春香山(906.9m)
入山口は奥手稲山へ向う登山者の車で溢れている |
「春香山雨量観測所」付近で地図上の現在地を確認 |
振り返れば、努力の跡は明瞭に伸びている |
春香山はスキーツアーだけではなく、無雪期登山の山としても人気の高い山である。この山の魅力の一つにT氏が管理人をされている銀嶺荘の存在がある。T氏は大変気さくな方で、我々登山者の大先輩でもあり、良き相談相手でもある。付近を爆走するスノーモビル愛好家とは一線を画し“登山者のための山小屋”を頑固に守り続けている。また、この山小屋には今ではとても入手出来ないような数多くの山の本があり、何時でも閲覧できる楽しみがある。
この山の最も一般的なルートである桂岡コースは、夏山登山では市街地南端の登山口から入るのが普通であるが、ツアー登山では一本東側の林道へ繋がる道路から入り、そのまま林道を辿ってコンタ450mの通称“土場”を目指すようである。ただし、ここの駐車スペースの複雑さには十分な注意が必要である。この道路は一部私有地となっていて、以前に誤ってこの私有地の道路に車を停めてしまい、下山後「私有地に駐車したから」という理由で、いきなり20万円を要求されたことがある。押し問答の末、「3千円にまけてやる」という話となり、結局3千円を支払うことになったが、後で考えれば3千円目当てでふっかけてきたということであろうか。これだけ一般的な山でもあり、余計なトラブルを避けるためにも判りやすい標示をすべきで、地元・小樽市には早急にどうにかしてほしいものである。
今回のルートは定山渓側の小樽内川沿いからで、ここは奥手稲山・夕日の沢コースの入口でもある。迂闊なことに、持参した1/25000地形図は「張碓」と「銭函」だけで、肝心の登山口が載っている「余市岳」を持って行かなかったため、アプローチの距離感が掴めないままのスタートとなる。登山口で以前に山行を共にしたことがあるSさんと偶然に出会う。彼らは夕日の沢から奥手稲小屋泊で奥手稲山を目指すとのこと。同行を誘われ、彼らとの山行や奥手稲小屋の魅力に気持を動かされるが、一泊装備を持ってこなかったこともあり、残念ながら計画通りの春香山を目指す以外に方法はない。彼等の話し振りから、このコースからの春香山日帰り往復は少々厳しいことを何となく感じ取る。銀嶺荘まではトレースがあるものと思い込みスタートするが、トレースは夕日の沢へ向かうもののみで、直ぐに膝までの深いラッセルとなってしまう。日帰りの奥手稲山往復へと変更を考え、10mほど進んで後戻りするが、結局は進めるまで進み、時間切れで難しければ潔く撤退、ということで固まる。「張碓」に載っている範囲から、送電線と林道の位置関係を頼りに深雪に歩みを進める。辻褄が合うように感じたのは、スタートしてから約1時間半後である。さらに約30分、小樽内川を渡る橋があり、やっと地形図と現在地とが一致する。「春香山雨量観測所」と書かれたロボット観測所が現れ、ここまでで約2時間の経過である。
積雪の状態と時間を考え、引き返しのタイミングの難しさが頭を過ぎり、出来る限りの林道ショートカットで頂上を狙うことにする。とりあえずは本峰と809m標高点の小ピークとのコルを目指し、林道を離れる。高い方へと進んで行くが、なぜか小ピークとの間に深い谷が現れる。809m小ピークとの間に谷形地形など現れるはずはなく、東側の838.7m三角点ピークを目指すピークと勘違いしてしまったようだ。ここで改めてコンパスを出し、90°ずれてしまった方向感覚を修正して仕切り直しとするが、それまで晴れていた空模様が急に怪しくなり、俄かに風雪が強まってくる。下手したら帰路もラッセルとなる恐怖心が頭を擡げ始め、やむを得ず撤退を決意する。しかし、50mほど戻ったところで、再び空模様に明るさの兆候が現れる。冷静に考えれば、石狩・後志地方は夕方からは晴れの予報であり、大きく崩れることはありえない。再び引き返して、タイムリミットと考えている13時までの目一杯の行動を再開する。
奥手稲山との分岐までは一級国道と言えるトレースがある | 「春香山雨量観測所」から“もラッセル地獄”は続く |
待望の頂上にて | 慌しくシールを外し、下山準備 |
さらに進むとなぜか登ってきた同じ林道に右側から合流する。雨量観測所から真っ直ぐに樹林帯にはいっており、別の林道を歩いているのかとも考えるが、進んで行くうちに銀嶺荘への分岐を示す道標もあり、さらに地形図とほぼ同じ距離で左カーブも現れる。どこかで知らないうちに林道を横断してしまったようだ。注意力の散漫さを反省しつつも、ここは進むしかなく、カーブからはコルを目指し、真っ直ぐに針路を取る。標高を落とさぬよう、方向を間違えぬよう、慎重にラッセルして行くと、左側は一段高い台地状の樹木が少ない真っ白な急斜面となる。これを登りきれば、春香山への稜線上であることは確かであるが雪崩が怖い。出来る限り樹林近くを辿りながら、細かいキックターンで標高を稼ぎ、最後は少し大胆に登り切ると当初予定していたコルの南端に飛び出す。
頂上から望む宇和尻山 |
正にラッセル地獄である。ここまで来るとこの先の標高差は120mとは知っていても、次の一歩がなかなか出てこない。ここはこまめにラッセルを交代して乗切るより他に方法がない。斜面は思っていたよりも緩く、タイムリミットを意識しながらも、ゆっくりと標高を稼いで行く。進行方向の空が明るくなり、頂上部の一角に飛び出したようだ。平になった雪面の向側にはスキーのトレースも見られ、すかさずこのトレースへ逃げ込む。ここでやっと本日のラッセルは終了である。他の登山者の声も聞こえてくる。タイムリミットの13:00に5分早い12:55、春香山の頂上に到着である。頂上で会った登山者の話では、ちょっと前には30人以上の団体さんも入っていたとのこと。桂岡コース一番のハイライトである東斜面は、大勢のツアー登山者のシュプールで荒れている。
途中までの荒れ模様の天気とは打って変り、青空が広がり宇和尻山もはっきりと見える。頂上到着後まもなく、知った顔の2人パーティが上がってくる。サトシンさん(北海道の山スキー) とYOSHIOさん(YOSHIOの北海道山情報)である。HYML(北海道山メーリングリスト) で執筆中の“冬山ガイド”の取材山行で、サトシンさんがこの山に入山していることは予め知っていたが、こうタイミングよく頂上で出会えるとは思ってもいなかった。彼らは桂岡コースから登り、春香山頂上を経てオーンズスキー場へ下るとのこと。彼らに会えたことは我々にとって、無事頂上へ辿り着くことができたご褒美のようにも感じられた。
昨年の余市天狗岳の山行でも感じたが、下りの速さは登りに要する時間の半分以下である。この時期、基本的には13:00がタイムリミットであるが、備えさえしっかりとしていれば、14:00であっても十分に行動は可能である。(2005.1.9)
【参考コースタイム】道道1号線・夕日の沢登山口 8:30 → 春香山雨量観測所 10:30 → 春香山頂上 12:55、〃発 13:10 → 春香山雨量観測所 13:45、〃発 13:55 → 道道1号線・夕日の沢登山口 14:55
【メンバー】 saijyo、チロロ2