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     稲穂嶺(564.5m)銀 山(640.5m)

反射板があるのでそれと判る銀山(JR銀山駅への途中から)

 1/25000地形図「銀 山」

山容がかなり地味な稲穂嶺(縦走途中に撮影)
JR銀山駅の駐車場に車を停めさせてもらう
ホームの先でスキーを付けてスタート
標高を上げて行くと銀山付近の平野が見えてくる

  銀山と稲穂嶺、ネットでは良く目にする山名である。しかし、その山容だが、豊かなネーミングの割りにはぱっとせず、銀山は反射板があるのでそれと判るが、稲穂嶺は地形図と照らし合わせでもしなければ判らない、そんな特徴に乏しい両山だ。なぜ、そんな山がネット上にしばしば登場するのか…理由はその手頃感と展望であろう。特に稲穂嶺はJR銀山駅のホームが出発地点。列車を降りたその場から、すぐにスキーを付けて出発できる。こんな便利な山はそうそうあるものではない。マイカーの場合でも駅の駐車スペースが利用できるので除雪の心配がない。しかも、頂上からの展望はネット上の写真を見る限り360°遮るものなしである。さらに、下りの程よい斜面は山スキー愛好家にとってはたまらない。挙げただけでも良いこと尽くめである。銀山はこの山とセットなのかもしれないが、登り方のパターンは一緒なので、稲穂嶺を登ったら銀山も登りたくなるのが人情というものだろう。この二山の山名由来については、あまいものこさんのサイトの山名考が詳しいのでこちらを参照して頂きたい。

  小雪降る朝方、今日はドライブのみで終わりそうだと思いつつ札幌の自宅を出る。小樽を過ぎた辺りからは完全に荒天状態となるが、先週の察来山の例もあり、とにかく登山口までは行ってみることにした。変わらぬ荒天、案内地点のJR銀山駅まで3kmのカーナビ表示に半ば諦め気分となる。ところが、蓋を開けてみないと分からないのが山の天気、銀山駅が見えると同時に山が見えていた。とりあえずは途中までと、ホームの端でスキーを付けているうちに雪は完全に止む。その横で倶知安行のディーゼルが入ってくる様子は、正に地の利を得た山といった雰囲気である。さすがに人気の山で、ホームからは線路に沿ってスノーシューのトレースが続いていた。

 ホームから直接登る尾根は、途中に登り返しがあるのと、急斜面からのスタートとなるので敬遠されているようである。私もこの尾根を廻り込むようにトレース跡を辿り、次の尾根の末端まで移動する。今回は久々の単独山行であるが、やはり自分のトレースを描きたいという思いがあって、すぐに方向を変えてトレース跡を離れることにする。他人のルートに追従するだけではつまらないし、この山に自分で登ったことにはならない。ラッセルが辛ければ山行を取り止めれば良いだけの話である。ただ、如何せん同じ尾根、トレース跡は近づいたり離れたりと纏わり付くように続いている。ある程度標高を稼ぐうちに、銀山付近の平地が広がっている様子が見えてくる。ガスって何も見えなかった赤井川・カルデラの外輪山は相変わらず雪雲の中、銀山の平地を挟んで気圧の微妙なかけ引きが行われているような状態である。下手したらホワイトアウトも有りかもしれないと思いつつ標高を上げて行く。

ただ広いだけの稲穂嶺頂上 銀山への縦走途中、反射板が遠くに見えてくる
感動的に見えた樹木だが、載せてみるとそうでもない 銀山直下から稲穂嶺方向を見る。天気は回復傾向

 途中、送電線付近を通過、広く開放感のある雪原は気持が良い。昨日のものと思われたスノーシューのトレースだが、よく見れば新しいような気がする。少なくてもこの山へのアプローチでは荒天だった。そんな中で訪れる登山者など居るのだろうか… 私もこうしてこの山に登っている。チャンスがあれば行けるところまでは行ってみる、これが山ヤの心理かもしれない。左方向へと遠ざかる送電線を見ながら広い斜面を進んで行く。そうこうしているうちに前方に白い丘状の台地が見えてきた。時間的にも距離的にもそろそろ最後の登りだろう。台地への急斜面は左右に大きく広がっている。昨日からはそれなりに新雪が積もっただろうから、無造作にこの斜面に突入は出来ない。単独の辛さで、雪崩にでも巻き込まれたら、そこで万事休すとなる。疎林帯というか、樹林が比較的多そうなルートを選んで取付くことにする。ふと見ると上部に先行者が見える。大きくジグをきって登っている様子。私は真っ直ぐに登るが、後で彼らに聞けば、スノーシューでは真っ直ぐには登れなかったとのこと。

