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   ホロカ(1165.8m)

下山後に少しずつ見えたきたホロカ山

下山後に少しずつ見えたきたホロカ山

 1/25000地形図「幌 加」

幌加除雪センターには立派な24時間トイレもある

森林資源の豊かな十勝三股地区、戦時下には国の政策によってかなり重要視されていたそうである。戦後も木材の街として三股周辺だけでも人口1万人を数えたとのこと。現在、幌加除雪センターが立つ旧士幌線・幌加駅周辺にも昭和29年の洞爺丸台風以後にその倒木処理のための木材工場が建ち、350人ほどの人々の生活の場となっていた。現在は再び深い森林に蔽われ往時の活況も夢の跡となっている。その移り変わりをじっと見届けてきたのがホロカ山である。ホロカナイ(後戻りする川)が示すように付近を流れる音更川は大きく屈曲している。2000m前後の名峰や秀峰の多い三股周辺にあってこの山が見劣りすることは否めなく、山容的にはそれなりであるにもかかわらずあまり登山の対象とはされていない。

ホロカ山への尾根上にはピンクテープも見られる

この山との出会いは8年前の偵察の時に始まる。音更川に面する東斜面は断崖となっており、南側の幌加発電所からの取り付きも難しい。除雪センターから三股側に1.3kmほど先の林道から北東尾根末端付近に様子を見に行ったが、この時に幸か不幸かヒグマと遭遇している。雨の降りしきる薄暗い日だったように記憶している。ふっと振り向くと、たった今私が傘をさして立っていた場所にヒグマがいた。距離にしてわずか6〜7m、一見黒毛和牛のような風体だが急斜面をクロヒョウのような素早さで駆け登り、こちらを振り返って唸り声を上げた。圧倒される迫力だった。ヒグマのこんなワイルドな姿と対面したのはこの時が初めてである。この時以来、私の気持の中でのホロカ山は、ヒグマが穴ごもりする冬場に登る山と決めていた。

ここのところの週末は突風が吹く荒れ模様の天候の巡り合せとなっていて、この日も朝から雪が降り続き、山は雪雲の中で何も見えない。除雪ステーションの駐車場ではなかなか出発の踏ん切りが付かず、車の外へ一歩飛び出しさえすれば山行の成否の50%はクリアできるところだが、重い腰はなかなかあがらない。もちろん、8年前のことも頭の隅に過ぎっている。スキーを付けてやおらスタートといった状態までに約1時間も要してしまった。国道を1.3km歩き、例の林道入口となる。200mほど進んで左の河原へ下りると北東尾根の末端である。ヒグマが駆け登った辺りまではキックターンの繰り返しで登るが、それより先は急過ぎてスキーでは登れない。ここから先は木々につかまりながらスキーを片手にキックステップで標高を上げて行く。足許に見える河原付近が見る見る小さくなり、舞い落ちる雪で霞む周辺の山々も立体的に広がりはじめる。ここまで来ればさすがに私もエンジン全開である。

ひと登り終えると斜面も徐々に緩くなるが木々はかなり混んだ様子。スキーを付けて登って行くが、帰路には滑ろうなどとはとても考えられない。針葉樹林の若木で、少々薄暗い感じの樹林帯を枯れた下枝を折りつつ進んで行く。ここを貫けると作業道が一本、左手方向から登ってきている。どこか林道の奥からでも続いているのだろうが、何度も登る山でもなく、そこを確かめる必要性はない。かなり登ったように感じて一休みとしたが、頂上までは約1.3km、標高差では150〜200mとJRタワー1つ分程度であった。

ホロカ山頂上に到着
ホロカ山は意外に遠い

傾斜はかなり緩くなるが雪面は倒木等のために凸凹状態で、歩きやすくなったとはとても言い難い。ましてやモナカ状とあっては雪質も最低である。真新しいシカの足跡のみが点々と続いている。目を凝らしてよく見ると、およそ200m前方の木々の間に雄シカが一頭、我々の動きを察知したのか、ゆっくりと移動していた。彼らにとっては招かざる客の出現といったところだ。樹林に覆われた尾根筋がせりあがっていて、頂上かと思われたがその奥にも、さらにその奥にも高みは薄っすらと続いていた。地形図上からは小さな山との認識でいたため、実際に現地に入ってみるとそのギャップのために余計に遠く感じられるのかもしれない。右側の木々のない雪崩そうな急斜面をトラバース気味に回り込み、細かなキックターンを繰り返し高みを一つ一つ越えて行く。

最後と思われる急な狭い尾根はツボで登ろうとスキーを外すが、その途端、腰まで埋まってしまった。硬い雪と見えるのは表面だけで、その下はスカスカ、さらに雪に埋まった寝曲がり竹まで見える始末である。あわててスキーを付け直す。ところが、一歩進んだところで今度はスキーごと埋まってしまった。どうしょうもない落とし穴だらけの雪面である。春の雪面は何でもありということだろう。稜線を避け、左側の樹木が少々混んだ斜面から大きく回り込んで稜線上へと再び戻る。頂上はすぐ見えるところだが、ここもスキーを付けていても踏み抜いてしまいそうな微妙な雪面である。だましだまし慎重に進んで、樹木の少ない平らな頂上にやっと立つ。意外な苦戦であった。降雪のため、楽しみにしていた眺望はなく、立っているとザックを下ろした背中に当る西風がじわりと冷たい。じっとしていると凍えきってしまいそうなので、トレースのみ残してすぐに下山開始とする。

下りはやはり滑ることなどできなかった。キックターンと斜滑降、階段降りのくり返しのみである。最後の尾根末端付近はキックステップどころか雪が腐ったために股まで埋まってしまう。おかげで転がり落ちそうなところも難なくクリアする。ヒグマが駆け登った斜面の中段で腰まで雪に埋まりながらスキーを付けたが、こんな場所で身動きがとれないと思うだけでも気持の悪いことこの上ない。あれから8年、私の頭の中には今もあの時のヒグマが鮮烈に生き続けていた。(2010.3.22)

【参考コースタイム】幌加除雪センター 8:05 ホロカ山頂上 11:10 、〃 発 11:15 幌加除雪センター 13:20   (登り3時間5分、下り2時間5分)

メンバーsaijyoチロロ2

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