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    入布山(954.1m)・文珠岳(824.4m) ・・・ 一度は諦めかけた山

 

文珠岳から見た入布山

1/25000地形図 「仁宇布」「雄木禽 

高広パーキングが取り付き地点の目印
17線沢林道からの尾根取り付き地点
目の前に岩峰が現れる

平らになった尾根上、Ikkoさんの足跡が続いていた まだまだ入布山は遠い

 入布山と文珠岳は標高こそ低いが、この地域特有の広い裾野を持つ大きな山だ。入布の名については、本来はニウプ、つまり「仁宇布」で、町史によれば仁宇布岳が本来の山名だった。国土地理院が間違えたのか、仁宇布山と区別するためにそうしたのかは判らないが、読み方だけが一人歩きして「いりふやま」と呼ばれていることが多い。一方の文珠岳については調べがつかなかったが、近くに知恵文という地名があり、日本人であれば誰もが知っている「三人寄れば文殊(珠)の知恵」という古事成語から成り行き上そう呼ばれるようになったように感じる。あくまで私の想像ではあるが・・・ ちなみに知恵文は和名ではなく、アイヌ語の「チエプ・ウン・トウ」(魚の沼、あいは鮭の入る沼)に由来するそうである。

前方のスカイラインを越えると入布山の頂上は近い

  今回、この2山には初っ端から苦労させられた。googleの航空写真でアプローチを考えたところ、辺渓地区からの林道が三渓の横を通過して入布山の深くまで明瞭に入っており、ある程度は車で入れるものと思っていた。ところが、実際に入ってみると、すぐに積雪によって通行不能、距離を測ってみると文珠岳まで踏破するとなると片道約13kmとの結論となる。日が長くなったとはいえ、さすがに往復30Km弱では萎えてしまう。であればと、裏からの可能性を探って移動することにした。だが、アプローチとなる右の沢川は雪に閉ざされており、道道にはゲートがあって近づくことすら出来なかった。結局、この日は別の山(高広山〜沼岳)へと計画を変更した。

 美深の道の駅で翌日の山行を考えていたが、Ikkoさんから最短距離で考えたらどうかとの提案がある。確かに目からウロコだった。そもそもは林道ありきの計画立案であったため、尾根からのスタートという考え方はまるでなかった。ただ、西側のアプローチしか考えていなかったので肝心の地形図がない。取り付く尾根の様子が判らなければ検討のしようがない。GPSでは部分しか見ることができず、全体的なものを見たい。考えた末、スマホで国土地理院のWebサイトから付近の地形図を探し出すことにする。ゆっくりとダウンロードされた画像を見て・・・ 行ける!見た瞬間の印象である。トロッコ専用線の西側の基点(高広パーキング)から入って、少し奥まった小尾根に取り付く。小尾根は少々急かもしれないが上部からは正しく最短ルート。季節的なもの、積雪の状態を考えればこれが正解と思えた。

入布山の頂上 ザックを置いたあたりが三角点の位置

コルから文珠岳への登りに入ったIkkoさん

  入山口の17線沢林道は完全に積雪に埋まっていて、先ずはスキーを付けて順調にスタートをきる。尾根取付きまでは少々の林道歩き。見ると尾根上は概ね雪渓でつながっており、傾斜が緩むコンタ490m付近まではスキーを外してツボで登れば良い。先行するIkkoさんはツボ足、いつものように快調なペースで徐々に離れて行く。私はスキーを杖代わりにキックステップで少しずつ標高を稼ぐことにする。今日の山行は長丁場となるので、私としてはマイペースを堅持しつつ、体力と相談するより他にない。

 今回のような急尾根は急斜面と緩斜面の繰り返しとなるが、取付きから三つ目の急傾斜で小岩峰が出てきたのは予想外だった。後でじっくり等高線を見たところ、ここの一本が微妙にくびれた形で表現されていたのだが気付かなかった。地形図の等高線というのは表現のしかたがけっこう大雑把で、等高線自体は正確なのだが、見る側がその線が示す微妙さを見落としてしまうと、いきなりの岩壁で行く手を塞がれてしまうことも珍しくはない。Ikkoさんの足跡は小岩峰の隙間の雪渓から上部へと抜けていたので、私も同様に通過することにした。この程度だったので、ある意味ラッキーだったとも言える。次の急斜面は右に回り込む形で稜線上へと上がる。ここまで登ればあとは緩斜面、スキーでもOKとなった。

