰くはここしか私の掘る場所はなかったとのこと。頂上から見る端正な鷹泊・坊主山、荒々しい小平蘂山などが特に印象的だった。

 今回はサバイバル登山についてちょっと批判的に書いたが、決してサバイバルな登山についての否定をしているものではない。登山はサバイバル的な要素に満ちており、生きて家に帰ることはやはり登山者としての第一義と言えるからだ。本当の意味でのサバイバルな状況からの生還体験というものがあるのなら、ぜひともそれを詳しく聞きたいと感じていたのは私だけではなかったと思う。北の山を愛する者の一人として、日高や増毛の山々での無益な銃声など聞きたくはない。これは北海道全ての登山者に共通する想いと言えるだろう。(2013.11.17)

【参考コースタイム】 道道分岐ゲート前 P 7:55 上記念別山取付き 910 → 上記念別山頂上 11:25、〃 発 12:00 上記念別山取付き 13:05 → 道道分岐ゲート前 1425  (登り 3時間30分、下り 2時間25分 ※道道の歩行時間も含む)

メンバー】ko玉氏、Ikkoさん、saijyo、チロロ2

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