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       幌岳(649.2m)

 

 

右奥が羽幌岳本峰

 1/25000地形図「羽幌岳」「朱鞠内」

出発地点「ふれふいの家」の特徴的な建物
邪魔にならぬよう車を置かせてもらう
幻の鉄道「名羽線」の橋梁は今も残る

 道北の山は奥深い。その中でもさらに遠く深い山がこの羽幌岳だ。EIZI@名寄さんのサイト・山の時計 NAYOROで初めてこの山の存在を知るが、わずか649mほどの山でこんなに奥深いとあっては、とても登ろうなどという気にはなれなかった。ところが、道内全山登頂を残りわずかとするKo玉氏からのたっての誘いでこの山へ向かうことになる。久々にこの山行記録を読み直し、正月の時間が取れるこの機会にチャレンジしてみようかという気になった。山名は当然のことながら羽幌川の水源の山ということだが、厳密にいえば水源からは外れている。もっとも付近にはこの山ほど存在感があるピークは他になく、水源ではなくても十分にその名を称する値はありそうだ。

登山ルートはEIZI@名寄さんと全く同じであるが、この時期としてはこのルート以外には思いつかない。南側の国道239号線から上古丹別山を越えるルートも考えてはみたが、このルートでも約7km、しかも山越えとなり、登りのラッセルを考えればあまりメリットはなさそうだ。確実性を考えれば少々長くてもやはり朱鞠内からが第一選択となる。

1/2 スタート地点の「ふれあいの家」(旧朱鞠内小学校)は現在閉館中とのことだが、除雪だけはしっかりとされているので、邪魔にならぬよう車を停めさせてもらう。ここ一両日は強い西高東低の冬型の気圧配置、途中でしんしんと雪が降ってくるようなことにでもなれば、林道歩きとはいえかなりの困難が予想される。出発時、薄日が差すような空模様にとりあえずは一安心、快調にふれあいの里を後にする。

いよいよ大詰め、ピークへあと一歩
薄っすらピッシリ山の山塊も姿を現す

最初の2.5kmのラップタイムは約1時間、かなり順調なで出しといえる。脛くらいの軽いラッセルは先日の冬路山での膝までの重い雪を想像していただけに意外だった。気温はかなり低く、その分雪質が軽いことが功を相した形だ。ひょっとしたら今日中の登頂も可能ではないかと思えてしまうが、そこは冷静に考えて無理せぬペースでの前進あるのみである。幻の鉄道「名羽線」の盛土された路盤が林道に沿って続いている。この鉄道は名寄と羽幌を結ぶ路線で、昭和40年代前半に開通の予定だったが、その後の石炭産業や鉄道事業の変革によって完成を見ないまま放棄されてしまった。無駄といえば無駄であるが、プレートには地元土建業者の名が刻まれており、地元経済の活性化という意味では仕方のないことだったと思う。

出発してから3.3kmで最初の橋を渡る。次の石油沢を渡る橋は流されているとの情報を得ていたが、既に掛け直されていた。こんなちょっとした幸運の積み重ねが山行を成功へと導く決め手となる。程なく中股沢川との分岐となる橋を通過、朱鞠内川の左岸側へと移る。ここから両岸の尾根末端が迫った狭窄地形までの4kmほどが一番遠く感じられた区間である。右側には名羽線の路盤が続き、竣工はしたが使われることのなかったコンクリートの橋梁が数多く残されている。橋梁下のコンクリートトンネル内に残されているのは野生動物の足跡のみで、工事当時の賑わいなどは夢の跡である。

エゾシカの群れが我々に気付いたようで数百メートル前方を逃げて行く。彼らのラッセル跡は多少の凹凸があっても利用価値がある。利用できるものは何でも利用したい、このトレースは我々をサポートしてくれているかのように林道上にしばらく続いていた。途中、左岸から右岸へとルートを変え、遠くに見えていた狭窄地形がゆっくりと近づいてくる。狭窄部分は緩やかな峠となっており、帰り道ではシールを貼ったままにしておいた方が良さそうだ。ここを越えれば330m二股はすぐそこである。二股手前の最後のカーブは見事な雪崩斜面となっており、さすがに思いっきり斜面から逃げて通過する。出発当初の楽観的な予測とは裏腹で、既に日が翳り始めている。二股に到着したのは午後3時、ここまでの林道ラッセルに5時間もの時間を費やしてしまった。あとはどれだけこの日のうちに羽幌岳へ近づくことができるかである。

