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       漁岳(1317.7m) ・・・様茶平を経由して

なかなかの存在感を感じる漁岳

 1/25000地形図 「漁岳」「空沼岳」「札幌岳」「恵庭岳」

“あづまや広場”に車を駐める
枝尾根の雪渓を登るキンチャヤマイグチ氏
途中から望む「様茶平」
空沼岳を望みながら主稜線への緩い登りへ 三等三角点「様茶平」を発見
雪原から漁岳山塊を望む 雪原では狭薄岳も顔を出す

漁岳と言えば漁川本流からの沢登りや漁岳林道からの冬山登山など、四季を通じて賑わいを見せる道央の定番ともいえる山だ。今回は付近の山域に詳しいキンチャヤマイグチさんからの誘いで、999m峰「点名;様茶平 (サマチャンペ)」を経由、この時期ならではの北側から主稜線に乗るルートでこの山を楽しむことにした。このルートの特徴は、長いが景観が素晴らしいとのこと。

スタート地点は国道453号の奥漁橋、「あずまや」の建つ広場である。本流林道に入ってすぐに999m峰へと続く枝尾根に取り付く。一般的にはそのまま林道を奥まで進んで緩い斜面から登るようである。我々の選んだ取り付き斜面は急傾斜となっていて、斜面に残るざっと四割ほどの雪渓をつなぐいで上部へと抜ける。例年であればこの時期は未だ雪渓がしっかりと付いているそうだが、今年は残雪の量が少ないらしい。何とか上部までは登ったが、尾根上へと飛び出すところで藪漕ぎとなる。手をふさぐ持ち物はスキーとストック合わせて四つ、しかもプラブーツの靴底とあっては笹漕ぎも容易ではない。

尾根上の片側には雪渓が残っていて、再びスキーを付ける。途中、段差のある雪渓をうまく乗り越え、斜面でキックターンを…とその瞬間、体勢を崩して斜面をズリ落ちる。何とも情けない話である。小雪庇の段差でジャンプ、1回転して笹藪斜面に落ちたがなかなか止まらず、思わず笹をつかんで何とか止まった。考えれば気温が上がる前ということもあり、スキーのエッヂがしっかりとは効いてなかった。立ち木にぶつからなかったのが不幸中の幸いで、総じて雪面が硬かったための不注意な出来事だった。以後、しばらくはキックステップで慎重に急斜面を登ることにする。コンタ900mで本格的な雪庇の乗り越えとなる。ここを抜ければ稜線上へと上がり、後は歩くスキー程度とのこと。キンチャヤマイグチさんはこの場のためにステップを刻むためのピッケルを持参、彼にとっては勝手知ったるホームグランドといった感じである。

「様茶平」に山名はないが、札幌市街からは空沼岳と恵庭岳の間にちょこんと見えるいつも気になるピークであった。こんな形でこのピークを踏むことになるとは思ってもいなかったが、偶然にも晴天で、仮にここだけで引き返したとしてもこの日としては十分に満足できる。一番高いと思われる地点の樹木には赤布が巻かれ、登山者の間ではそれなりに登られているようである。私としては、やはり三角点ピークまでは行ってみたい。少々標高を落としながら進み、それ以上進むとぐんと下りとなる地点で苔むした「様茶平」を発見する。その三角点は雪原の中の藪が起き上がった一角に埋まっていた。山自体としては立派に1000mを超える様茶平だが、地形図上には幸か不幸か山名はない。仮に山名を付けるとすれば、やはりサマチャンペ山とでも呼ぶのが一番相応しいような気がする。月初めに空沼岳へ登った際、このすぐ下の山腹を巻く林道を使って金山林道分岐へと向かったが、こんな至近距離にこの山があったことについては全く気付いていなかった。

本格稼動したシマリス…こちらを窺っている
北漁岳は目前

様茶平からは主稜線へと向かって下って行く。次の小ピークを越えて1034m標高点を過ぎた辺りで、雪面に小さなシマリスが立ち上がり、こちらを見ている姿を発見する。冬眠から覚めて餌でも探しているのだろう。シマリスは臆病で神経質な性格の持ち主、彼が逃げ去るまでは私が待つことにしよう。遅い山の春ももそろそろ本格的に動き始めたということである。空沼登山の際に眺めていた稜線東側の見事な崖を右手に見ながら主稜線への緩く長い登りが続く。辺りは総じてなだらかな地形となっていて、主稜線上付近まで進むと樹木の少ない高原状の広大な雪原となる。気が付くと右手に見えていた空沼岳付近が後方へと移動、見事な山容の狭薄山を始め、札幌岳、さらには無意根山が雪原の向こうに顔を出している。道央付近のほとんどの山々が見えるとのことだが、この場においての山座同定など私には全く無意味で、この素晴らしい景観の真っ只中に居る幸せを満喫しているだけでも十分と思えた。

