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      イユダニヌプリ(902m)

  

奥深いイユダニヌプリ山(奥)と伊由谷岳(手前)

    1/25000地形図「イユダニヌプリ山」「阿寒湖」 

釧北峠のパーキングエリアに車を停める。
出発してすぐに深い森林帯となる
約40分で送電線を通過
729m標高点への登りで初めて地形の変化が出てくる

賑やかな阿寒の山々とは対象的に、立派に対峙しつつも静かな山塊を形成しているのがイユダニヌプリ山と伊由谷岳である。奥深く、しかも標高が1000m足らずということで、単にこの山へ登ろうという登山者はあまり多くはなさそうだ。伊由谷岳には二等三角点「伊由谷岳」が埋まっており、平成16年には現況調査が行われていて、この時のものか「国土交通省」と書かれた黄色いプラスチック板が三角点のすぐ横に立てられていた。今回、広い刈り分け道も見られたが、こちらは現況調査によるものかどうかは判らない。点の記によれば足寄側・鳥取地区からの風達幹線道路終点からは約40分とのこと。何れにしてもこの幹線道路をたどりさえすれば、たとえ途中で藪漕ぎになったとしても短時間でこれらの山々のピークを踏むことができるのは確かである。ただし、こんなケースでは、面白さという点から言えば、つまらなかったという例の方が多いというのも事実である。

729m標高点への斜面を登る。背後に雄阿寒岳 途中から雌阿寒岳とフップシ岳も見える
途中の729mピークから望む伊由谷岳 ポコからは右に左に巻きながら733mコルを目指す

イユダニヌプリの名は松浦武四郎の文献にはじまり、足寄町史によればアイヌ語「杵を作る木のある山」とあるが、これは直訳に近く確かではないようだ。なかしべつ・すがわらさんのアイヌ語地名考掲示板によれば「杵山」では不自然で、萱野茂氏の辞典には「イユタニ・ノチュー」の記載があって、オリオン座中央部の三ツ星を意味しており、こちらの方がロマンチックですてきな解釈だと書いていた。三ツ星に当るのは伊由谷岳とイユダニヌプリ山、北西端の788mピークで、語彙の多さで特徴的と言われた美幌アイヌが、オリオンの三ツ星が登ってきて、それが夜中に南中する頃に地平線に対して斜めに見える。これを地上に投射するような形で三つの山が並んでおり、その様子を見てこれらの山々をそう呼んでいたのではないかとのこと。確かに私もこちらの方が納得できる気がする。

ユウ谷の沢川林道は相生の入口からしばらくは国道240号線と山ひとつ隔てて並走しており、地形図に記されている部分だけでも7km近くはありそうだ。途中で尾根を乗り越すというユニークな案もあるが、帰路での尾根越えは体力的にも辛そうで我々の選択肢とはならなかった。残雪期のこの時期を前提に正攻法を考えるなら、やはり釧北峠からのルートが最も成功率が高そうだ。とはいえ直線距離で6km以上、途中のアップダウンも考えればさらに遠い山であることに違いはない。前日の偵察で、峠付近のルートにかろうじて残雪が残っているのを確認、ゴーサインとする。

出発場所を考えて何ヶ所か駐車地点を探ってみるが、結局は釧北峠のパーキングエリアとする。まだまだマイナーなこの山、あいつらはいったい何をやっているのだろうといった通りすがりの車からのもの珍しそうな視線を感じるが、この時期のスキー、しかも一般的に知られている山が付近に見当たらないとあっては当然かもしれない。視線から逃げて雪渓上へ一歩這い上がると、いきなり奥深い森林帯の真っ只中といった感じとなり、すぐに山行本番のモードに頭が切り替わる。森林帯の中ではキツツキのドラミングが響き渡り、針葉樹の落ち葉や埃で汚れた雪面は辺りをかなり薄暗い雰囲気にさせている。

地形的に変化の乏しいただ広いだけの樹林帯では目標物にも乏しく、大まかな地形読みと細かなルート取りの両方を並行して行わなければとんでもない方向へと進みかねない。最初のしばらくはユウ谷の沢川の源流域で、全体的には谷地形が右側へ緩く下っている。枝沢の谷地形を横断して行くが、標高差にして10〜20m程度のアップダウンとなっている。できれば体力を少しでも温存しておきたいところで、左側の斜面を巻きながら標高を落さぬように進んで行く。いくつか緩い谷地形を巻き、何度か方向を変えているうちに進行方向がかなり怪しくなる。こんな時は自分の中にある冷静な部分と勘のみが頼りとなる。辺りの様子から641m標高点がある凸部の周辺にいるのでは…と感じたが、その直感は意図せず正解だった。直ぐに送電線が現われ、見ると地形図とぴったり一致していた。ちょっとだけ得られた自信だが、以後の読図には余裕となる。

