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  定山渓天狗岳(1144.6m) ・・・中央ルンゼから

 
三峰からなる定天は見るだけでも素晴らしい山である

道道95号から見上げる定山渓天狗岳

 

/25000地形図「余市岳」「無意根山」

道道脇に車を止める
休憩地点横の斜面、ここから本格的な登りとなる
頂上から山域最高峰の余市岳
定天のバリエーションルート
頂上にて(背後は百松沢山と烏帽子岳)
奥から、朝里岳、白井岳、ヒクタ峰

札幌近郊で鋭峰といえば、四方岩峰で囲まれたこの定山渓天狗岳がまず挙るだろう、三峰からなり、正に水墨画的な仙境を感じさせる秀峰である。この山は私の登山人生の中で、最初の一山となった山で、登山の面白さというものを垣間見るきっかけとなった山でもある。かなり以前の話になるが、豊羽鉱山行きの定鉄バスが札幌駅から出ていて、天狗岳登山口というバス停で降りた。当時は白井川に吊橋が架かり、ドイツトウヒの樹林帯の中に登山道が続いていた。条件的には比較的恵まれている山だったように思う。熊ノ沢コースと東尾根コースといった二つの登山道があったが、後者は年々崩壊が進み、現在では一般コースとは言えず、登攀が出来ないと通過できないコースとなったらしい。当時の私はまだ小学生だったこともあり、熊ノ沢コースでさえ、山とはこんなに凄いんだと思った記憶がある。初めての登山を経験させて頂いたOkad先生には40年経った今でも大変感謝している。

現在は1.5qほど手前の砕石場へ続く道路から入る。道路は除雪されていて、もう少し先まで車を乗り入れることも可能であるが、登山者としては出来るだけ余計なトラブルは避けたいところ、起点の道道に車を置いて歩くことにする。この日は先行者がいるようで、トレースが林道上に続いている。しばらく歩くと、以前の見覚えがあるドイツトウヒの林となる。この時期にこの山へ登る登山者は天狗平へ向かうのが普通であり、熊ノ沢コースより一本手前の沢へ続くトレースにそのまま着いて行く。両岸が立った狭い沢筋の左岸にトレースは続くが、小さな雪塊がひっきりなしに斜面を下っているのか、一見雪崩によるデブリのような光景が広がっている。

狭い小沢を抜けると定天・本峰が顔を出し、天狗平となる。中央ルンゼ、中央稜、ニセワラジルンゼが遥か頭上に見える。車窓から見た時とは違って、多少傾斜が緩んで見えるとは想像していたが、どうしてどうして、やはり角度がありそうだ。デルタフェイスを目指し、出来るだけ樹林帯の中にルートを取って登って行く。ルンゼから続く直ぐ横の斜面はブロック雪崩のデブリで埋まっていて、とても近づく気にはならない。少々の降雪でも直ぐに雪崩れているのであろう。そう考えるとこの山は、降雪後には絶対に入ってはいけない山と言える。

デルタフェイス下の樹林帯からは一気に標高を上げる。先行の二人パーティは中央クロアールに取り付いているが、難儀しているようだ。我々の目指す中央ルンゼは、この山の冬期バリエーションルートのエスケープ用として、よく下降で使われるルートである。登るぶんにはそれほど傾斜は感じないが、振返ると吸い込まれそうな急斜面が足元から落ち込んでいて、そこには車窓から見たルンゼが厳然と存在していた。ここは、後は振り返らないと自分に言い聞かせ、黙々と、しかも確実に登って行くしかない。雪は腐り気味で、アイゼンは直ぐに団子状態となり、いつもよりは心なしか深くピッケルを差し込む。アイゼンなしのキックステップの方が安定するようにも感じられるが、ところによっては硬雪交じりで、アイゼンの前爪だけはほしいところ。

一番傾斜があるところはわずか数十メートルくらいのものであろうが、そこの通過が実に長く感じられた。反面、快晴のこの日はルートがよく見え、久々に登る喜びが体感でき、登山をやっていて良かったと思える瞬間でもある。背後の景色も一歩ごとに立体的に変化するようにも見える。もし、悪天候で視界が利かず、雪などもちらついていようものなら、その暗澹たる状況に気持まで滅入ってしまうことだろう。場所によってはピッケルが半分くらいしか刺さらないところもあり、こんなところは素早く通過するに限る。急斜面を通過すると幾分傾斜は緩むが、頂上直下のコルが直ぐ近くに見えてもなかなか近づかない。最初に登った時の印象がトラウマとなっていることは山ではよくあることで、その山へ対する苦手意識というものが行動を萎縮させているようだ。

 コルに到着してやっと傾斜が緩む。頂上直下で、ここからは直ぐに頂上到着となる。何度か見た頂上展望だが、やはりこの日の展望には格別のものがある。思えば、素晴らしいが何かしらの苦手意識があった定山渓天狗岳に、積雪期でも登ることができたことへの達成感かもしれない。ここ数年の間に登り尽くした周辺の山々の大パノラマが広がっている。下りはルンゼとの真正面からの対峙となるが、30mザイル2本を用意しているので、何も恐れるものではない。コルからは5ピッチで前を向いて下れる斜面に到達する。途中、気温が上昇したことによるチリ雪崩が頻発し、そのザーといった音が何とも印象的であった。(2007.3.4)

【参考コースタイム】 砕石場道路入口P 8:00 → 天狗平 9:10 → スキーデポ地点(デルタフェイス下) 10:25→  定山渓天狗岳頂上 12:05 、〃発 12:40 → 天狗平 14:30  → 砕石場道路入口P 15:20

メンバー L.チロロ3(旧姓naga)marboさん、saijyo

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