 584m標高点を過ぎたあたりからは、尾根上というよりは平地といった方が相応しいくらいの広くて平らな雪原が広がった。樹林は若木が多く、緯度のせいか原生林が既に伐採された跡なのかは判らないが、辺りの見通しはかなり良い。真正面には目指す入布山のピークが見えるが、まだまだ遠い。焦ったところでしょうがない、ここは変化のない広い雪原と諦め、ただ黙々と進むのみである。遠くに見える対象物はどんなに進んでも変化がないように感じるもの。だが、ある時点からは急に近く感じられ、気が付けばその斜面上に達していることが多い。見た目の距離感とは怪しいもの。黙々と進んで行くうちに入布山の頂上部が判らなくなる。GPSをのぞいて見ると、既に1kmを切っていた。ひょっとして見えていた斜面上を歩いているのかもしれない。

 ふと見れば先行したIkkoさんが、距離はあるが右前方を進んでいる。既に入布山の頂上で待っているものと思っていたが、それほどの時間差はなかったようだ。斜面の傾斜も少し増して登高感が感じられるようになった。ピークの近さを感じる。目で追っていた白いスカイライン上へ到達すると、反対側の景色が見えた。いよいよだ! GPSの表示ではピークまであと300m、正に射程圏である。一度は諦めていただけに、嬉しさも一入、逸る気持を抑えつつ前進。最後は大きく左側へ回り込んで先に到着したIkkoさんの待つ入布山頂上に到着となる。辺りよりは少し凸地形で笹が部分的に顔を出していた。真ん中あたりに二等三角点「入布山」が埋まっているはず。標石は雪の下だったが、GPSで位置の特定を行う。回りの眺望は言うまでもなく抜群である。この山域では山座同定が出来るほどの知識がないのが残念なところ。かろうじて指呼できるのはシアッシリ山や函岳、昨日登った沼岳くらいのもの。自分的には青い空とぐるり白い山、こんな絶景を堪能できるだけでも十分に満足だった。  

 さあ、次は文珠山へ向かわなければならない。文珠岳の上の空間には天塩山地の名もない山並みが見えているので、こちらと比べれば標高が低いのは明らかである。この山とのコルへは250mほど下らなければならず、ここから頂上までの距離も4km弱はある。行きは良いとして、帰りは考えただけでもつらそうな感じ。スキーのよさは当然下りの速さにある。ところが、入布山頂上をスタートして、なぜか滑りづらい。ちょっと気を抜くと転倒してしまいそうになる。数日前には道内各地で季節はずれの雪となり、この山域も新雪で綺麗に雪化粧された。この時期に積もった雪は、見かけは真っ白だが、ザラメと比べればかなりスキーとの相性が悪い。これがミックスされた場合、急にブレーキが掛かったりするので注意が必要だ。転倒しないよう慎重にコルへと向かう。そうは言っても、やはり下りは速い。

この日の終着地点の文珠岳頂上はこんな所

 コルを歩いていると遠くでスノーモビルの轟音が聞こえる。こんな静かな山に彼らは似合わない。彼らはあっという間に我々の前を通過して行くが、とにかくやかましい。再び静けさを取り戻し、仕切り直しで文珠岳への登りに入る。コルからは急斜面となるので、シールを付けていない私は北側から回りこんで頂上台地上へと乗る。乗ってしまえばあとは真っ直ぐ南進するのみ。しばらく歩き広い雪面上に到着、GPSで文珠岳頂上を確認する。たどりついたのは何の変哲もないところで、眺望などまるでないダケカンバの前だった。だが、目的完遂という意味では重要な一地点。入布山では撮影のみだった金麦をここではやっつける。美味い! 私の山行がここしばらく低迷気味だったこともあり、今回の二山は正直嬉しい。起死回生のこの二山に乾杯! そんな気分だった。

 「あちらで休みましょう」とIkkoさん。少し頂上から離れはするが、Ikkoさんについて行った。180°の視界に高くて大きな入布山が広がっていた。景観としては圧倒されるものがあり、素晴らしいの一言に尽きるかもしれない。だが、私にはこの大物を再び登り返さなければならないというプレッシャーの方が頭の中いっぱいに広がってきた。さて、ゆっくり戻るしかないか・・・(2016.5.3)

参考コースタイム】17線沢林道入口 P 7:20 → 入布山頂上 9:40、〃発 10:00 文珠岳頂上 11:05、〃発 11:30  入布山頂上 13:00 17線沢林道入口 P 14:10   (文珠岳まで 登り3時間25分、下り2時間40分)    

メンバー】Ikkoさん、saijyo

 **山行写真(Ikkoさん提供)**

コンタからは読めなかった小岩峰が出現

広く平らな雪原  入布山はまだまだ遠い

 

登高感を感じるようになると背後に大パノラマが広がる   沼岳・高広山方面を望む

 

シアッシリ山はやはり存在感がある

一歩遅れて斜面を進む私

入布山頂上から望む函岳(左)と熊野山(右のコブ)

入布山から見た文珠岳  背後の天塩山地の山々が印象的

文珠岳へのコルから函岳方向を望む

  

文珠岳から望む入布山

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