<戻る

      エチナンゲップ山(780m)

1/25000地形図「太 陽   

スラブ状の最初の滝
最初の滝、上部から振り返る
木材の搬出場に車を置かせてもらう( この先200mで崩壊地点 ) コンクリートの橋梁のみが残っている
氾濫のために林道が跡形も無く消えていた 東面の沢出合から上流部

日高山脈の西側にはピウを始め、レサッピ、オロエナイ、ソロアンナイなど、変った名の付いた山が多いが、エチナンゲップという名はその中でも極め付けである。この山の山名の由来だが、故なかしべつ・すがわらさんによると「永田 方正『北海道蝦夷語地名解』、俗に永田地名解でも意味不明となっていて、その大方は聞き間違えとか表記の誤りであることが多い」とのこと。すがわらさんもこの山名についてはこれからの課題としていただけに、その結論はぜひとも聞いてみたかった。いずれにせよ、この山は地形的には目立った存在ではなく、山そのものというよりは付近の川や地形の特徴、当時の生活文化などの何かが語源となり、それがいつのころからか山名となって残ったのではないかと想像される。

このエチナンゲップ山、名前の面白さからか薮山趣向の岳人にはそれなりに名が通った山となっているが、Web上その他にあまり情報はなく、とりあえずは行ってみてからのお楽しみである。以前、この山の西側を流れる里平川沿いの林道からピウ岳へ向かったが、前夜の林道走行中に突然道路が崩壊して無くなっていたのには驚かされた。この山域は黒色泥岩層という崩壊しやすい地層が多いようで、Ko玉氏との事前の打ち合わせで里平川の林道を避けて東側の比宇川からのアプローチとした。もちろん、今回は夜が明けてから林道へ入ることにする。

林道へ入ると意外に踏み固められた路面に驚かされる。当初の予定では4〜5kmくらいは歩くことを覚悟していたので、予想外のアプローチの良さは嬉しい誤算だった。7年前の台風10号によるこの地を襲った豪雨は有名だが、その後の復旧工事によるものか、所々で新しいコンクリート擁壁によって道路はつながれており、結局、約7.5kmのうち5.5Kmほど入った木材の集積地点まで車を乗り入れることができた。伐採作業が現在行われていて、切り倒したばかりの木材が整然と積み上げられている。この作業のための林道整備だったようである。

車を降りて200mほどで道路は無くなっていた。一度河原へと崖斜面を降りて、再び残っている林道へと急斜面を登る。奥へ続く林道はズタズタ状態で、コンクリート部分のみが残っている橋梁やコンクリート擁壁のみのところなど、豪雨による激流の凄まじさを物語っている。おそらく今後復旧されることはまずないだろう。そのためか、エチナンゲップ山への出合が実際よりは遠いように感じられる。残骸となった林道は無いよりはマシで、気分的にも時間短縮となる。約1時間で、一面広い河原と化した東面の沢出合となる。見たところ、目指す東面の沢に水流は全く無く、荒れた感じの枯沢という印象である。

細々と沢形が続く最後の詰め 頂上へは尾根上のシカ道を辿る
702m標高点付近に特徴はない 釣鐘状のエチナンゲップ山頂上へはひと登り
二つ目の滝もスラブ状
最後の階段状の滝は見かけよりは容易

急峻な沢を選ぶか藪尾根を選ぶか、ここから先が何でも有りの“藪山山行”の 醍醐味である。ちなみに、臨機応変さ(彼をよく知らない人は場当り的な思い付きと思うかもしれない)は今回の立案者であるKo玉氏が最も得意とするところだ。少し進むと細々ではあるが水流が現われる。最初の400m二股は当然左で、次の440m二股が沢か尾根かの分岐点となる。エチナンゲップ山には二つのピークがあり、頂上は地形図に山名がある702m標高点か、南へ450mほど離れたコンタ780m最高地点かのどちらかということになるが、普通に考えればやはり後者となるだろう。前者については、おそらく標高点を記載した折に何となく山名もくっ付けてしまったように感じる。ここはまずは最高地点狙いで、オーソドックスな選択ではあるが沢筋を左へと入る。真ん中の尾根という選択肢もあったが、取り付きがあまりに急傾斜となっていて、ここは沢筋が妥当なところ。もし、帰路でこの尾根を下ってきた場合、最後は懸垂下降になるかもしれない。私としては、できれば別の尾根を下りたいものだ。

