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    留寒山(954.0m)

 

1/25000地形図「ヌカンライ岳」   

ここへ到着するまでが核心部といえる東面沢の出合
小さなナメ床も現われる
この光景、幻想的と見るか…単なる籔と見るか(源頭付近)

保留寒山は新冠湖の奥に位置する低山で、アプローチが長い上、これといった特徴にも乏しく、一般登山者を引きつけるだけの魅力にはおよそ縁遠い山といえる。もし、この山に登ってみたいと思う登山者がいるとすれば、おそらく他の山々を散々に登りつくして他に登る山が無くなったというピークハンターか、余程の変わり者であろう。新冠ダムの堰堤を過ぎたところにゲートがあり、この山のみならず付近全体をより遠く深い山域にしてきた。雨天のこの日、舗装が切れてからの約1時間の走行は実際以上に遠く長いものに感じられた。だめもとで新冠ダムまで車を走らせてみたところ、ラッキーにもゲートは解放されていた。新冠湖は釣り人に人気のスポットとなっていて、途中ですれ違った多くのRV車を考えれば、おそらく彼らが開けたものと思われる。ゲートから地形図上の糸納峰山荘(北電か森林管理署の古い建物)まではさらに遠い道程で、偵察ができれば良いくらいの気持で現地へと向かう。

入山口となる新冠川支流・ヌカンライ沢川沿いの作業道へは山荘の少し手前から入る。同行したKo玉氏によると、何年も前に付近を偵察したが、この時は入ってすぐのところで作業道が崩壊していて、その先は崩れた崖斜面を何度かトラバースしなければならないとのことだった。作業道入口に車を停めて早速入ってみたところ、以前に崩れていたところは完全に修復されていた。場合によっては送電線下の歩道をつなぐことも考えていただけに、かなりの時間短縮が期待できそうだ。このぶんだと、ひょっとしたら小沢の出合いまで入れるのではと、Ko玉氏は車を取りに戻る。大きな落石が道を塞いではいるが、その都度岩石を除けながら進み、そうこうしているうちに、計画していた東面の沢の出合(ヌカンライ沢川一号橋)まで車を乗り入れることができた。道路に沿って送電線が続いており、その維持管理業務のために修復が行われたのだろう。ここまで入れれば、後はいつもの籔山登山の領域である。

保留寒山頂上に到着
綺麗に刈り分けられていた三等三角点「保留寒山」

橋の横から歩道が続いていたので、とりあえずそれを利用できないものかと辿ってみたが、送電線の鉄塔で終点となっていた。沢は小沢で、流れはかなり細い。林道走行の途中では一時大粒の雨がたたきつけていたこともあり、あまりのんびりとはしていられない。そんなことを思いつつ橋の袂から入渓する。細い流れは両岸の蕗やシダ植物を主とする草薮を歩いて行けるだけに、思いのほか快調に進んで行ける。途中、小規模なナメ床も現われ、涼も満喫できるのが良い。滝は1mくらいのものが一ヶ所、この規模の渓流では予測の範疇といえる。コンタ590m二股からはかなり細い小沢となるが、先ほどまでの霧雨のためか流れはそう簡単に消えそうにはない。結局、水流はコンタ700m二股付近まで続いていた。ほとんど人は入らないと思えた小沢であるが、途中で枝を刃物(おそらく、鉈)で払った跡をKo玉氏が見つける。しかも、けっこう新しいようだ。どこの誰だろうか、何れにしても我々同様にこのピークを狙っていた登山者がいたということだ。 “劔岳点の記の錫杖”といえば少々大げさかもしれないが、人が入っていない人跡未踏の場所はもはや道内にはないようである。それにしても、目ざとくこれを見つけるKo玉氏もなかなかだ。

籔尾根下降の最後は鉄塔に飛び出す(右脚下にKo玉氏)

700m二股を右に入ると沢形のみとなり、さらにその沢形を追うことも難しくなる。籔はまだ若い笹薮で、いつまでも沢形を追っかけるよりは笹薮突入を選んだ方が効率的な感じである。蜘蛛の巣がやたら多く、これも時期的なものかもしれないが、露払いよりは蜘蛛の巣払いといったような籔漕ぎとなる。途中からはKo玉氏が先頭に立つ。野性味のあるKo玉氏はすぐに目の前から消えてしまうが、後にはまるで獣道のような跡が明瞭に残っている。強烈な根曲がり竹の藪では先頭も後続もないが、ここではまるで冬場のトレースのようにルートが残って行く。遠く感じた保留寒山ピークも目と鼻の先まで近づく。ここで先頭を交代、Ko玉氏なりの気遣いだろう。綺麗に笹狩りされた真ん中に三角点は飛び出していた。どこといって頂上らしさのない頂上であるが、ガスがなければもう少し眺望も利くことであろう。私としては、再びここを訪れることはないだろうから、何とも残念な思いである。ここの笹を刈ったのは、おそらく途中で見た枝を払った主と思われるが、我々以外にもこのピークを目指した登山者がいたということは紛れもない事実のようだ。

この暑い日にしてはなぜか寒風が吹いており、大気の不安定さを感じる。長居は無用、すぐに下山にかかる。下りは籔尾根を忠実にたどり、送電線の鉄塔へ出る予定である。薄い笹薮は難なく下れるが、問題は広くなった尾根のルートファインディングである。この作業はKo玉氏の得意とするところで、二番手に付く彼の指示通りに下降してさえ行けば何も気苦労する必要はない。途中、かなり発達したシカ道が現われるが、下手な登山道よりは遥かに明瞭で歩きやすく、何よりその開放感にはホッとさせられる。利用者側の意見としては間違いなく満点評価である。ただし、下山後に判ったが、この時期、シカを狙っていると思われるマダニがかなりの密度で潜んでいた。下山後、すぐにあわてて払ったが、それにも係わらず翌日の車中にも出現、首筋を這っていたのには閉口した。自然界の生態系とは実に上手に作られているものである。

道内700m以上の全山登頂が秒読みとなったKo玉氏に付き合っての保留寒山であるが、私としてはこんなきっかけでもなければ決して登ることのなかった山である。大げさな言い方をすればこれも山との運命的な出会いであり、山の特徴や魅力などは後から自ずと付いて来るものだ。私にとっては山仲間と過ごす楽しい時間が山行のメインであり、間違いなくその山の魅力や評価に直結している。冒頭の記述を否定するわけではないが、そう考えれば、保留寒山は明らかに素晴らしい一山と思える山であった。(2010.7.18)

参考コースタイヌカンライ沢川一号橋10:05 → 保留寒岳頂上 12:10 、〃 12:25 ヌカンライ沢川一号橋13:30  ( 登り 2時間5分、下り 1時間5分 )

メンバーKo玉氏、saijyo、チロロ2

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