チロロ2さんはさっさと伊由谷岳ピークへ
二等三角点「伊由谷岳」 意外に威力を発揮したワカン

送電線を通過すると、すぐに植林地に突入、かなり古そうなスキーのトレース跡が現われる。踏み固められた部分の雪が解け残り、形となって残っているようだ。ちなみにスノーシューの場合はヒグマの足跡との区別が付きづらく、臆病者の私はいつもどっきとさせられている。平らな樹林帯から抜け出し、やっと地形の変化を感じることができるのがコンタ640mから始まる729m標高点への登り斜面である。植林地となっているが疎林帯となっていて、この日始めて雌阿寒岳やフップシ岳などの展望を楽しむことができた。729m標高点でスキーをデポ、ここからはこの日一番の下りとなる。ここでの約100mの下りは、距離のある山行ではけっこうなプレッシャーとなる。雪渓が消えてしまったため、軽い笹漕ぎで620mコルへと下る。この付近は作業道や集材路が入り乱れており、無雪期であれば意外と簡単にここまで入ることができるのかもしれない。

733mのコルまでには小さなコブが三つあり最初のコブへは集材路を利用して登る。次のコブは右側を巻くが、ツボ足ではアリ地獄のように埋まってしまった。一歩一歩に四苦八苦、山行中で一番ピークが遠く感じられる場面だった。ワカンを持っていったので、これを使うことも出来たのだが、スノーシューとの比較で今ひとつこの道具を信頼していなかったこともあり、結果的に余計なエネルギーを使ってしまったようだ。(途中からはワカンを使用、この道具の有用性を実感する)

733mの広いコルを通過、長かった道程もいよいよ佳境となる。広い針葉樹林帯を登り、コンタ820mポコを巻くように810mコルへと入る。ここから伊由谷岳へは笹薮を避けるように雪渓をつなぎながらダケカンバの疎林帯をひと登りである。肩まで登ると視界が大きく開け、反射板が目と鼻の先に見える。新ピークを踏む瞬間の感慨をあれこれ考えている私を尻目に、チロロ2さんはさっさとピークに行ってしまった。結局、私も引きずられるように伊由谷岳の三角点を踏んでしまう。おかげでこの瞬間の感動は何もない。チロロ2さんは景色を楽しむ間もなく次のピークへと出発してしまう。  

最終目的地点・イユダニヌプリ山へはさらにアップダウンがあるが、残雪期特有の安定した雪庇の上を快適に飛ばす。ここまで来れば精神的な負担がグンと軽くなり、足取りもかなり軽く感じられる。伊由谷岳とイユダニヌプリ山、コルに立って両者を見比べると、伊由谷岳は北側が崖となっていて中々険しい感じである。一方、イユダニヌプリ山は一面笹に覆われて険しさなどは全く見当たらない。「岳」と「山」の違いはこのへんにあるのだろう。最後は北斜面の雪渓から回り込んで釧北峠から4時間20分で頂上に立つ。細長い頂上部の一番高いところを探し出して頂上とした。夏の沢登りなどを考えれば要した時間はさほど長いとはいえないが、途中までは登る山自体が何も見えず、読図に要した時間と先が見えない状況に余計な距離感を感じてしまったのかもしれない。頂上から振り返るルートの全容は、さすがに実際にかかった時間よりはかなり短いものであった。(2010.5.3)

伊由谷岳は意外な険しさがある
イユダニヌプリ山はのっぺりとした山容だが、山塊の最高地点である
4時間20分ほどかかってイユダニヌプリ山の頂上に立つ 背後には通ってきたルートと阿寒の山々が広がっている

前日、雌阿寒岳から見たイユダニヌプリ全景

【参考コースタイム】釧北峠 P 7:10 送電線 7:55 729mピーク 9:05 伊由谷岳 11:05 イユダニヌプリ山頂上 11:30、〃 11:55 伊由谷岳 12:15   729mピーク 13:40 送電線 14:45 釧北峠 P 15:30     (登り4時間20分、下り3時間35分)

メンバーsaijyo、チロロ2

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