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      賀張山(ポロヌプリ)(486.9m)

 

サラブレットと賀張山(後方中央)

1/25000地形図「新 和」

頂上へのクライマックスはミヤコザサを掴んでの急登
牧場の敷地内に車を停めさせてもらう
牧草地から樹林帯へ突入
360mコルへはもう一息

日高町(旧門別町域)を流れる賀張川の水源の山が賀張山である。水源に位置する山ということで点名が賀張山となり、そのまま地形図上でも山名として表記されたのだろう。水源の山といえばつい奥深いイメージで考えてしまうが、厚別川側から見れば牧場の単なる裏山に過ぎない。もっとも、河口の賀張地区からは奥深く、古くからポロヌプリ(大きい山)の名で呼ばれていたとのこと。一つおいてとなりの421mピークがポンヌプリ(小さい山)で、賀張方面からはどの角度から見ても大小二つの三角形に見えるため、倭人の間では“賀張の三角山”とも呼ばれていたそうだ。また、門別町町史によれば「東蝦夷日誌」には「川上に二ツ家ノ如き岳あり、漁者海上にて是を目的とする故号とも伝。土人是を尊拝し、神酒を供ふと」とあり、アイヌの人たちにとっては古くから神聖な神の山とされていたとのことである。雨乞いの祈願(カムイノミ)も近年までこの山で行われていたらしい。ちなみに、地名の「カバリ」であるが、同日誌によれば賀張川河口の海中に見える平らな岸礁を言い表しているとのこと。

本来であれば賀張川を詰めたいところだが、時期が時期でもあり一等三角点「賀張山」の点の記を参考にそのルートをそのまま辿ることにした。入山口となる奥山牧場へはことわりを入れて車を停めさせてもらう。つい最近の口蹄疫の問題もあって、さすがに牧場内への立入りは憚られるところだが、賀張山へ登るためには致し方ないところだ。牧場側の話では、この山に登りたいという人はたまに訪ねて来るとのこと。最近では住人と登山者との間でトラブルとなって登れなくなった山もあると聞く。ここに関して言えば、以前に訪れた登山者が良い印象を残してくれたのか、車の駐車と牧場の通過を快く受け入れてくれた。次の登山者のためにも駐車、その他のマナーはしっかりと守らなければならない。

牧場の通路から尾根の取付き地点へと向かう。通路の両側にはサラブレットが放牧されているが、この牧場からは名立たる名馬が数多く輩出されているとのこと。ただし、ここでは馬の本性である人懐っこさそのままに、気が付くと山の写真を撮っている私の前に勢ぞろいしていた。不思議だったのは通路にはエゾシカの糞も数多くみられたことで、ここではエゾシカの生活圏が牧場内にも及んでいるようだ。尾根上に大きく広がった牧草地から柵をくぐって樹林帯へと入る。昔から神聖な山とされていたためか、どの樹林も太くて立派なものが多い。見たところ集材路跡などは見当たらず、少なくても我々が立ち入った南東面での伐採は行われていなかったようである。

賀張山の頂上に到着 振り返ると厚別川の茶色い流れが眼下に

小道かと思って良く見てみるとシカ道である。下草はすっかり枯れてしまい青々と残っているのは笹のみであるが、ここの笹は背の低いミヤコザサで、それすらも薄くしか生えていない。いわば、どこでも歩ける状態である。シカ道は傾斜の急なところも上手い具合にジグを切るように登っている。ただし、エゾシカによってかき回された地面が泥状となっていて、スパイク長靴でさえも油断しようものなら滑って転んでしまいそうな不安定さである。多少急傾斜であってもシカ道を外して真っ直ぐに登った方が快適なくらいだ。すっかり枯れてしまった樹林帯の中を賀張山東側の360mコルへと緩い登りが続く。

コルからは標高差約120mの急な登りとなる。樹木と樹木との間が離れているので、細かなところで頼りとするのは細いミヤコザサのみであるが、これとて細すぎて心もとない。急な笹斜面の登りだが、頂上直下の尾根上にいることがはっきりとしているため、前方の青空の中に映える頂上への期待は大きく膨らむ。何よりも、知らないピークヘ立つ新鮮さや期待感というものは二度三度登った名峰のそれを遥かに上回るものがある。先頭のKo玉さんが前方の斜面から見えなくなり、間もなく三角点があったとの声。今までに何度も繰り返されてきた場面ではあるが、間違えずに頂上に到達できた安堵感はやはり良いものだ。最後の斜面を登り詰めると平らな笹原となっていて、いつもとは違って大きな三角点が埋まっていた。見ただけでもすぐに一等と判る大きさである。クライマックスが攀じ登って飛び出したという表現がぴったりだっただけに、爽快感も最高潮といったところだ。眼下には平成15年の大氾濫で一躍名を馳せた厚別川(アッペツ川)が茶色い流れを見せていた。

 賀張山は標高500m足らずの小さな里山ではあるが、小ささを感じさせない登り応えのある山であった。周りが低い丘陵地帯であるため、特徴的な三角形の山容は昔から際立って高く見えたようである。本来あった山名にはそれなりの歴史がある。明治時代に入ってから無機的に付けられた官製の山名よりはポロヌプリ、ポンヌプリの呼び名の方が絶対にふさわしいように思う。何でもかんでも点名=山名ではなく、地形図だけでも本来の山名に戻すべきだ。個性的な地域づくりが求められるこれからはそんな時代でもある。(2010.12.5)

参考コースタイ 奥山牧場 9:20 → 賀張山頂上 10:50 、〃 発 11:25 奥山牧場 12:20 ( 登り 1時間30分、下り 55分  )

メンバー】 Ko玉さん、saijyo、チロロ2チロロ3(旧姓naga)

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