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       幌内山(648.8m)

円錐峰から望む幌内山

1/25000地形図「柏 木」

こんな滝も…
さらに上流にはナメ床も現れる
逆川林道の路肩に車を停める
鬱蒼とした樹林帯の中を目一杯の水流で流れている
核心部、15mの滝

イメージ的にわりと地味な印象を与える幌内山という名であるが、道内では意外に多い山名である。登られることの少ない幌内山が多い中で、蘭越の幌内山や芦別の班渓幌内山はスノーシューの普及や登山ブームによって積雪期の週末には賑わうようになった。一方、ほとんど登られることのない幌内山もあり、そのうち1つが今回登った浜益・幌内山である。Web上その他に情報がなかったこともあるが、やはり標高が低く目立たなかったことがその大きな要因といえるだろう。今回は浜益側から登ったこともあり、他と区別する意味でここでは浜益・幌内山としたが他意はない。以前にこのサイトで蘭越の幌内山を蘭越・幌内山と紹介したせいかどうかは判らないが、この名がある程度浸透してしまったようだ。余市・天狗もまた然りである。勝手に山名を作ってしまうことの是非は別として、それはそれで区別する意味では肯定できるのではないかと思っている。古くから定山渓天狗や銭函天狗など通称で呼ばれている例もあり、便利性を考えればそれはそれで良しとしてもよいような気がする。

大粒の雨が降る札幌を早朝に発つ。大きな沢の遡行であれば昨夜からの雨を考え、当然中止とするところだが、2km程度の小沢で、しかも上流部分のみとあれば水の引き具合も速いはずである。とりあえずは出合まで行って判断しなければ、この週のウイークデイを後悔しながら過ごさなくてはならなくなる。浜益温泉から約4km先が逆川への林道入口である。地形図上の溜池の記号はつり堀で、入口には大きな看板がある。浜益に到着する頃には雨も上がり、一部青空ものぞかせている。林道は途中二ヶ所で水流を横切らなければならないが、今日のような雨後でもなければ気づかずに通過しているところだろう。

車を降りて困ったのがアカウシアブである。成虫になって一ヶ月の寿命とは言われているが、気候条件と羽化の時期がちょうど一致したのか大発生といってもよいほどの状態で、車から出るのもやっとといった鬱陶しさだった。後で調べたところ、このアブは吸血性があって主に背中から狙ってくるそうだ。また、黒色や赤色を特に好むとのこと。黒いジャージに赤いシャツを着ていた私は格好の標的だったに違いない。特に印象的だったのが車のラジエーター付近が蜂の巣のような状態になっていたことで、温度の高いところや炭酸ガスに寄って集るとのこと。行動範囲が2Kmくらいとのことなので、まるでコバンザメのように我々パーティと行動を共にしていたことが頷ける。ということで、行動中はゆっくりと休憩することもままならなかった。

普段であればかなり細い流れと思われる小沢だが、この日の水量では目一杯に流れているようだ。飛び石で進んで行こうにも適当な石も川底もよく見えず、一歩一歩が慎重な足取りとなる。こんな時はむしろ両岸の草薮をつなぐ方が遥かに効率が良い。一部、川筋から逸れて籔の中を流れるところもあり、この沢としてはかなりの増水ということになるのだろう。今回はクライミングも籔漕ぎも大好きという頼もしいOtaさんが同行、当然のことながら地形が険しそうな右股へと入る。ピーク優先の我々としても、こんな時こそはそれを度外視してでも変化を求めることにしている。

右股へ入ってしばらくは平凡な流れが続く。最初の変化がコンタ210mのF1(15m)である。Otaさんは左岸を安定感のあるクライミングで登る。私も続きたいところだが、日頃はスパイク底を付けていることが多く、フェルト底がしっくりこないこともあって左岸の沢形からのトラバースで上部へと抜ける。しかし、落ち口付近が私には微妙で少々緊張させられた。フェルトのフリクションが今一信頼できなかったためである。この滝を上がるとすぐにF2(15m)が現われた。こちらは簡単に巻くことができるが、Otaさんは右岸側を楽しむように登っていた。ブタ沢(何も変化のない沢をこう呼ぶ)を予想していただけに地形だけでなく、気持も一変する。

