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      平峠(794.3m) 

1/25000地形図「稲倉石」 沼」

イタドリの花も今がそのときとばかりに咲き乱れている
地形図上の岩平峠ポコ頂上にて
発足側も途中で施錠されている
鬱蒼とした藪中で一休憩
源頭部でも水流は切れず、鬱蒼とした雰囲気は変わらない

  積丹半島西部に岩平峠という山がある。峠といえば大抵は道路が走り、稜線上の鞍部に位置しているのが普通だが、ここには道路や歩道どころか、獣道さえも見当たらない。「峠」の文字は付いているが、藪山そのものである。頂上に設置された三等三角点の点名が「岩平峠」となっているため、そのまま山名となったようであるが、どこかに古平方面へとつながる古の山道があり、岩平峠という交通の難所があったと考えたいのは私一人ではないだろう。山域を通過する道道569号 蕨台古平線(古平町〜共和町)は未開通であり、仮にこの道路が開通したあかつきには「岩平峠」も実現する可能性はあるが、昨今の社会の風向きを考えれば現実的な話しではない。ともあれ、地形図上の岩平峠は半島の主稜線上に位置し、読んで字のごとく岩内地区と古平地区の境界を成す立派な山である。

  以前から気になっていたこの山、どうアプローチを選ぶか、沢シーズン開始から今ひとつ気持が乗り切っていない自分としては選択が難しかった。ルートは二つある。一つは茅沼市街から玉川沿いに進む北からの短いルート、もう一つは南側の発足川沿いのそれよりは長いルートである。とりあえずは北からの短いルートを選ぶが、林道が早々に施錠されており、何キロもの林道を歩かなければならず、簡単に敗退となる。南側からのルートである発足川沿いの林道も途中で施錠はされているが、それなりには近づくことができる。思っていたよりは鬱蒼とした感じの林道であるが、1km強の林道歩きで目指す入渓地点に無事到着する。入渓地点の橋(下を直径3mくらいの金属管が通っている)からは背丈以上に繁った雑草を掻き分けて川原へと下る。発足川の水量は意外に少なく、鬱蒼とした雰囲気をより際だたせているようにも感じられる。流れの中の苔むした岩石は不安定で、沢自体が小規模な割りにはかなり歩き辛い。シダ類が邪魔して、足の置き場が見えずに何度もバランスを失いかける。先頭は帰路も考え、覆いかぶさったイタドリや大きなフキを手で倒しながら進むが、イタドリの花が真っ盛りのためか、気が付くと白い細かな粒が体中に張り付いている。花粉のためか、くしゃみも止まらない。すっきりとしない細く長い流れが続いている。

 コンタ330m付近で急に水量が少なくなり、さらに進むと完全に水流が消えてしまった。一つ目のコンタ300m二股はしっかり確認しているため、間違ってはいないはずであるが、ひょっとしてどこかで枝沢にでも迷い込んだのではないだろうか…? 歩を休め、地形図を取り出してしばし検討するが、先頭を歩くKo玉氏は決して間違ってはいないとのこと。仮に間違えたとしても、仮定として考えられる沢形も頂上へは向うはずである。結局、どう転んでも頂上方向へ進んでいることは確かであり、そのまま進むことにする。少し進むと俄に水流が現れ出し、伏流となっていたことが判る。Ko玉氏曰くは谷地形がしっかりしており、地形図上で見ても目指す沢筋からは外れていないとのことであった。このへんの微妙な判断は、人知れない幾多の沢歩きを重ねて収得した、Ko玉氏特有のものであろう。

 水流が再び現れてしばらくは、シダやヤチブキ、イタドリやフキといった“お馴染みの面子”が顔を揃える探検まがいの遡行が続く。地形図上の水線が切れる辺りで1m程度の滝が現れ、その頃から徐々に傾斜が増してくる。なかなか流れが途切れないのは涼が欲しいこの時期としてはラッキーなことだといえる。時折、動物によるものと思われる、フキなどの植物を食い荒らした痕が見られるが、私はシカによるものと見るが、Ko玉氏はクマではないかとのこと。今は函館在住で、クマの密度が濃いとされる道南の山域を歩き回っている氏としては、そう考えるのが日常的なのかもしれない。

