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       登別・幌別岳(736.1m)

林道の途中から見る登別・幌別岳

 1/25000地形図「壮 瞥」「稀 布」

鉱山町から先は歩かなければならない
第二旭橋からは小沢の出合までは踏跡をたどる
出合は小滝となっている
大滝を登る山遊人さん(fujimoto@低山大好きさん提供)

盟友Ko玉氏から幌別岳への誘いがある。今回はあまり聞いたことのない登別の幌別岳だそうな。道内であればどこにでもある幌内や幌別、ここでは他と区別するために胆振幌別川の名となっているが、そもそもはその幌別川上流の山ということで点名が幌別岳となったようだ。地形図に山名はないが、点名がそのまま山名として地形図に載っている例はいくらでもある。そんな意味ではこの幌別岳は点名のみで不運だったといえる。登別市の中心である幌別の市街から約15分でかつて硫黄の産出で栄えた鉱山町となる。最盛期には日本一の産出量を誇っていたそうだが今はその面影もない。ここからは幌別岳へのアプローチとなる林道だが、集落を過ぎてすぐにゲートとなる。約4km、第二旭橋までの1時間ほどは歩かなければならない。ゲート前には山菜狙いの車が数台、ピーク狙いの車ではないようだ。

Web上で「登別 幌別岳」を検索してみるとYoshioさん山ちゃんの記録が目立つ程度だが、「アソイワ沢」で検索してみるとけっこう出てくる。地元では有名な沢で、沢訓練などでよく使われているらしい。こんな有名どころとは知らない我々パーティはこの沢など全く眼中になく、頂上へは一番近そうなひとつ手前の沢(南面直登沢)から入って真ん中の尾根を籔漕ぎで登ろうと考える。水量の少なさに出合で少々振り回されたが、砂防ダムを発見して間違いないことが判る。

砂防ダムを越えてすぐ左の小沢が目指す南面の直登沢で小滝となって落ちている。沢相は穏やかでごく少ない流れであるがナメ床なども現われ楽しませてくれる。やはりブタ沢(何も変化のない沢)か…早々の籔漕ぎを覚悟する。ところが、やや進んだところで先頭を行くKo玉氏が止まってしまった。なんと!!見れば軽く30mは超えてしまいそうな大滝の出現である。上部は鬱蒼とした樹林に隠されて見えないが、全く予想していなかっただけに、只々圧倒されるばかりだ。ナメ滝で、細いナメ床がそのまま起き上がった感じの形状である。中段まではしっかりとした手掛かりがありそうだが、完璧に立ち上がっている上部は判らない。水量は細く、それでも出合付近のそれよりは少し増えた感じがする。

山遊人さんが先頭きって果敢に挑む。私も追って登ってみたが、その高度感にはさすがに足が竦む思いである。山遊人さん曰くは途中に一ヶ所でも良いから支点が欲しいとのこと。確かにここで足を滑らせようものならその時点で人生は終了となるだろう。無理することはない、すぐに左岸側へと逃げることにする。左岸斜面もかなりの傾斜だが、それでも樹木はしっかりと生えている。樹木につかまりながら急角度で登って行く。途中、浮石を取り除くと転がる岩石はスッと下草に消え、しばらく間を置いてから遥か下で鈍い落石音が聞こえた。人間だったらただでは済まないところだ。最初から大高巻きを決め込んだメンバーとは途中で合流、一歩先を行くKo玉氏から上部は岩が出ていて、さらに登って行くのは困難だとの声が聞こえる。途中から山遊人さんがザイルを引いてトラバース、滝の上部方向の斜面へと逃げ込んで何とかこの難局を乗り切る。

さて、ここからは尾根上へと逃げて籔漕ぎか、沢身へと下降するのか意見の分かれるところだ。なぜか籔好きのKo玉氏が沢筋への下降を主張している。普段の山行では考えられないところだが、Web情報からこの尾根の上部には強烈な籔が待ち構えていることが予想されるためだろう。予想外の時間を費やしてしまったこともあり、山行の効率化を考えればここは沢に戻るのが正解かもしれない。ただし、地形図からは読み取れなかった大滝の出現もあり、ここから先のさらに密度の増すコンタを考えれば一か八かの賭けではある。結局、当初予定のコンタ390mからの尾根へ逃げることを前提に沢へと下降することにする。降りた地点はちょうど滝の落ち口であった。不気味に落ちているその様子から、この滝を直登した場合に最上部ではかなり不安定な状況を強いられたであろうと容易に想像された。