 急斜面を登りきると、広い台地上に出る。広い雪面の丸く膨らんだてっぺんが一見して稲穂嶺の頂上だと判る。頂上手前で先行した彼らに敬意を表し一時停止、頂上に到着する彼らを見届けてから私も頂上に立つ。聞けばご夫婦で、私よりは年配の方達のようだ。奥さんの方が山をやっているようで、ご主人は付き合ってやって来たとのこと。小樽に自宅があり、出発前に既に除雪作業を終えて来たらしい。この時期は北国に住む我々にとってはやたらエネルギーを使わせられる。そんな余計な仕事の後でも気軽に訪れることが出来るところもこの山の良さであろうか。

銀山頂上の反射板、銀山の象徴ともいえる
頂上付近の表層雪崩の跡、随所に見られる

  頂上からの展望は広がっているが、どの山も雪雲がかかっていておよそ山座同定とはいかない。唯一、隣の539mピークに設置された銀山群中継局とこれから目指す銀山頂上の反射板が見えている。標高が低いこともあって、この山のみは雪雲から逃れているのであろう。単独行者としては先を急ぐ身、ご夫婦と別れてそそくさと稲穂嶺を後にする。気温が低いために雪質は言うことなし、稲穂嶺からの滑りはシールを付けたままでも快適そのものだ。一滑りすると平凡な尾根歩きとなる。アップダウンは概ねショートカット、銀山までは距離がある割には時間はかからない。というよりは、年齢を重ねたせいか時間が速く過ぎてしまうように感じるので、感覚的な距離も縮まってしまったのだろう。稲穂嶺から約1時間半で銀山の頂上直下に到着する。

 正面に銀山の頂上と反射板が大きく見える。正面突破と行きたいところだが、斜面はカリカリで傾斜もある。北側に廻り込み、若干傾斜が緩くなった辺りから頂上を目指す。標高の割には一歩ごとに高度感が増して行くのが感じられる。そのダイナミックな眺望の広がりは感動ものといえる。たかだか600mクラスの山だが、平凡な尾根歩きの後だけに余計にそう感じられるのだろう。目の前の雪面の向こうに少しずつ反射板が姿を現し、全体像が見えたところで銀山の頂上に到着となる。天候がかなり怪しかっただけに上々の成果、やった !…心の中でそう叫ぶ。天候は回復傾向、余市の天狗岳や稲倉石山が薄っすら姿を現した。

 帰路、地形図を片手に予定通り下降尾根へと乗る。この尾根はなかなかの斜面だが、シールを付けたままでは楽しさ半減である。単独ということもあって、ここは慎重に下らざるを得ない。途中、林道に飛び出すが、そのまま国道を目指して真っ直ぐに下る。廃屋が所々に見られるが、除雪された道路へはなかなか出られず、しばし山麓を右往左往。そうこうしているうちに、何かの工事でもやっているのか、綺麗に除雪された道路の雪壁上に辿り着く。だが、道路に飛び降りてからが一番辛かった。車を置いたJR銀山駅までの約4km、その道程をスキーを担いでプラブーツで歩く羽目になる。特に道道1022号からJR銀山駅までの緩い登りは堪えた。こんな場合、ザックに回収用の靴を入れておき、装備一式をその場にデポ、空身で車の回収に走った方が速かったようである。

 道道を歩きながら縦走した山並みをじっくり眺めていたが、よく見ればどの沢形斜面にも表層雪崩の爪あとが見事に残っていた。昨日今日の積もった分がそっくり崩れてしまった格好である。最近は雪崩に対する恐怖感ををすっかり忘れていたが、スキーが面白そうとつい尾根を外してしまった場合、確実に雪崩を誘発するような不安定な状態ということだろう。一番衝撃的だったのは、銀山直下の取り付き地点から雪庇を挟んで10mほど下方の雪面だが、幅数十メートルに渡ってすっかり無くなっていたことである。 (2013.01.20)

【参考コースタイム】JR銀山駅 P 8:55 稲穂嶺頂上 10:10銀山頂上 11:45 国道 12:30 → JR銀山駅 P 13:30   ( 山行時間 4時間35分)   

メンバーsaijyo:15 山の手温泉(入浴)

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