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  百松沢山(1043m)・・・札幌にあって、意外に知られていない山

美園・佐々木内科から望む百松沢山と烏帽子岳

/25000地形図「手稲山」

 百松沢山は190万都市札幌の景観にとけ込む誰でも何時でも目にしている山であるが、この山の名前や素晴らしさを知っている札幌市民はほんの一握りと言える。子供の頃、札幌駅横の西五丁目通りは陸橋となっていて路面電車が走っていたが、そこから望む百松沢山は子供心にも一際立派であり、未知への冒険心を十分に描き立ててくれる存在であった。当時、父からは三段山と聞いていたが、“三段”の響きには藻岩山や円山にはない奥深さがあった。定山渓側の百松沢の名がこの山の山名となったようであるが、慣れのせいか三段山の方が未だに私としてはしっくりくる。“百松”の名が人物なのか付近に多いエゾマツやトドマツを意味するものかは定かではないが、松材の産出が多かったということから推測して、後者に分があるようである。ただし、源八・常次さんとくれば百松さんが居ても決しておかしくはないというのも事実で、ひょっとしたら「源八沢山」「常次沢山」となっていた可能性も十分に考えられる。(さっぽろ文庫・@「札幌地名考」北海道新聞社刊、参照)

宮城沢沿いの林道は札幌市内とは思えない静かさがある
南峰から望む百松沢山本峰
南峰から望む神威岳は尾根上のコブにすぎない
排雪場への道路脇に車を停める
道東の熊ぷ〜さん&エル嬢、札幌の山へ進出
南峰から望む烏帽子岳

1038mという標高は手稲山よりも高く、南峰と本峰との均衡がとれた形の良さは安定感のある美しさを感じさせてくれる。南峰は標高も1043mと高い上、ピリッとしまった山容は三角点こそないが百松沢山の頂上と呼ぶにふさわしい。登山ルートは積雪期であれば宮城ノ沢ルート、源八沢ルート、無雪期であれば常次沢、百松沢ルートが一般的である。このうち源八沢ルートは以前から最もポピュラーなルートとして多くの登山者が利用しているが、登山口付近が採石場となっている上、シーズン中はスノーモビルランドとなっていて登山者が立ち入るには少々難しい状況となっている。このルートは途中にジルベル・ザッテルと呼ばれる広々とした鞍部があり、山ヤの間では人気のポイントとなっていただけに残念である。また、同じアプローチの常次沢ルートであるが、以前に私も一度登ったことがある。途中に10m〜15mの滝が一ヶ所あるが、踏み跡のある右岸を容易に巻いている。コルまでは雨裂を伝って登ったが、背後に広がる札幌の町並みに感動を覚えた記憶がある。コルから三角点のある本峰へは強烈な藪漕ぎとなり、何処が頂上なのかさっぱり判らなかったが、とりあえずこの時は登頂とした。

 この山が一番賑わうのは4月の残雪期である。週末には夏を待ちきれない多くの一般登山者が繰り出し、雪渓に転々と続く踏み跡は白い登山道と化す。ただし、その多くが地形図上に山名が載っている本峰にて“完登”としてしまい、最高地点である南峰まで足を伸ばそうとする登山者は少ない。仮に展望の良い南峰に三角点が設置されていたとすれば、この山の人気は絶対的なものとなっていたであろうが、静かな中にこそこの山の良さがあるというのも事実である。札幌の中心街から望むことができ、中央区にありながら正に深山の趣があるこの山は道都・札幌の隠れた名峰と言える。

 今回は熊ぷ〜さん&エル嬢「山の旅人」のめったにない来札で、札幌近郊の冬の一山を考える。近郊にはスキーに最適な山が多く、奥手稲山や迷沢山、春香山等を候補に考えるが、これらの山は山小屋一泊が楽しさの前提である。日帰り登山となればやはり百松沢山がお勧めの一山となろう。宮城沢ルートは地形上スノーモビルには邪魔されないため、札幌の自然が肌身で感じられるルートである。ただし、ここも他の近郊の山と同様、駐車場所が問題となる。入山口の駐車スペースは排雪場へのダンプカーが行き交う道路脇であり、ダンプの運転手との折衝の末、この場所に置く車は最小限とし、他は移動するということで折り合いが着く。宮城沢の林道へ向う途中からは本来の山の静寂さが戻ってくる。この日は偶然再会した昔の山仲間であるHasiさんとKssa氏のパーティがスノーシューで同ルートを先行しているため、ラッセルは全くない。静かな林道はアカゲラの鳴き声が聞こえ、札幌市内とは思えぬ自然の素顔を見せてくれる。

 357m標高点のある二股はトレース通りに左へ入るが、コンタ470m付近からはトレースを離れ、尾根上を目指し、この日初めてのラッセルを開始する。札幌近郊の山ではとかく先導者のトレースを後続のほとんどの登山者が使用し、まるで登山道のようになっているケースが多いが、少しルートを変えるだけで、雰囲気も一変して新鮮なルートとなる。この日の雪質は気温が上昇気味で多少べた付きがて重いが、深雪登山がそろそろ終了する時期でもあり、シーズン最後の深雪ラッセルを楽しむことにする。途中、集材路が現れ、トップを交代しながら尾根上へ抜け、さらに一登りで地形図上838m標高点の東肩に飛び出す。帰路を考え、838m標高点を巻き気味に進み、頂上北西の肩へ向う。肩への稜線上には雪庇の張り出しも見られるが、たとえ踏み抜いたとしても落とし穴程度のものである。この尾根の頭はコブとなっているため、詰では巻いたほうが手っ取り早い。

 先に本峰に登ってしまうと南峰へ行くことがおっくうになるため、本峰直下を巻いて南峰とのコルを目指し、まずは南峰から攻めることにする。コル手前で先行パーティのトレースと再び合流する。彼らも南峰まで足を伸ばしたようだ。南峰の詰は傾斜があるため、南側から回り込むと楽である。狭い頂上の展望は晴れていれば360°であるが、あいにくのガスのため、札幌市街の広がりを目にすることはできない。天候は崩れ気味であり、先ほどまで見えていた定山渓天狗岳が隠れてしまい、烏帽子と神威の特徴的な姿のみ辛うじて望むことができる。

 帰路、本峰へ立寄ると、以前にこのサイトの掲示板を度々訪問してくれたキンチャヤマイグチさんがいて、我々に話しかけてきた。決め手は熊ぷ〜さんとエル嬢である。山の旅人コンビがいなければ、おそらくは彼も気づかずにすれ違いだったであろう。「山の旅人」コンビのインパクトの強さには改めて脱帽である。何処かの山で対面するだろうとは予想はしていたが、やはり偶然の出会には驚かされるものである。彼は私よりも一回りも二回りも若い好青年であった。

 下りはもちろん往路である。途中で残してきた手付かずの深雪斜面を残して帰る手はない。百松沢山ツアーの醍醐味は正にここに尽きると言えるだろう。(2006.3.5)

【参考コースタイム】 平和墓地P 8:50 → 百松沢山・南峰(頂上) 12:35 、〃発 12:55 → 百松沢山・本峰 13:15、〃発 13:25 → 平和墓地P 14:40

メンバー】熊ぷ〜さん&エル嬢、「がんばれ、私」のYo@美唄さん、saijyo、チロロ2、他2名

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