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    二股山(1155.6m)

牧草地の向うに見える二股山(右)とトムラウシ山(左端)

1/25000地形図「ペンケベツ」

籔漕ぎ本番、針葉樹の下枝がうるさい
雪原を歩いて行くと頂上丘が見えてきた
中央の笹の茂みが二股山頂上
林道入口付近に車を停める
集材路の途中で朝日を浴びながら休憩

北海道の重心があるといわれている十勝川上流域は十勝連峰と東大雪の山々に挟まれた実に自然豊かなエリアである。その中で十勝川本流とトムラウシ川が合流する、名実共にこの地域の“大二股”に位置している山がこの二股山だ。点の記では、二股から出発してこの山の頂上に二等三角点「二股山」を設置したとなっている。人跡も稀有だったこの地域にあって、特に地形的にインパクトが強い川の分岐点がそのまま点名になったと想像される。地形図作成にあたり、点名が山名として標記されている例は少なくなく、この二股山もそのまま山名となったのであろう。地味な山名のためか、私としてはこの山への登山は特に考えてはいなかった。今年の5月に「北の山に遊ぶ僕の山遊記」のnumaさんと我がチームのチロロ3さんがこの山とさらに上流域の三股山を計画、この時はあと一歩のところで頂上には届かなかったとのこと。今回は年内のリベンジを果すべく籔が薄くなるこの時期に照準を合わせたようで、それに便乗する形で私も参加した。

最近の道内ではエゾシカの個体数が増え、特にこのトムラウシ温泉へ向かう沿線は要注意である。整備された道路は走りやすく通過車両が少ないとあって、ついついスピードを上げてしまいそうになるが、群れを成したエゾシカはあとからあとから飛び出してくる。一度でも遭遇すれば嫌が上にも慎重になるが、出合いがしらに衝突でもすれば、こちらも無事ではすまないだろう。そんなことを考えながらどっぷり日の落ちた道道718号(忠別清水線)をペンケベツの先にある林道入口へと車を走らせる。月明りで薄っすら見えている遠くの山影はすでに真っ白で、ひょっとしたら明日の山は既にモノトーンの世界となっているかもしれない。二股山西側の山腹を巻くように続く林道途中に車を停めてテン場とする。空には星がきらめき、放射冷却のためか地面は霜で乾ききっている感じである。「こんな日は冷え込むに決まっているんだよな…」と思いながらスリーシーズンのシュラフへと潜り込む。毎年のことだが、シーズン初めの厳しい寒さなどはすっかり頭になく、その時その場になって思い出す。この寒さが寒いと感じなくなるには少々時間がかかりそうだ。

日が昇ってみると目指す山はまだ晩秋の様相でほっとした。この林道からさらに上がった先に集材路があり、かなり標高の高いところまで続いているとのこと。うまい具合にこの集材路への入口が見つかれば儲けものと林道をさらに車で進んでみるが、林道自体が怪しくなってきたため、無理せずに林道入口へと引き返すことにする。結局、5月のルートをそのまま進むことで決まる。先頭を行くnumaさんが、駐車地点からいきなり笹薮へと突っ込んだ。出だしから籔漕ぎか…と思ったが、さすがにこの時期ともなると藪は薄い。急斜面を5分ほど登って集材路跡へと飛び出した。こんなに近いのであれば、あまり考える必要などなかったようである。集材路跡は途中の小沢を越えたところで崖崩れのために斜面と一体化していたが、歩く分には何の支障もない。

つづらを幾度か繰り返すうちに視界が開けてくる。集材路とは、いわゆるブル道のことで、一見、息切れしそうな急角度で登って行く。そのためか、エネルギーは使うが意外と短時間に標高を稼ぐことができる。樹木に遮られていた視界が大きく開け、十勝連峰の真っ白い山々が大迫力で浮かんでいた。最初に十勝岳の特徴ある姿を同定、あとは全ての山々が順次判明した。いつも見ている姿が表の顔であるため、同じスケールで展開する逆の姿はかえって新鮮味があって素晴らしいパノラマとなっている。集材路跡は徐々に笹薮が被り始め、さらに上へと続いている。

