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       岩内(1497.8m)

 1/25000地形図「札内川上流」「岩内川上流」

六の沢出合付近の河原
ゴルジュの通過は慎重に
「しんぱくトンネル」前にて出発準備
「しんぱくトンネル」を抜けて、さてこれから…
Ko玉氏、自転車にて登場! …実にユーモラスだった

  盟友のKo玉氏が日高山脈全山登頂の中で唯一残っていた山が、中札内村と帯広市の境界に位置する岩内岳(1497.8m)である。もちろん登山道などはなく、どのガイドブックにも登場しないそれなりにマイナーなピークだ。ただ、ネット情報が乱れ飛ぶ現在ではWebの検索にも引っかかるようになり、登山の対象として徐々に認知されるようになってきたようだ。日高全山の山々についてだが、点名が何らかの要因で地形図上に山名として登場したケース、地元で以前から山として認識されていたケース、岳人の間で愛称として定着した名称など様々であるが、これが日高の全ての山といったリストは特段あるわけではない。であるから、ひとえに全山登頂といってもその基準に差があるのは致し方ないところと言える。その中でのKo玉氏の“日高全山”は密度が濃く、少なくても私の知りうる限りでは他の追従を許さないレベルと言えるだろう。

岩内岳へのルートとしては西側の札内川六の沢と東側のウエダノ沢が考えられるが、Ko玉氏の日高最後の一山でもあり、アプローチに難はあるが、確実性を取って札内川から登ることで計画する。二年ほど前に今回目指す岩内岳か新冠湖奥の保留寒山にするかで迷ったことがあった。この時は不安定な天候での札内川の渡渉は嫌だったので、登りやすそうな保留寒山とポキャップ山をセットでやる二日間とした。現在は新冠ダムより先へは入れず、先に保留寒山に登っておいたのは正解だったと思っている。こんな小さな運・不運にも左右されるのが全山登頂の難しさでもある。岩内岳の情報としては、道内1000m全山登頂を果たした八谷和彦氏から、シカ道利用が出来るとの情報をもらっていたのが何よりも心強かった。

9/22】

 以前にこの札内ダム付替え道路を訪れたのは三年前、この時には道路終点のゲートまでの車の乗り入れが可能だった。現在は札内ダムの「しんぱくトンネル」入口にゲートが設けられ、それより先には車は入れない。次の8号橋「雷の下橋」の地盤がずれて、車両通行止めとなっているからである。ゲートまでに八つのトンネルを潜り、さらに六の沢出合までは砂利道と、約10kmもの道路を歩かなければならなくなった。昼間とはいってもトンネル内は真っ暗、不気味といえば不気味である。有名どころのカムエクやコイカクなどへ行くにも同じアプローチとなり、登山ブームといわれる現在、この不便さには早急な対応が望まれるところである。

 今回はKo玉氏の全山がかかった特別な山行とあって、テン場組も含め13名もの参加となる。これだけ大勢の参加ともなれば賑やかで、あれやこれやと話をしているうちに距離はどんどん縮まって行くから10kmという距離感はあまり感じない。一人であればこの距離は辛いかもしれない。砂利道に入って「アカシアトンネル」を過ぎたあたりで今回の主役であるKo玉氏と、2時間遅れで安平を出たエバさんが自転車に乗ってやって来る。やはりこのアプローチに自転車はかなり有効ということだろう。マウンテンバイクのエバさんは格好良く走行していたが、Ko玉氏は安価な折りたたみ式、だらしないパッキング姿でよたよた走っていた。こんなユーモラスな格好が彼のオチャメさで、人気の秘密ともなっているのだろう。釣り人はミニバイクなどで乗り入れていて何とも羨ましく感じられたが、体力第一の山ヤとしてはこのくらいの距離を歩くことは当然と考えることにした。

