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       風不死岳(1102.4m)

 

支笏湖対岸から望む風不死岳

 1/25000地形図「風不死岳」

国道脇の駐車帯に車を駐める
北尾根には急な一本道が続いている
途中から見下ろす大沢
残雪が消えて間もないところにはふきのとうが・・

風不死(フップシ)とはトドマツが多いところという意味のアイヌ語だが、宛字をそのまま解釈すれば風が死なないところとなり、取巻く支笏湖も昔からシコツ“死骨”がイメージされていたようで、両者併せて何とも殺伐とした光景となってしまう。現在の千歳も地名としてシコツでは縁起が悪く、昔はツルがたくさん生息していたことから縁起をかついでそのように改名されたそうだ。その経緯は良く解かるような気がする。私がこの山の名を意識するようになったのは昭和51年のヒグマ事件の時からだ。正に風不死・死骨を想わせる出来事だった。山菜採りに入ったグループのうち2名がヒグマに食い殺された事件で、連日のように新聞、テレビで報道されていたのを今でもはっきりと覚えている。生前の父が「バカだな…なんであんな熊の巣に山菜なんか採りに行っているんだ」と、なぜか一緒にテレビを見ていた私が怒られた。何の因果か今の私は父の意に反して毎週のようにヒグマの生息域を訪れている。結果的に親不孝とは思っているが、山との付き合いとはこんなものだろう。

風不死岳を訪れるのは今回が二度目となる。前回の時(二十数年前だったと思う)は夏の大沢を詰めている。F1、F2を巻いて上部へと抜け、核心部を通過してほっと一息もつかの間、上部はさらに困難だったのを覚えている。一番厄介だったのが岩の脆さで、テラス状で普通であればつい安全だと思ってしまうようなところが、いとも簡単に崩れ落ちてしまうのには唖然とした。手がかりというか足がかりが全くない状態のまま、かなり上部まで登り、最後は軽業師のようなI氏が右岸の樹林帯へと逃げてロープを張ってくれた。F1やF2の通過でも思ったが、この沢は総じて脆い。さすがにこんな沢には二度と入りたくはないというのがパーティ全員の一致した意見だった。チロロ2さんの話によれば、大沢は沢中に雪渓が豊富な4月下旬から5月上旬が割と簡単に登れるらしい。季節によって随分違うようである。

 今回はこの大沢を見下ろす北尾根登山道を歩いてみることにする。先々週までスキーを履いての登山であったため、この日も雪渓に備えてプラブーツにピッケルも用意しての出発である。林道が登山口となっていてゲートまでは車で入れるが、路面が悪そうなので国道の駐車帯に車を置いて行く。プラブーツでの林道歩行では何とも靴が可愛そうに感じられるが、雪渓登高を考えればしかたのないところだ。ゲートから先も急な林道がしばらく続く。途中からは本当の登山道入口が現れ、その登山道が地元によって意外に整備されているのには驚かされた。ただし、どこの登山道もそうであるが○○合目の標識はいらないような気がする。かなり登ったつもりで見る三合目、四合目の標識はただ疲れるばかりのものでしかない。修行僧好みの登山道は七合目付近まで延々と続いている。

風不死岳頂上に到着

途中で斜面を大きく右に巻く箇所があるが、それ以外はほとんど登り一辺倒の判り易いといえば判り易い登山道である。七合目からの詰めは速い。というのは変化が出てくるからそう感じるのだろう。途中、トラロープがあるので視覚的には安心できるが、もしここで立ち眩みでもしたら大沢の露と消えるだろう。そんな悪い想像をさせられるような痩せたところを通過する。しかし雪渓は全く出てこない、九合目を過ぎ、辛うじて残る雪渓から頂上ビール用の雪を袋に入れる。持ってきたピッケルを使ったのはこの時くらいのもの、でも少しは役に立ったのだから良しとしよう。今年は極端な気候で、冬からいきなり初夏になったと言われているが、積雪状態も同様のようだ。

頂上は大沢の荒々しさとは打って変わって、穏やかな笹原の中にある。しかもこの日は、前日の強風の影響か空気も澄み渡っていて、これ以上の展望は望めないといっても良いほどである。春から初夏へと移り変わるこの季節、高い山々には豊富な残雪が残りコントラストが一段とはっきりとしている。後方羊蹄山がぽっかりと浮かんでいる様は正に道央ならではの山岳展望で、支笏湖の湖面の青さがさらに彩りを添えている格好だ。こんな快適な頂上のひと時はそうそうあるものではない。そうこうしているうちに他の登山者も上がってくる。会話の中でネットの話題が出てくるのが今の時代。そんな意味では単にエールの交換のみならず、さらに一歩踏み込んで親しく歓談できる楽しさも加わったようだ。ついつい頂上展望を堪能しつつマッタリと過ごしてしまう。食わず嫌いの風不死とか死骨といったネーミングのマイナスイメージは何処へやら、そこにあるのは初夏の素晴らしい山岳景観への感嘆のみであった。(2012.5.13)  頂上からの眺め

     

【参考コースタイム】風不死岳登山口 8:15 不死岳頂上 11:00、〃発 11:45 風不死岳登山口 13:45    (登り2時間45分、下り 2時間)

メンバーsaijyo、チロロ2

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