 傾斜が増して小滝が連続して現れるが、どれも1m程度で、段差といったほうが良いのかもしれない。水流が消えて、いよいよ藪漕ぎかと見上げると、踏跡のような形跡が目指す地形図上「岩平峠」と記載されているポコへと続いているように見える。さっそく入ってみるが、期待に反して直ぐに途切れ、後はやはり深い深い藪漕ぎでとなる。頂上付近にはガスがかかり、風が吹き抜けているようだ。対岸の三角点頂上も上部がガスに消えている。かなり急な斜面を笹につかまりながらしばらく登り、大きな樹木のあるポコの上に立つ。岩平峠頂上は全く藪の中で、とても頂上といった感じではない。下界は夏日だというのに、濡れた衣類に吹き抜ける風は冷たく、長居は無用である。目指す頂点はもう一箇所、三等三角点「岩平峠」である。距離にして360m、再び深い藪漕ぎのスタートである。

苔むした三等三角点「岩平峠」、長い年月、だれも来ていない 岩平峠頂上にて

 先ほど対岸に見えた三角点頂上は霧のためか、かなり大きく遠く感じたが、ここは一歩一歩着実に歩を進め、少しずつでも近づいて行く以外に手立てはない。ポコを出て約50分、緩い斜面の上が頂上と思われる地点まで近づく。周辺には太い根曲がり竹密生していて、夏場にこの山を目指す登山者など絶対にいないと断言できる。ただし、沢中で一箇所だけ標識を見たとチロロ2さんが言っていた。ひょっとして、広い世の中には同様の変わり者が他にもいるのかもしれない。一番高い地点で恒例の三角点探しを開始するが、1分も経たぬうちにKo玉氏の「あった!」との声。一見、苔の塊にしか見えないが、確かに苔の下には三角点が隠されている。しかも、一番高い地点からは少し離れている。“三角点の臭いが判る”と言われているKo玉氏、どんな状況でも全くおかまいなしで見つけてしまうから驚きである。

 下山は頂上から藪尾根を下降し、コンタ330mの伏流の辺りまで一気に下ろうと考えるが、出発して間もなく東側へ回り込んでしまった。乗っている尾根自体を取り違えてしまったようで、何度か修正は試みるが、結局、登りの時に沢を離れた地点から、わずか距離にして100mほど下流へ下ったに過ぎなかった。ただし、ある程度下降してしまった場合は、あまり悪あがきをせずに素直に沢へ戻った方が時間的にはるかに速いし、効率もよい。以前に悪あがきの末、結局7時間もの余計な藪漕ぎを強いられたことがあったが、残ったものは虚脱感のみであった。

 林道へ出て、一息ついて車へ戻る途中、ヒグマの大きな糞が二箇所。山中の食い荒らしについては、Ko玉氏の見解が正解だったようである。距離にして2Km程度の短い沢ではあるが、鬱蒼とした雰囲気や歩き辛さなどは、実際の遡行距離以上にずいぶんと長く感じられるものである。糞に気が付いたのは下ってからで、私としては山行途中でのヒグマへの余計な気遣いなしで過ごせたことはラッキーであった。(2008.7.13)

【怪 我】

 三角点から数十メートルの竹薮で、誤って竹で目を付いてしまった。下瞼に竹の破片が突き刺さり、けっこう出血したが、仮に1cmほどずれていた場合、どうなっていたことか…想像しただけでも身の毛のよだつ思いである。生きている竹は見えやすいが、古く枯れた自分に向ってくる竹は全く見えづらい。それでも反射神経がしっかりしている若い時であれば、上手くかわしていたのかもしれないが、50歳を越えた今となっては、今後の藪漕ぎではそれなりの対策が必要と感じた。水中眼鏡、防護眼鏡など、いろいろ考えられるが、とりあえずは100円ショップでプラスチックレンズの伊達眼鏡を買ってみた。ゴムで落ちないようにして、次回の山行ではさっそく試してみようと考えている。

【参考コースタイム】発足川・林道ゲート 6:55 入渓地点 7:25 岩平峠・標記頂上 10:50、〃発 11:00 岩平峠・三角点頂上 11:50、〃発 12:25 入渓地点 15:20 発足川・林道ゲート 15:35   (登り・標記頂上まで 3時間55分、下り・三角点頂上から 3時間10分、※各地点での休憩時間含む)

メンバー】Ko玉氏、saijyoチロロ2

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