最後の詰めはスラブ状の岩盤(見かけよりはたいへん) 幌内山の三角点は少し傾いている
幌内山頂上にて 真正面には別狩岳(北)が見えている

途中、2mほどの滝が1つ、ここは倒木もあり簡単に登る。その後はナメ床も現われ、いつもの籔沢とはちょっと違う様相である。水も枯れてこの沢登りも終わりかと思ったが、頂上への距離と標高差がほぼ同じである。つまり大まかに45°の傾斜ということになる。にもかかわらず緩い登りが続き、何が現われるのだろうかと考えていたが、最後の詰めはスラブ状の緩い岩盤となっていた。高巻くことも考えられるが草付き斜面は何が起こるか判らない。先頭を登るOtaさん曰くは途中のバンド状まで上がれば後は何とかなりそうとのこと。我々はバンド状までは草付きを登って、何とかOtaさんの待つ岩盤の中段へと抜ける。中段からのひと登りは登りやすそうな左岸側が意外に難しく、結局は真ん中を登る。ジェードルとなっていて手を突っ込んで登るが、フェルトのフリクションを今シーズン初めて信頼することができる場面であった。

スズメバチのような「アカウシアブ」(Web上から拝借)

その後も急な登りが続き、最後は三面が笹薮の急斜面となったところで沢形は終わる。頂上までは約100mと頂上直下にいることは確かだが、この山域特有の強烈な根曲がり竹が壁となっている。夏の暑さは感じないが、汗が滝のように流れ前へ進める気がしない。普段は先頭に立つことのないチロロ2さんがなぜかこんな時には力を発揮する。根曲がりの枯れ竹で顔を傷つけながらもゆっくりではあるが稜線へ向けての前進が再び始まった。最後は先頭で籔を漕ぐ気力はないと応えていたOtaさんが、走るような速さで稜線へと抜け出した。彼はやはり籔漕ぎのセンスも抜群のようだ。稜線上の籔は薄く、そこから100mほど歩いて傾いた三角点の埋まった幌内山の頂上となる。藪の中の頂上と予想していた展望であるが、予想外に東側が大きく開けていた。山座同定をするにもマニアックすぎる山域で、真正面の別狩岳(北)くらいが何とか判別できる程度である。楽しみにしていた円錐峰も稜線の籔に邪魔されて確認できなかったが、頂上の開放感は十分に味わうことができた。もちろんアカウシアブも一緒である。このアブへの対抗策としてはザックを下ろさないということが挙げられるが、この暑さと消耗度を考えればそれは無理な注文といえるだろう。

 下りは地形的に何もなさそうな左股を降りることにする。ところがこの沢へ入るためにはコンタ550mまで300mほど稜線上を下らなければならず、根曲がり竹の密生した稜線は意外に厳しいものがある。特にちょっとでも油断しようものなら、知らず知らずのうちに厚田川側に引っ張られてしまっている。酷い時には90°も方向がずれていた。修正のための登り返しも容易ではなく、さすがに方向には細心の注意を払った行動となる。何とかコンタ550mの尾根の頭までは到着したが、そこからの下りもかなり体力を消耗させられた。根曲がり竹もさることながらツル植物が密生していて、大きく足を上げて踏んづけて進むより術がなかった。仮にこちらの沢から登っていた場合、頂上へ到達できたかどうかは微妙である。数日後、ツル植物が当っていたところがかぶれ始めた。あの群生していたツル植物はひょっとしてウルシだったのかもしれない。アカウシアブのものなのかウルシによるものなのかは判らないが、幌内山山行の置き土産がこの山の印象をより強いものにしたのだけは確かであった。(2010.8.8)

■Otaさんの幌内山・山行記

参考コースタイ】.109 逆川支流出合8:15 → 175m二股 8:45 → 幌内山頂上 11:15、〃 11:45 175m二股 13:50 .109 逆川支流出合14:25  ( 登り 3時間、下り 2時間40分 /休憩時間を含む )

メンバーOtaさん、saijyo、チロロ2

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