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      北海岳(2149m)

ガスの中から一瞬顔を出した北海岳頂上

/25000地形図 「層雲峡」

公営層雲峡駐車場は雨の日、雪の日にも屋根があり便利だ
リフト終点から望むニセイカウシュッペ山周辺
黒岳まではシナノキンバイやウコンウツギが群生していた

 天候不順の週末、何とか山へは行きたいものと、大雪山・お鉢周辺を目指すことにする。黒岳ロープウェイにて五合目まで難なく到着。さらにリフトを乗り継ぎ、7合目までやってくるとそこはもう高山の雰囲気である。前日は無料で水洗トイレ付きの公営層雲峡駐車場泊であった。同じことを考える人間が多いのか、駐車場にはテントが二張り、車中泊も数人と我々同様に快適な一夜を過ごしていた。目の前にはホテルの室内が見え、浴衣に着替えた観光客が寝る準備をしている。高級ホテルに泊まれない者の僻みではないが、見方を変えればせっかくの北海道の短い夏に、狭い客室で過ごすのももったいないような気がする。

始発のロープウェイは登山者や観光客で満員となり、一本遅らせることにする。道内では銀座コースともいえるこのルート、七合目のリフト終点では営業登山を含め、大所帯パーティが出発の準備をしている。○○監視員の腕章を掲げたリーダーと思われる人物が、声を上げて事細かに登山の心得を説いている。あれだけ煩く説教されれば、横で聴いている私まで彼に対する信頼感を抱かせるから不思議である。人間というものは説教されることに慣らされていて、内容はともかくとして、説教されることによって逆に安心感が得られる動物なのかもしれない。説教を胸に、こちらは一足先に出発させてもらうことにする。登山道は木材で階段が作られているが、降雨時の水流で土が流されたため、木材のみが残っているところが多く、道内屈指の銀座コースとは思えない歩き辛さである。とは言え、シナノキンバイやウコンウツギなど、他の山域では見られない大規模な群生が見られ、さすがに“大雪山”と思わず唸らされる思いである。

赤石川には大量の雪渓が残る
赤石川上流には大量の雪渓が残る 北海岳への途中ではコマクサも見られる
黒岳を越えるとエゾツツジが美しい 所どころでヨツバシオガマも見られる

黒岳頂上は登山客でごった返しの盛況ぶりである。本来の最高地点である北端の高みは崩壊の危険があり、立入禁止となっている。であればと、手前の広場には頂上を示す棒杭と祠が祭られ、棒杭がすなわち頂上であり、祠がその頂上の威厳をさらに高めているようにも感じられる。盛んに登頂記念の写真撮影が行われているが、私には頂上とは感じられない。20m先の頂上を踏みたいところであるが、張られたロープの先へ入ることはルール違反なので、この山の登頂を果たすのは積雪期との思いを新たにする。黒岳石室までの下りは人人人…である。張られたロープの向うは登りの植生とは打って変り、エゾツツジ、コマクサ、イワブクロなど、今が時とばかりに咲き誇っている。

黒岳石室手前から北海岳への分岐に入り、やっと登山本来の静寂さを取り戻す。天候はうす曇で山の頂はガスの中である。時折すれ違う登山者のほとんどがザックカバーを架けた大きなザックを背負っている。道内と本州方面からの登山者との区別はザックカバー使用の有無にあると聞く。沢登りくらいでしか濡れに対する対策を考えない我々に対し、彼らには梅雨期があり、夏山登山の期間が長い分だけ雨対策にも慎重である。旭岳方面かトムラウシ山からなのか、女性二人のパーティに声をかけてみたところ、山中二泊でトムラから貫けて来たとのことである。彼女らはトムラからの長い縦走をやり遂げた充実感からか、説明する口調も幾分高揚気味である。大雪山の山々は標高こそ高いが、黒岳まで登ってしまえばあとは丘へ登るくらいのものと考えていた。確かに整備された登山道は一級国道と言えるが、その分歩く距離も伸びてくる。要は体力勝負ということになろう。例え丘程度であっても幾つもの丘を越えるにはそれなりに体力が要求される。ましてやトムラからともなれば、幾つ丘を越えるのか私には想像もつかない。抜けきったことでの充実感が湧き出しても当然であろう。

途中、かなりの雪渓が残り、スノーブリッヂが見られる赤石川を渡る。周辺の残雪は例年よりも多いようである。登山者が足を濡らさぬよう、適当な間隔で石が置かれている気の使いようである。かなり以前の話になるが、この赤石川を一度遡行している。温泉街の外れから入り、しばらくは層雲峡独特の柱状節理の大高巻きを強いられた。御鉢平付近の融水を一手に引き受けているために水量は多く、気温が上がる午後からは特に増えるようである。コンタ1240m付近には通称「ヤスヤスの滝」と呼ばれる瀑布があり、右岸のルンゼを登り、40mザイルめいっぱいの懸垂で上流へ抜けている。なぜヤスヤスなのか意味がわからない。この日は早朝から行動していたにも関わらず、黒岳ロープウェイにたどり着いたのは最終の19時であった。再び入りたいとは思えない沢である。

北海岳が近づくと“子象”のような奇岩が姿を現す
北鎮岳は濃いガスの中

黒岳越えから数えて3つ目の登りで北海岳の広い頂上へ到着する。外国の山の頂上で見られる十字架のようなものは道標であり、ベンチまで設置されている。緊張感はまるで感じないが、それなりに疲労感を感じる。さすがにここまで来れば観光客はいないようである。ただし、登山者の服装や足廻りはまちまちで、中にはジーンズにズック靴といったいでたちの若者も見られ、つい融雪沢におけるSOS事件が頭を過ぎる。夏の大雪とは言え、基本的な安全対策くらいは考えてほしいものである。相変わらずのガス模様で、烏帽子岳の形の良い峰が一瞬現れ、直ぐに消えてしまう。お鉢の向い側に見えるはずの北鎮岳も深いガスのベールに包まれ、最後まで見ることはできなかった。

帰路、霧雨が小雨と変わり、さすがに2000mの標高では肌寒く感じられる。五合目へ下るリフトの途中や五合目の駅で、これから頂上へ向うと見られる複数の団体客とすれ違う。この雨の中、ご苦労さんと言いたい気分ではあるが、気になるところは中高年というよりも老人が多いことである。おそらくは本州方面からの登山客であろう。過密スケジュールの中、この日のうちに黒岳へ登らなければ参加者からのクレームが出るのかもしれないが、ここは2000m近い山の中であり、無理する必要はなにもない。山慣れしていなければ若者であっても体温調整が利かなくなるものであり、高年齢者となればなおさらである。雨が降っている時くらいは潔く中止してほしいものである。

 何となく批判的な山行記となってしまったが、やはり大雪はスケールも美しさも一流であり、有名な山にはそれなりの感動があると認識を新たにさせられたことは付け加えておきたい。(2006.7.23)

 参考コースタイム】 公営層雲峡駐車場 5:50 → 6:20発ロープウェイ → 黒岳7合目リフト終点 7:15 → 黒岳頂上 8:35、〃発 8:40 → 北海岳頂上 11:05、〃発 11:20 → 黒岳頂上 13:15公営層雲峡駐車場 14:50

メンバーsaijyo、チロロ2

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