二股を後に、さらに30分ほど進んだ地点で水の流れを見つける。既に日は翳っており、泊りの装備を持ってこれ以上進んだところで、効率的に良いかどうかは疑問である。川から水が汲めるのであればテント内で水を作る心配もない。頂上まではざっと3.5km、登頂して午前中の内にここまで引き返すには十分な位置にある。ここをベースに明日の登頂を狙うことで全員が一致、この日の行動はここまでとする。夜半からは星が見える状態で、放射冷却のためかメンバーは一度目を覚ますと寒さで再び寝ることが出来なかったらしい。ちなみに、この日の朱鞠内でのアメダスの最低気温は−19.7℃、山中の広い凹地ということを考えれば、おそらく私の経験から言って−20℃をも下回っていたと思われる。

日が翳ってきた330m二股 水流が近くにある場所を見つけベースとする
暗いうちから行動開始 V字の谷を進む

1/3 暗いうちから出発の準備が始まる。用足しで外へ出るのもはばかられる寒さだが、昨夜からの新たな降雪はなく、昨日のトレースもしっかりと残っている。テントはそのままにして、日帰り装備でキャンプ地を出る。429mポコ手前の二股までは広い谷地形となっていて、平らな雪面に新たなトレースを刻んで行く。細々と続く朱鞠内川は蛇行しており、ところどころで沢底へと下らなければならない。昨日の長い林道ラッセルよりは変化がある分、思いのほか短時間で二股に到着する。寒かったとはいえそれなりに休息できたようで、体も気分もリフレッシュされたのだろう。目指す尾根取付きはここから約1km先、地形図上では最も気になっていた区間へと入る。両岸が迫った緩やかなX字地形となっていて、斜面のトラバースや小尾根の乗り越しはあるが難所というほどのものは出てこない。途中からX字の沢底を進んで行くうちに、やっと目指す尾根が見えてきた。  

取付きは急傾斜となっているが、大きく回り込んで上流側からジグをきる。数度のキックターンで緩い傾斜地へと飛び出す。まずは取付きに成功、ここまで来れば羽幌岳はほぼ手中にある。遠い遠い山と聞いていただけに嬉しさが涌いてくる。コンタ500mのポコを右に巻いた辺りで始めて本峰を確認、周りの山とは一味違った白い三角錐にひと目でそれと判る。つり尾根から540mポコを左に巻いた地点からは綺麗な双耳峰も姿を現す。後はコルから双耳峰の一峰・630m峰への緩い登りへと向かうのみだ。直接本峰へ向かうことも可能だが、やはり思い残すことのないよう、もう一つのピークも踏んでおきたい。

遥か遠かった羽幌岳頂上に到着

630m峰への登り、低山とは言っても周りの視界が大きく開けてくるのはさすがである。ピークからは遠く朱鞠内の平地が広がっているのを確認することができる。さて、いよいよ本峰への最後のひと登り、斜面は緩く障害物はなにもない。車止めから13.5km、ゴールは360°遮るもののない狭い高みだった。我々の到着を祝うかのように陽が差し始め青空も覗かせている。展望は雪雲が邪魔して薄っすら周りの山影が見える程度だが、ここに立っての開放感は抜群ある。そうこうしているうちにピッシリ山の大きな山塊が姿を現す。広さはあるが全体的に低いこの山域の中での標高1000mは他を圧倒するものがある。あまりゆっくりとはしていられない。ピーク登頂は折り返し地点に過ぎず、この後に降雪ともなれば再び林道の長いラッセルを強いられるだろう。Ko玉氏恒例の証拠写真を撮影、一晩凍らないよう寝袋の間に大事に置いておいた金麦を飲んで、復路のスタートをきる。

 今年の初陣は長い長い山行となった。一日目は10kmのラッセル、二日目は17kmもの移動、合わせて27kmである。特にこの時期の朱鞠内周辺は気温がかなり低く、テント生活も決して快適とは言い難い。こんな時期に選ぶ山でないことは重々承知していたが、結果的にはかなり充実した正月山行であった。年頭にこんな山をやっていれば、この後のツアー山行にも弾みが付くというもの。チロロ2さんは山行中に体のあちこちが痛くなり、この山が自分にとっての最後の山と思って歩いていたとのこと。だが、翌日の筋肉痛は全くなかったようだ。私も翌日の血液検査で肝機能・GOT値(過度な運動によって最大40%の上昇)のみが上昇していたが他は正常値となっていた。まだまだやれるとの証となった今回、日頃ついつい年齢を盾にしてしまう我々にとっては素晴らしいお年玉となった。(2012.1.2〜3)

【参考コースタイム】 (1日目)「ふれあいの里」9:50 → 330m二股 14:55 → キャンプ地点 15:30   (2日目) キャンプ地点 6:50 → 羽幌岳頂上 9:25、〃発 9:30 → キャンプ地点 10:50、〃発 11:25「ふれあいの里」15:30    (登り 7時間40分、下り 5時間30分)

  【メンバー】ko玉氏、saijyo、チロロ2

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