<戻る

       二股山(568.7m) ・・・人気の「犬の巣川」遡行

双葉付近から見る二股山(中央)…秋の日に撮影

 1/25000地形図「渡島双葉」   

犬の巣川の取水設備・駐車スペースに車を駐める
最初の滝は小さい
ブタ沢では見慣れない光景1
ブタ沢では見慣れない光景2
小さいながらも変化に富んでいて楽しい沢である
一番落差のある滝を果敢に攻めるmarboさん

 “二股”の名が付く山は道内には三山あるが、道南・二股温泉の近くにある二股山がおそらくこの中では一番有名ではないだろうか。「犬の巣川」という川があって、その川が短いなりにも変化に富んでいて面白いらしい。沢の愛好家の間では人気急上昇らしく、その手頃感からかメジャーな沢となりつつあるようだ。そもそもは盟友・Ko玉氏が500m以上全山登頂を目指す途上、4年ほど前にこの沢に足を踏み入れてから口コミで世に広まった沢だが、Web上を覗いてその後の賑わいには驚かさせられたというのが正直なところ。山自体はおよそ沢ヤが登頂したいと考えるような代物ではないが、この川があるために強烈な根曲がり竹の藪をかき分け、500m程度のこの地味なピークに立とうとしている沢ヤが増えているようだ。考えようによっては気の毒とも言える話だが、面白いといえば面白い。我々は登りでこの有名な沢をトレース、下りはオリジナルなルートをとる計画である。

 余談であるが、よく「あの山はクマの巣だ」という言葉は昔から耳にしてきたが、「犬の巣」というのは聞きなれない言葉である。アイヌ語からの転訛とのことだが、語源に関しては丁度この日に偶然同じ沢に入っていたsakag氏(一人歩きの北海道山紀行・管理人)の山行記に詳しい解説が載っているので、こちらを参照して頂きたい。

 黒松内低地ということもあって標高80mの取水施設からの入渓となる。入って直ぐに規模は小さいがナメ床が現れる。「う〜ん、さすがに噂に違わぬ…」そう思わせるスタートである。ただし、水量はかなり少なく、何となくKo玉色が濃そうな沢、そんな雰囲気も感じられる。ところが、少し進むと落差はないがプールを持ったF1が現れる。噂やWebなどの先入観からか、ブタ沢とは一味違う変化に富んだ渓谷の片鱗のようなものが感じられる。予備知識さえなければさぞや楽しかっただろうに… 正直、装備のこともあってWebを覗いてしまった。この後に続く滝の連続は既に頭の中にあり、沢山行の醍醐味とも言える未知という面での興味を台無しにしてしまった。これがネット時代のつまらなさといえるのだろう。その後、規模は小さいが情報通りの変化が次々と現れる。

  210m二股は地形図上からは明瞭だと思っていたが、その手前の小さな沢形と勘違いしてしまう程度のものであった。この日は朝から霧雨となっていて、数日前からの水量がない状態を差し引いてもそれなりの流れはあるものと思っていた。そんなこともあって、二股をきっちり確認できないまま標高だけが上がって行く、何とも中途半端な状況と言える。次々と現れる小滝は大方登れるが、手掛かりは細かい。全体重をかけるのではなく、草付きでも登るようなだましだましの登りが良さそうだ。この沢で一番と思われる左側からスラブ状の滝が合流する6〜7mの滝、ここで先行するパーティに追いつく。我がパーティとは何やらなごやかにエールの交換をしている様子。見れば、R山岳会の面々である。丁度、私の山仲間であるSakaku氏が登っている最中だ。彼も“Ko玉氏の盟友メンバー”の一人で、500m以上全山登頂へ向けてのKo玉氏への貢献度は私などの比ではない。気が遠くなる程のko玉チックな山の数々、ここだけの話だが、彼のような“大人”でもなければとても付き合いきれるものではない。誤解を招かぬよう説明させてもらうが、Ko玉氏は決してブタ沢が好きな訳ではない。数知れない道内の山々全てを登り尽くそうと考えれば、その大多数がブタ沢遡行となるのは必然性と言えるだろう。

  この滝は左岸側から登るのが通常のルートだが、我がパーティには登攀系・藪ヤであるmarboさんがいる。彼は右岸側から取り付き難なく滝上へと抜ける。一般的な右岸側はどうなんだろう… 登ってみたが、途中からは立ってきたのでmarboさんが垂らしたザイルをゴボウで登る。もう少し頑張ってみても良かったかもしれないが、今日の私はピークが優先する。再びここを訪れるのは御免と、少なくてとも今日現在は思う。ここを抜ければ後は何もないと思っていたが、それはWebには載っていないだけというのが判った。実は次の滝も小さいながら微妙である。右岸側から登るのだが、バランスを崩そうものなら間違いなく落下するだろう。もっとも、このへんは個人差もあるのだろうが…

 この滝を過ぎても小滝はこれでもかといった具合に次々現れる。450m三股(地形図上)が近づいた頃、先行していたR山岳会パーティが降りてきた。頂上へは藪が濃いので行かないとのこと。確かにこの沢が目的であれば敢えて藪を漕ぐ必要などない。我々は頂上も然ることながら、未知の下降ルートのトレースも大きな目的、沢が細ってもまだまだ通過地点であり、いよいよこれからが本番である。450m三股は意外にあっさり現れる。ところが三股と思いきや、四股となっていた。さて、どれを選ぶかが問題だ。両側は外して中の二つ、二者択一である。水量等、常識的な線で左側? 下山後に他のWebサイトを覗いたところ、ここで我々と同じ左を選んで強烈な藪漕ぎを強いられた記録が数件載っていた。Webの利用法としてチラリズムは良くない。もっともこれはWebに限らずだが… 未知への興味が殺がれる上に下手すれば前者の轍も踏んでしまう。見るならしっかりと見る、見ないなら絶対に見ない、要はこんなところにも思いっきりの良さが必要ということである。我々は残念ながら見事に前者の轍を踏んでしまった。