三等三角点「幌別岳」と金麦
三等三角点「幌別岳」と金麦
登別・幌別岳頂上にて

下流部と同じようなナメ床が延々と続いているが、次の滝が出てこない。薮山と推測していたために足回りはスパイク系、これはナメには滅法弱く小さな凹凸のある形状であれば引っかかるが、磨かれた岩盤上ではかえって滑ってしまう。ナメの小滝が出てくる度に岸の笹につかまりながらの慎重な登高となる。時間はけっこう経過してしまったが、距離的にはわずかしか進んでいない。390m二股から尾根に取り付くことは止めにして、しばらくはそのまま小沢を進んでみることにする。470m二股は右へと入る。なおもナメ床が延々と続き徐々に傾斜は増すが、滝らしい滝は現われない。この小沢全体の滝があの一ヶ所に集約されたのかもしれない。ふと、そんなことまで考えさせられた。

ナメ床が延々と続く上流部 前を行くメンバーも見えない籔の中
頂上が近づくと笹薮の丈も低くなる 頂上台地から望むカムイヌプリと室蘭岳の肩

両岸からの籔がうるさくなり、そろそろ籔漕ぎかと思ったが、水流は切れそうで切れない。どこまでも沢形をたどって行けば良かったのかもしれないがピークは近く、そのまま真っ直ぐ進むことにした。傾斜が加わった状態での根曲がり竹はかなり手強く、まるで壁のように立ち塞がる。場所によっては進んでいることさえ全く感じられないほどで、余計な苦行を強いられてしまった。笹が低くなってきたときには正直ほっとした。視界が大きく広がり室蘭岳やカムイヌプリ、幌別付近の海岸線も見える。先頭を行くKo玉氏は頂上に到着したようで、三角点探しに入っている。落穂拾いではないが、その後を取りこぼさぬよう確認しているうちに三角点らしきものが目に飛び込んできた。やった!間違いない。三等三角点「幌別岳」はしばらく人目にさらされていなかったのか、まるで枯れ草の中に保護色でも纏っているかのように潜んでいた。 メンバー全員が初めてのピークと思っていたが、頂上の会話の中で、ひょっとして小樽〜室蘭の分水嶺ではないかとの話題となり地形図を慌てて覗く。であれば、チロロ2さんはこの区間は既に終了しており、今回が二度目で、しかも厳冬期と無雪期両シーズンに踏んだことになる。夏と冬では景観がまるで違い、登った当人もこのローカルな快挙??…に気付かなかったようだ。

下山は往路の下降で考えていたが、とてもあの大滝周辺を下降する気にはなれない。南東面直登沢との意見もあったが、ここも懸垂下降があるとのことで大幅な時間超過を考えればあまり気乗りしない。結局登ってきた沢のすぐ左岸側の尾根を下降することにする。ここの難しさは尾根筋が明瞭になるまでの入り方にある。根曲がり竹の藪は左右の沢形に引っ張られることが多く、少なくても大滝側へは引きずられないようにしなければならない。Ko玉氏がぴったり後に付き、彼の指示のもとに決してぶれてはならない慎重な下降となる。ひょっとしたら引っ張られているのでは…感覚的には地面を見ながらのそんな籔漕ぎとなるが、ここは客観的に見ることのできる後続の指示に従うしかない。進行方向や現在位置について悶々とする状況の中で最も光ったのが「室蘭岳左側の肩を見て進むと良い…」とのfujimoto@低山大好きさんのアドバイスであった。これなら見える、目標物の設定は目くら状態の私には何よりだった。そうこうしているうちに除々に下降尾根が明瞭になってきた。

最後の伏兵は大滝と大体同じ標高となったあたりである。沢筋もそうだったが、この標高では尾根筋も急に落ち込んでいるようである。冗談でしょ…ついそんな言葉まで飛び出してしまうほどの急斜面である。木々を伝わりながらの思わず息を呑む下りが50mほど、大滝の分の標高差は何とかクリアしたようだ。最後は出合の砂防ダムに飛び出して山行は無事終了となる。藪山登山と軽く考えた山行だったが、今回は思わぬ伏兵の出現に四苦八苦してしまった。地形図からは決して読み取ることのできない地形的変化、考えようによってはこれがあるから夏の沢歩きは楽しいのかもしれない。ともあれ、とんでもない大滝の出現や潜んでいた三角点の発見など、下山後の満足感には格別のものがあった。 (2011.6.5)

【参考コースタイム】 鉱山町ゲート前 P 8:20 → 第二旭橋 9:15 → 南面直登沢出合 10:05 → 大滝 10:15 → 大滝の上 11:10 → 幌別岳頂上 13:05 、〃発 13:50 → 南面直登沢出合 15:20 → 第二旭橋 15:35鉱山町ゲート前 P 16:50  (登り 4時間45分、下り 3時間 ※林道歩き、休憩を含む)

メンバー】Ko玉氏、山遊人さん、fujimoto@低山大好きさん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga)

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