集材路途中で視界がぐんと開ける (左から十勝岳、美瑛岳、美瑛富士)
集材路終点手前でウォーミングアップ

終点が近いとのことで、さらなる集材路跡の伸びを期待して逆側へと向かう支線に入ってみたが、残念ながらそれもすぐに終点となってしまった。そこからは籔の急斜面を直接登ることになる。とはいってもスパイク長靴のピンがしっかりと斜面を捉えるため、枝を掴まえながらの登高はぐんぐん標高が稼げてなかなか壮快だ。登り詰めたところで再び集材路跡が出現 …少々早がてんしてしまったようだ。集材路跡を日常茶飯事に利用する薮山登山では、この利用法も醍醐味の一つと言えるだろう。そこから真っ直ぐに進んだ先が正真正銘の終点であった。ここの標高は見ていなかったので判らないが、頂上への距離から逆算して、標高800m弱くらいだったと思う。

これは“やらせ” 本番では手元を見て固まっていた
雪面から掘り出された二等三角点「二股山」と金麦
雪面から掘り出された二等三角点「二股山」と金麦

いよいよ薮山本番である。すでにウォーミングアップを終えていることもあって、全開状態での籔突入となる。けっこうな急傾斜が続き、密生する針葉樹の細かな下枝をバキバキ折りながらの狭い尾根筋の登高となる。こんな傾斜はいつまでも続くはずがないと思っていたが、どうしてどうしてなかなか終わらず、しまいには岩壁まで現われた。そこは左から岩上へと抜けてなんとかクリア、今度こそ落ち着くかと期待したが急斜面はさらに上へと続き、いつの間にか主尾根に合流していた。下山時には注意していなければルートを外してしまいそうだ。結果的にはこの急斜面が今回の核心部であった。徐々に尾根幅が広がり積雪状態となってくる。ちょうど晩秋から冬期への境目を通過しているのだろう。登り詰めた先で一休み、GPSで見たところ、籔突入から水平距離で僅かに200300m程度しか進んでいなかった。標高差も同程度であるから概ね45°の傾斜を登ってきた勘定になる。

ニペソツ山はどの角度から見ても格好が良い(二股山頂上直下から撮影)

ここからは初冬の山である。稜線は広い樹林帯となっていて、樹林の間からは周辺の山々が見え隠れする。ただ、どれも部分しか見えないために特定は難しい。笹原が雪の重みで沈んでいるのはラッキーで、積雪がなければそれなりの藪漕ぎとなって消耗させられたことだろう。明るい樹林帯の雪原歩きは、足もとが多少不安定であっても気分的には高揚してくるものだ。距離は先ほどの急斜面よりは遥かにあるが、進む速度は比較にはならないほど速い。やがて、頂上と思われる丘状への登りとなる。雪面のツボ足歩行は思いのほかエネルギーを使わされるのか、暑くさえ感じられてくる。

最後はいかにも頂上といった感じのちょっと高くなった雪原に到着する。いつのものかは判らないが、色あせた標識が樹木に結ばれており、ここが二股山の頂上であることは間違いなさそうだ。さて、恒例の三角点探しである。根曲がり竹が積雪の重みで網の目状に邪魔していて、雪をかき分けた上に笹を引っ張り上げなければ地面付近の様子は判らない。インナー付きの作業用ゴム手を履いた私とチロロ3さんくらいしかこんな作業をまともにはできない。雰囲気的には当るも八卦、当ざるも八卦といったところで、結果など期待せずにピンポイントで探るより術がない。気合を入れて何ヶ所か探ってみるが、現われるのは雪に埋まった根曲がり竹のみであった。発見5%、ダメ95%というのが私の正直なところである。ふと隣りのチロロ3さんを覗くと、思いをぐっと抑えるかのように、両手を雪面に突っ込んだまま固まっていた。なんと、なんと!雪に埋まった三角点を探り当てた?凄い! 私も正直嬉しかった。あまりの感動のためか、彼女は完全にフリーズしてしまったようだ。

 三角点探しのために辺りの様子などまるで見ていなかったが、位置を移動させればかなりの展望が得られることをnumaさんに教えてもらう。確かに少し反対側へ下って行くと、ニペソツ山やウペペサンケ山などの山々が普段とは違った角度で迫力ある姿を現していた。樹林が多少邪魔するのは仕方がないとして、眺望の優れた山であることは間違いようである。下山後、この山の雄姿が見たくて、全体像がよく見える地点を探す。だが、探した先の放牧地から見る二股山は、背後に見える真っ白なトムラウシ山の引立て役でしかなく、その名が示す通りの地味な里山であった。(2010.11.21)

参考コースタイ 林道入口P 7:25 → 集材路終点 8:55 → 二股山頂上 10:50 、〃 発 11:40 集材路終点 13:10 林道入口P 14:10  ( 登り 3時間25分、下り 2時間30分  )

メンバーnumaさん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga)

 

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