左に入って直ぐに次の二股が現われるが、頂上の近くへ出るのなら右である。ここから先がこの沢の核心部となる。Ko玉氏は「藪尾根へはいつでも入れる。ここは沢を楽しもう」と余裕もちらつかせている。見るとスラブ状の滝も見えているが水流はほとんど無い。途中の崖面には黒色泥岩層が千枚岩状となった部分が見られ、この山域全体の地層の脆さがうかがえる。後日、「北海道の沢登り独断ガイドブック」の著者であるGanさんから数年前に同じルートから登ったとの山メーリングリストへの投稿があったが、彼の山行報告の中でミルフィーユ(パイ地のお菓子)や色とりどりの岩盤といった表現があったのは確かに記憶している。しかし、それが今回の我々が取ったルートと同じだったとは全く気付かなかった。

私にとっては計らずも今シーズン最初の沢登りとなったことや、フェルト底ではなくスパイクシューズを履いてきてしまったことなど、スラブ状の滝登りには不向きな足回りに正直なところ岩盤をじっくり見る余裕などは無かった。それでもスパイク靴で平気で登っているメンバーがいるところを見ると、道具のせいではなく私の垂直感覚だけが未だ眠っていたのかもしれない。何はともあれ、ここは二度ほどロープを出してもらう。5〜10mほどのスラブ状の滝を2、3越え、10m以上はありそうな階段状の滝(見かけよりは容易)を登って核心部は終わりとなる。浮石の多い細々と続く沢筋の最後は急な泥斜面となって稜線へと消えている。ここまで来ればスパイク靴の出番である。沢筋を避け、背の低い笹薮の急斜面を登り詰めて難なく稜線へと飛び出す。

702m標高点にて エチナンゲップ山頂上にて

飛び出した地点にはとちょうど古い集材路跡が尾根を跨ぐ形で通過していた。これを利用すれば楽に下山できるのでは?とも考えたが、冷静に考えてみると、この道路跡の起点が向う側かこちら側かは判らない、ましてや歩いてきたアプローチの林道でさえ崩壊しており、ここを下ったところで決して良いことはなさそうだ。頂上へは尾根上に続く登山道のようなシカ道を辿る。最後はガスの中に釣鐘状の頂上部が姿を現す。急斜面の藪は薄く、すぐに狭くて小高い頂上へと抜けることができた。樹林に覆われてはいるが、回りがぐるりと急斜面となって落ち込んでいることもあって、頂上らしい頂上といえる。直ぐ下の斜面にはヤマツツジが満開で、緑一色の景観に彩を添えていた。ガスのために頂上からの展望が確認できないのは残念だが、いつもミリオンの道路地図で気になっていた山だけに達成感だけでも十分だ。

次は702m標高点である。登ってきたシカ道を逆戻りして、集材路跡からさらに続くシカ道を緩やかに下って行く。途中、少し登り返した何処といって特徴のない単なる通過地点がGPSの示す702m標高点であった。先頭は通り過ぎてさらに進んでしまう。GPSを見なければ私も気付かなかったし、草木の繁るこの時期に地形図のみでここを特定できる自信はない。時期的なものか、ズボンに小さなマダニがくっ付くため、誰一人として座って休もうとはしない。東側には気のせいかエチナンゲップ山という横に並べた巨大な縦文字が見えるようにも感じられたが、もちろん私の思い過ごしであった。(2010.6.20)

■山ちゃんの「エチナンゲップ山山行記」へ

参考コースタイム】木材搬出地点 P 8:10 東面の沢出合 8:50 エチナンゲップ山頂上 11:20、〃 11:35 .702 標高点 11:55 東面の沢出合 13:10 木材搬出地点 P 14:15  ( 登り 3時間10分、下り 2時間40分 )

メンバー】Ko玉氏、山ちゃん、タッチーさん、キンチャヤマイグチさん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga)

<最初へ戻る