無事、テン場に到着 さてさて、焚き火 …marboさんのサイトから借用

   心配していた札内川の水量は意外に少なく、難なく渡渉することが出来た。翌日にまとまった雨が予想される時などは間違ってもこれ以上奥へは進めない。出合からは以前にこの山を目指し、時間切れで止む無く撤退したという山ちゃんが先頭に立つ。残暑が続く秋とは言っても秋の陽は釣瓶落とし、ゴルジュを通過するあたりではかなり薄暗くなってきた。ゴルジュは右岸側をへつることになるが、水量は少なく、たとえ落ちたところで大事には至らないと感じた。ただし、これからテントで寝ることを考えれば、できれば濡らしたくはないというのが本音、慎重にここを通過する。先行したメンバーは、そこからわずか進んだ左岸側の広い河原をテン場に決めていた。少し小高くなっている平地にテントを張れるのが良い。この付近は以前からヒグマの出没が目立っているらしく、流木を集めて焚き火とする。明日の岩内岳へのルートは南西側の緩い沢形である。行動時間中の日没は覚悟の上だが、少なくても暗くなるまでには林道まで出ていなければならない。大人数ということもあり、4時半起きの6時発とする。とはいっても10km以上の道程を大量に担いで来た酒はたっぷり、焚き火を囲んでの山談義は酒がなくなるまで続く。

 【9/23】

  岩内岳は全員が始めてということもあって、出発時間前には準備完了。予定通り6時少し前にはキャンプ地を後にする。直ぐに両岸が迫ったゴルジュ地形となるが、最初のゴルジュのような嫌らしさはない。とは言え、ここも水量がある時には通過が難しくなることは言うまでもない。沢の両岸は広い樹林帯となっており、シカ道も発達しているので、河原の石をつないで行くよりはシカ道を利用した方が楽ではある。進む方向には高い稜線が急峻な斜面を河原へと落としており、主稜線から外れているとはいえ、日高山脈が見せる独特の景観には圧倒される。テン場から40分で南西面へと続く沢の出合となる。薄暗い鬱蒼とした樹林帯の中、大岩がゴロゴロと立ち上がっている枯沢が目指す南西面の沢である。ここ数日間の渇水状態を差し引いても伏流となっているのは明らかだ。

シカになった気分でシカ道をたどる
一瞬見えたカムイエクウチカウシ山
いよいよ頂上直下
二つ目のゴルジュとKo玉氏 岩内岳南西沢出合はすぐそこ
南西沢は伏流で、大岩が積み重なっている 550m二股から見た最初の大滝 (これは写真右側シカ道へ)

 大岩の中もルート次第では快適に登って行くことが出来る。中には本格的に“岩登り”といった感じのところも出てくる。むしろ、何もない歩くだけの登りよりは、全身を使った登りの方がそれなりに充実感を感じさせてくれて楽しいものである。出合から約30分で水流が現れ、550m二股到着となる。出合とは打って変わり、大きく開けていて明るい場所だ。目指す左股はスラブ状の大滝が立ち上がって見える。さすがに日高の沢である。近づいて見ると登って登れなくはないように感じる。山ちゃんとmarboさんは直登を試みているようだが、当のKo玉氏は最初から巻きに入っている。八谷氏の情報から、昨夜の焚き火を囲んでのミーティングで「一人ひとりがシカになったつもりでシカ道を探してほしい」と頼んだが、シカ道の発見こそがこの日に登頂できるかどうかのポイントとなる。

  大滝はつかみどころがなく、途中からは少々嫌らしいとのこと。ザイルを降ろして彼らには巻き道へと逃げてもらう。沢の楽しみ方としてはつまらないかもしれないが、Ko玉氏の登頂こそがこの日の目的。沢を行くよりは巻いてでも先に進んだ方が良いだろう。ザイルを回収してメンバーの集合地点へと上がってみる。あたりは何やら既にシカ道となっているようだ。私の気持としては「やった!」という気分、上手い具合にシカ道に乗ることが出来て本当に良かったと思った。おそらく、八谷氏が言っていた小尾根上のルートへ乗ったのだろう。シカ道は急傾斜ではあるがしっかりと続いている。ところによっては潅木の枝を手掛かりに攀じ登るところも出てくるが、九分九厘は成功できるだろうと確信する。

 途中、岩壁が現れたりで、オッ!と思う場面も出てくるが、先頭を進む山ちゃんグループはそれを難なく横から巻いて尾根上へと抜けて行った。岩壁は三ヶ所程度は現れたように記憶している。また、カムエクやピラミットのビューポイントが1ヵ所、後の天気の保障はないので、すかさずデジカメに両山を納める。さすがに藪慣れしたメンバー揃い、ここがポイントと思われる地点には次々とピンクテープが打たれて行く。頂上の肩に到達した頃から天候が怪しくなり、視界も利かなくなってしまった。日頃のKo玉氏の行いのためか…とも思ったが、そもそも彼にとっての展望など、頂上を踏むという事実から比べれば付録のようなもの。肩からも意外に長く感じられたが、進んで行くうちに、この上が間違いなく頂上という地点に到達する。Ko玉氏にはちょっと待ってもらい、全員が頂上に到着してから彼を拍手で迎えることにする。その中を照れながら登ってくる彼の顔が何とも印象的だった。