1157mピークの頂上周辺は既にハイマツが起き上がっていて近づけない。西側の緩い雪面で遠くに後方羊蹄山を望みながら一休み、コルへの下降へと入る。目指すコルと進行方向とは90°近くずれており、下方向の様子を探りながら下降する必要がある。視界が良くない場合には特に注意しなければならないポイントで、今回の山行中で最大のアップダウンである。スキーを滑らせても結構下る感じで、この先でそれ以上の上り返しが待っていることを考えれば何とももったいなかった。コルまで下って振り返ると、つい先ほどまでの1157mピークが一つの大きな名のある山とさえ感じられた。

遠かった漁岳がいよいよ間近に迫る。漁岳手前の大きなピークは北漁岳と呼ばれているらしい。少し離れたところに見えるコンタ1310mのポコが独立していて、こちらの方が北漁の名に相応しいような気もするが、山域の最高地点ということを考えれば、そんな名で呼ばれているのは頷ける。山全体で見れば、やはりこちらが本当の漁岳頂上である。右手に空沼入沢の源頭を見ながら左の1240mポコを巻くように進み、のっぺりとした北漁岳への斜面に入る。大きく北側に回り込めば傾斜は若干緩いかもしれないが、そのまま真っ直ぐに登った足跡も見える。どちらも大差はないのかもしれない。既に北漁岳の頂上付近のハイマツは起き上がっていて、東側に残る雪渓をつなぐように漁岳頂上へと向かう。途中からは三角点ピークからこの最高地点をも踏んで行こうとやって来たピークハンターたちのトレース跡が現れた。あとは雪渓の割れ目にはまらぬよう最後の仕上げのみである。

賑わいを見せる漁岳頂上 さて、いよいよ下り

漁岳頂上は賑わいをみせていた。若い頃から何度も訪れている見慣れた頂上だが、ここしばらくはご無沙汰しており、眺望の素晴らしさには新鮮ささえ感じられた。特にここから見る恵庭岳の姿が何とも格好が良い。小さな漁岳神社は健在で、トレビの泉ではないが以前に小銭を1枚置いた記憶がある。そのご利益かどうかは判らないが、健康を維持しつつ、再びここに来ることができたことには感謝しなければならない。頂上広場は登山者で混み合っているため、直下の雪渓に下がって大休止とする。

賑わいをみせていた頂上広場の登山者もそれぞれのグループごとに三々五々下り始める。全員がツボ足のグループ、我々と同じ山スキーの単独行者、中にはスノーボーダーもいる。そんな中で異色だったのが、プラスチックのフライパンのような尻滑り道具のみを持った中高年男性の三人組だ。しかも、三人が三人とも別々の色を持って現れた。思わず、よっ!“尻滑り三兄弟”と心の中で叫んでしまった。この秘密兵器が役に立ちそうな斜面は頂上直下くらいのもの、しかも途中で雪面に転がってしまった御仁もいる。この瞬間のためにわざわざこれを買ってここまでやって来たのかと思うと何とも可笑しかった。こんなのどかな光景が見られるのも残雪が消えるあとわずかの期間。以前の一般向けのガイドブックではあまり紹介されていなかった残雪期登山だが、北海道の登山者にとってはそれぞれのスタイルで自由に楽しめる一番の期間でもある。そんな楽しさが多くの登山者の間に受け入れられたのは自然の流れだったともいえるのだろう。(2012.4.30)

頂上からの眺め+α 

【参考コースタイム】奥漁橋(広場)P 7:10 様茶平頂上 10:10、〃発 10:15 漁岳頂上 12:45、〃発 13:35 奥漁橋(広場)P 14:50    (登り5時間35分、下り 1時間15分)

メンバーキンチャヤマイグチさん、saijyo

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