その後もそれなりの滝は続く 間違えの第一歩であるスラブ状を進んでしまった
頂上は藪中だが、晴れていればそれなりの展望はあるだろう
地形図上の砂防ダム。左岸側の急な踏み跡が業務上のルート
地形図上の砂防ダム。左岸側の急な踏み跡が業務上のルート

 間違えルートの第一歩は長くて細いスラブ状を登る。少々傾斜があって微妙といえば微妙かもしれないが、どうと言ったことはない。更に進むと小滝が現れ、細くなった沢形はやがて寝曲がり竹の斜面へと消える。ここの根曲がり竹はかなり太く、押すと押し返され、乗っても足が地に付かない本物である。道北あたりのものとあまり変わらないかもしれない。これに急斜面がプラスされるのだから、藪漕ぎの醍醐味も本物となる。我慢、我慢… やがて、竹薮の隙間に空が広がり、傾斜が緩むと稜線上である。やった! 頂上を陥れたぞ。しかし、甘かった。いくら探しても三角点は見つからないので、私の旧式のGPSのスイッチを入れてみることにする。竹薮の上に手をかざして、やっと衛星信号を捕らえることに成功。見れば「最終目的地点 300m」 …嘘だろ!。marboさんだけが「やはり…」と一言。450m四股で常識的な線で考えたのが失敗だった。罰ゲームではないが、頂上までの強烈な藪漕ぎとなる。 

    頂上は意外と頂上らしく、ガスさえなければ展望も望めるかもしれない。待望の三角点だが、ここでもやはり見つからない。この件については他のサイトでも紹介されており、未だこれを発見したパーティはないようだ。ただし、絶対にここに埋まっているというところまでは特定したが、自然環境を考えて土を掘ることまではしなかった。終始霧雨模様、長居は無用である。今日の山行に備え、googleの航空写真の分析もやって来た。竹藪と樹林帯の大方の分布は判るが、思った通りに進めないのも根曲がり竹の藪、このあたりは十分加味しながら進んで行かなければならない。目指すはペタヌ川左股の沢の中流部、北側・枝尾根上の321m標高点にコンパスをきって頂上を後にする。

 下りの竹薮はなかなかの濃さで立ちはだかる。左側の落ち込みを意識しながら尾根上を進むが、油断すれば左右どちらかに引っ張られ、竹の束を跨いでの強引な修正を迫られる。航空写真では樹林帯のはずであったが、如何せん解像度が今一で、信用度も今一だった。予想外の尾根の状況に沢へ一気に下ろうと進むが、進めば尾根上が隣の芝生に見え、そちらへの未練も捨て難い。結局は誘惑に負けて、尾根上へ再び戻ることにする。約1時間も下ったのだからそれ相応の距離は下ったはずである。確認の意味でGPSのスイッチを入れて頂上との距離を測ってみる。「最終目的地点(頂上) 160m」 嘘だろ… 時速160mでは単純に考えれば今日中の下山は無理ということになる。竹の子取りで遭難した人間の気持が実に良く伝わってくる。一般の登山者を一緒に連れてくれば、間違いなく遭難したと慌てるだろう。そんな雰囲気である。しかし、我々には30mのザイルがあり、懸垂下降のハーネス、ピンを打つための道具まで取り揃えている。遭難者気分を味わうのは程々にして、ここから沢の源頭へと一気に下ることに決める。

 下り出せば早いものだ。根曲がり竹が織り合わせた状態で絡んでくるが、体重が追い風となるので、ぐんぐん下ることができる。沢形が現れ、流れも出てくる。やがて小沢となり、沢から川となって両岸の河原も出てきた。何処にいるのか確たる証拠はないが、コンパスの方向から言えば間違ってはいないようだ。滝らしい滝もなく、意外にあっさりとした下山になった。もっとも、そんなルートを見つけるのが今日の目的の一つでもあり、当然といえば当然の結果である。途中、送電線下を通過してからは保守用に刈られた道が沢に沿って続いている。後は車を置いた林道へそのまま続くはずであったが、地形図上に載っている古い砂防ダムでその道が突然消えてしまった。見れば堰堤の端に、下り用として残置された古いトラロープが残っている。ここではこの急な踏み跡を下るのが保守作業のためのルートのようだ。何事も締めが肝心、結局我々が下りでザイルを取り出したのは大事を取ってのここ一箇所だけであった。

 今回は下山ルートの開拓も含めて10時間を超える行動時間となってしまったが、判断の中途半端さがあったことも事実であり、もう少し時間を節約できたように思う。もっとも、新規にルートを考える山行であれば当然のこと無駄もありなのかもしれない。そんな意味では罰ゲームや笹薮の彷徨も含め、今後のためには大いに収穫の多い山行だったといえる。また、今回の下降ルートは、「犬の巣川」の下降に比べ、時間短縮や懸垂下降がないといった点では優れているように感じられたが、、濃い根曲がり竹の藪中でのルートファインディングの難しさといった点では大いに課題が残った。次回、再度二股山にチャレンジする機会があれば、藪尾根下降を選択肢とはせず、最初から沢の源頭を目指すアプローチで考えたいと思っている。(2012.8.26)

■同行したmarboさんのBiog

【参考コースタイム】犬の巣川・取水施設P 7:05 450m二股 10:40 → 二股山頂上 12:20、〃発 12:50 砂防ダム 16:10 ペタヌ川・林道入口 16:50  (登り5時間15分 下り4時間 )

メンバー山遊人さん、marboさん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga) 

<最初へ戻る