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       富良野(1911.9m)

ワタスゲが広がる原始ヶ原と富良野岳

1/25000地形図「本幸」「十勝岳」   

登山口の駐車場は広い
苔むした「広原の滝」…これを過ぎると原始ヶ原は近い
原始ヶ原はぬかるみで、長靴は必携

6月から夏日が続く今年の暑い夏、高原の湿原というのはいかにも清涼感があり、こんな時こそはどこか魅力的な高層湿原から山に登ってみたいと思っていた。そんな中で考えたのが富良野岳と原始ヶ原である。読んで字の如く、原始の姿がそのままといった感じの「原始ヶ原」、秘境をイメージさせるなかなかのネーミングである。富良野岳の南側山麓に位置し、道内でも有数の広さを誇っているとのこと。ヌマガヤ、ミヤマイヌハナヒゲ、ヤチカワズスゲ、ワタミズゴケなど湿原植物からなっていて、アカエゾマツ林の深い森林帯と広い草原、周りを取り囲む高い山々と、実に豊かな湿原景観を造りだしているそうだ。富良野岳は何度も訪れた山であるが、原始ヶ原からのコースは私にとって今回が初めてで、大きな期待を胸に早朝の札幌を出る。

布部川沿いに付けられた沢コースの面白さはWeb上にも載っていて、原始ヶ原へ行くのであればこのコースからと決めていた。ところが登山口へ着いてみたところ、一部崩壊のため立入り禁止となっていた。いつもの「沢登り」と考えれば立ち入り禁止のロープを跨ぐことは簡単だが、さすがに立入り禁止は立入り禁止である。この日は参議院議員選挙の投票日ともなっていて、期日前投票をしていなかった私としては、20時までには札幌へ帰り着きたいところ。そんなことも併せて考えればここは時間的に短い林間コースが妥当なところだ。登山道は面白みも何もない林間の一本道で、途中一ヶ所「広原の滝」上流部で支流を渡るが、それ以外に変化らしい変化は何もない。渡渉後は急斜面にひと汗かいて、原始ヶ原へと飛び出す。

ミヤマオグルマ ハクサンチドリ イワブクロ(別名;タルマイソウ) 一番咲いていた花
ミヤマリンドウ トカチフウロ…この山域で最初に見つかったとのこと “高山植物の女王”と呼ばれているコマクサ

雨竜沼湿原など入山者の多いところでは湿原を保護する意味で木道などが整備され、歩道からはみ出すことは禁止されているが、ここの原始ヶ原はそういった人造物は一切なく、湿原の中をそのまま進んで行くことになる。今回は長靴を用意したが、何か土足で他人の家に踏み込んでいるようで、本当に立ち入ってもよいのだろうかとついつい考えさせられた。登山道はかなり不明瞭で、見える範囲内には距離を置いてピンクテープが結ばれているだけである。仮に、濃霧にでも見舞われようものならぴったりと戻って来ることは難しそうな感じだ。ここはとりあえずGPSに下山地点の位置を登録し、万全の構えで出発することにする。場所によってはズッポリと長靴ごと埋まってしまい、薄っすらと見える踏み跡を忠実にたどって行くことが被害を最小限に留める方策のようだ。仮に足回りが足首までの登山靴だったとしたら、かなり制約された行動を強いられていただろう。松浦武四郎も遠い昔この地を訪れたと聞くが、景色より何より、このぬかるみには四苦八苦したに違いない。

視界がない状態であれば単純に距離のみを考えるが、視界が利く湿原の場合は目的の富良野岳が実際の距離以上に遠く感じられる。そんな中で萎えそうな気持を癒してくれるのは、やはり初夏の湿原の風物詩とされるワタスゲである。湿原一面に広がる大群生と若い緑の草原は、時より吹く心地よい風と共に探し求めていた清涼感を存分に享受させてくれる。登山者の足跡は湿原の特性か消えやすいようで、今しがた通過したと見られるエゾシカの足跡のみが明瞭に点々と続いていた。中にはあまり考えたくないので話題にもしなかったが、ヒグマの大きなものも見られた。広い草原の端から端まで歩き、いよいよ登山道かと思うと次の湿原が現われ、これを何度も繰り返す。それでも、この湿原は平坦地ではないので徐々に高度を稼ぎ、隣町の遠い山と映っていた富良野岳の姿もだんだんと大きくなってきた。

ザレ場を過ぎたハイマツ帯、後方には原始ヶ原が広がる ザレ場の斜面はズリ落ちそうだ

笹が被り始め、いよいよ富良野岳への本格的な登りに入ったようである。ここまで来れば後は普通の登山道、修行僧のように黙々と登るのみである。南面の斜面であるにも関わらず雪渓が登山道を隠している。十勝岳温泉からのメインルートとは違って心細い感じのこちらの登山道は幾度となく見落としがちだが、少し冷静な思考に頭を切り替えさえすればすぐにまた現われる。木を見ずに森を見ている限り、大きく外すことはなさそうだ。完全に登りに入るとザレ場を一直線に上へと向かうことになる。今のこの時期はイワブクロが真っ盛りなのか、ついついその群生に見入ってしまう。さらに標高を上げて行くと高山植物の女王との異名を取るコマクサも姿を現し、爽やかな夏山の雰囲気を満喫させてくれる。

肩まで上がると登山者が集まる富良野岳頂上が見える

ザレ場から左側の背の低いハイマツ帯に入ると登山道は再び明瞭になる。背後の原始ヶ原はかなり小さくなり、ガスの切れ間に広がっている。これまでガスがかかってあまりよく見えなかった大麓山やトウヤウスベ山も大きく姿を現した。いよいよクライマックスである。ハイマツの中に続く登山道はジグをきってコンタ1890mで肩に飛び出した。目指す富良野岳ピークがやっと見えたが、逆に我々も頂上を取り囲むガスの中に入ってしまったようで眺望がなくなってしまった。頂上にはそこだけ登山者が溢れかえっているようで、たくさんの登山者がひと塊となっている。道中、他の登山者には誰にも会わなかっただけに何とも奇異な光景である。このコースは肩からお花畑が広がっていて見ごたえがあるが、これを見ようと降りてくる登山者は誰もおらず、頂上の一点のみに人が集中しているようだ。十勝岳温泉からのコース上に見られるお花畑で十分に満足したのだろう。

何度となく訪れたいつもの見慣れた頂上風景ではあるが、ルートが違えば捉え方もまた違ってくる。別のルートや別の登り方をすればその山の姿がしっかりと見えてくるせいだろう。頂上でひと休憩、あとは原始ヶ原へと再び下るのみである。さて、投票には間にあうだろうか?下山時間と移動の時間を考えれば1時間程度の余裕は作れそうだ。喧騒と静寂の中を短時間に行き来しなければならないこの日の登山であった。(2010.7.11)

参考コースタイム】「ニングルの森」登山口 P 8:30 原始ヶ原入口 9:45 富良野岳頂上 12:30 、〃 12:40 原始ヶ原入口 14:25 「ニングルの森」登山口 P 15:25  ( 登り 3時間、下り 2時間45分 )

メンバーsaijyo、チロロ2

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