 下りは往路で見つけたカバノアナタケを取りながら下るが、それでもやはり速い。途中、私も先頭に立ってみたが、登りと下りがで同じルートを使うことがあまりないためか、どうにも勝手が違う。30mほど左の斜面にずれてしまったが、すかさず修正が入るあたりはさすがに藪慣れした集団とGPS普及の利点といえるだろう。ほとんど何も問題なく550m二股へと下る。ここからの下り、ずっと気になっていた岩登りのような岸壁、ここは懸垂の支点が取れないのでは? と心配していたが、心配をよそに、すぐ横の斜面から歩いて下ることが出来た。再びキャンプ地への河原歩き、樹林帯の中のシカ道を利用して進む。一人ならヒグマが気になって、とてもこんなところはのんびり気分では歩けないだろう。

三等三角点「岩内岳」と金麦
Ko玉氏の日高全山完登を記念して…岩内岳頂上 三等三角点「岩内岳」と金麦

  速やかにテントを撤収、林道へとたどり着いた頃にはかなり薄暗くなってきた。無事帰着のホッと感からか大休止となる。道を歩くだけなら真っ暗でも全然OKという感じである。しかし、止まっていては10kmの道程は縮まらない。少しでも前に進もうと自転車ペアを後に順次スタートする。私は後からのスタートだったが、途中で徐々に遅れ始めた盟友のチロロ2さんと合流、自転車ペアはすぐにその横を抜き去って行った。チロロ2さんは後ろにまだ誰か居るものと勘違いしていたようだが、完全に最後尾。途中で真っ暗になり、正に「日暮れて道遠し」状態となる。人生とはこんなものと考えつつ、延々と続く道路をひた歩く。チロロ2さんの「Ko玉企画には二度と乗らないぞ」は何時もの捨て台詞。今回もまた、散々疲れたのだろう。やがて舗装道路となり、トンネルに入ると先行メンバーの声がワンワンと反響して来た。そんなには離れていなかったようである。そのうち、ヘッドランプが近づき、見ればエバさん。チロロ2さんの荷物を取りにわざわざ戻ってきてくれた。札内ヒュッテ前では全員が我々の到着を待っていた。Ko玉氏はヘッドランプの調子が悪いとか何とか、よく判らないことを言っている様子。チロロ2さんに自分の自転車を渡すための彼独特の粋な計らいか…? 素直でないKo玉氏にとっては可能な限りの誠意の表し方だったのかもしれないが、これでは「そうかKo玉さんも自転車のやり場に困っていたのだな…人助け、人助け」と私なら思う。ともあれ、最後の「しんぱくトンネル」通過の途中、ゲートの赤色灯が見えた瞬間は、さすがにホッとして全身の力が抜けてしまった。

 Ko玉氏にとっての日高は、番外編も含めてこれで全て終わったが、これが日高の全山という明確なリストが無い以上、まだまだ落穂でも拾うように、これも“日高”という山は登場して来るものと思われる。それを“山”と呼ぶかどうかは人それぞれだが、全山を名乗るからにはその精度をさらに高める必要性に迫られるケースは出て来るだろう。協力者の一人として、世間の人間誰が見ても彼のものは完璧だと認め続けられる全山であってほしいと願っている。(2012.9.22〜23)

登頂を終えて、再びゴルジュを下る

登頂を終えて、再びゴルジュを下る

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「ゆっくり歩きで低山を楽しむ」山ちゃんのページへ

「エバ夫婦の山紀行ログ」エバさんのページへ

「YOSHIOの北海道山情報」のyoshioさんのページへ

【参考コースタイム】(9/22) ゲート前 P 13:00 六の沢出合 15:40 → 六の沢・テン場 16:50

(9/23) 六の沢・テン場 6:00 → 岩内岳頂上 11:10、〃発 11:30 六の沢・テン場 15:00 六の沢出合 16:40 ゲート前 P 19:10  

メンバーKo玉さん、エバさん、山ちゃん、yoshioさん、kitaさん、tacchiさん、hujimotoさん、tomoちゃん、marboさん、saijyo、チロロ2 (C1まで参加) kurikiさん、あのQさん

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