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      阿根山(576.4m)

維文峠から見る伊阿根山

 1/25000地形図福 原

冬期閉鎖のゲート前にテントを張る
伊阿根山頂上は広い雪面となっている

あまいものこさんからの伊阿根山・雲居山の山行計画の話しに、直ぐに地形図を眺めてみる。両山・北側の地形が特に印象的で、コンタ300mくらいから下は、いきなり緩斜面となっている。この特徴的な地形から推測し、付近は湖だったのではないかと感じた。山行の終了後にWeb上を探したところ、やはり和寒町・福原付近はかつては湖であったと載っていた。昭和の初期にはダムも計画されており、効率の面からも格好の予定地となっていたようである。また、この地ではクロム鉱の採掘が行われており、金を始めとする貴重なレアメタルの産出地ともなっていたようだ。

雲居山〜鉄甲山にはこういったヤドリギが数多く見られる
下降尾根から見た雲居山(左)と伊阿根山(右)

例年以上に早い今年の雪解けに加わえて、低山ということもあり、最初は全山薮漕ぎ覚悟の計画であった。前日、地元旭川のOginoさんから「両山とも南斜面でもまだ雪がついている」との本掲示板への書き込みがあり、足回りをスパイク長靴から急遽プラブーツへと変更する。さすがに付近は幌加内町・母子里と並ぶ道内屈指の寒冷地域である。伊阿根山、これはエアネヌプリの当て字とのことで、あまいものこさんの話では細長く険しい山とのことだが、周辺の山と山名は入れ替わっているとのこと。同名の山はこの山域にはいくつかあるそうで、この名の意味する地形の観察が楽しみである。

 維文峠までの道路には既に積雪はなく、目指す伊阿根山を目で探しながら歩いて行く。峠までの間、一度も同山を確認することはできないが、峠に到着すると真正面に存在感のある姿が現れる。峠から広い稜線上へ入り、やっと山らしくなったと思ったが、巻き気味に進んで行くうちに、平行するように走る林道に出てしまう。伊阿根山は道央では話題にも挙がらない山であるが、林道上にはスノーモビルやスキー、スノーシューなどのトレース跡が見られ、地元ではよく登られているようである。アップダウンが多い稜線上を歩くよりは林道を行く方が遥かに効率はよく、遠く見えた伊阿根山も、意外に簡単に取付き地点へと到着する。あとは頂上を目指して急な斜面を登るだけだ。雪面は硬く、キックステップで快調に上がって行く。背後には鷹栖付近の平野や遠く旭川や大雪山付近が大きく広がっている。頂上までは意外に近く、最後は傾斜が緩んで丘状の伊阿根山到着となる。樹林の間からは雄大な展望が広がっているが、これも木々の葉が落ちた冬場だけのものであろう。無理矢理エアネヌプリを示す地形に当てはめて観察してみる。弓状に続いている稜線はよいとして、雪面が広すぎて持っていたイメージとは少々違うようである。

 伊阿根山から見る雲居山は綺麗な二等辺三角形である。下降は登路を辿らず、その麓を目指して一気に下る。程よい傾斜のグリセードは何とも楽しいものだ。辺乙部川の源流部から少し登り返すと、峠に近い道路へ飛び出す。ここから雲居山へは伊阿根山から見るほどの傾斜はなく、約30分の登りである。途中から見た福原付近の盆地地形は、正に湖であったことを伺わせる。満々と水をたたえた美しい湖面の様子すら容易に想像できそうだ。風が冷たく開けた伊阿根山頂上と比べ、こちらはどこにでもあるような樹林が覆う里山の頂上である。福原側からはスノーモビルの爆音が響き渡っているが、こちらを目指して上がって来るほどの元気はない。冬場は散々野山を荒らしまわったモビルも、親からの購入資金援助の名目、例えば融雪剤散布などに便利など、名目程度に使って見せているのではないかとの話題になる。雪が消えて行くこの時期にあっては、それほど虚勢を張っているような響きにしか聞こえてこない。

峠から雲居山への登り 雲居山頂上は雑木林の中

 最後の一山、鉄甲山へと向う。鉄甲山にはどこといった特徴はないが、強いて挙げれば頂上付近を送電線が通過していること、いや、それすらどこにでもある話しである。鉄甲山の正式な読みは判らないが、鉄工なのか鉄鎧なのか、いずれにしても現送電線と平行して、頂上を通過していたであろう送電線跡を見る限り、送電線との関連性が興味深いところだ。最近、新規の道路に掛かる橋などの名称を見ていると、地域の歴史や古くからの地名とは無縁のものが多いように感じられる。意外にこの山の名称もそんな安易さの上にそう呼ばれるようになったと考えても不自然ではない。

鉄甲山頂上付近からホンダのテストコースを望む

 低山ではあるが頂上の見晴らしは良い。特にホンダのテストコースや蕎麦で名高い旭川・江丹別の盆地など、今の日本に無駄な土地など少しも残っていないといった様子を見ることができる。地味な一山ではあるが、地元密着型の里山と言えそうで、それなりに意義深さを感じる。頂上からは皆地形図を手に取りながら、車止めへの寸分の狂いなき到着を目指す。メンバーが競うようにルートを決めて行き、最後はどんぴしゃの到着であった。

 今回の山行を振り返り、仮に高い山からこの周辺を見渡した場合、どこがどの山なのか山座同定することすら難しいだろう。だが、400600m程度の尾根上から見ればどの山もそれぞれに存在感が増し、ホンダのテストコース脇の高砂山(標高464m)ですら、立派な一山で、つい登ってみたい衝動に駆られてしまう。この手の山の魅力とはそんなところにあり、どんな低山であれ、それぞれの個性とじっくり付き合うことによって、考えてもいなかった充実感が得られるものである。伊阿根山と雲居山、名が移ってエアネヌプリは本来は雲居山がその名が示す地形だったようであるが、さらに広範囲で見た場合、ひょっとして福原を囲む山々を総称してエアネヌプリと呼んでいたという見方もできないだろうか。当日の朝、晴天予想にも関わらず、なぜか雲居山のみガスがかかって見えなかった。地形的なものなのか偶然なのか、確かに先人のこの山への命名は間違ってはいなかったと感じる一場面であった。(2008.4.12)

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【参考コースタイム】 ゲート P 7:25 維文峠 8:25 → 伊阿根山頂上 9:40、〃発 10:00 → 雲居山 11:10、〃発 11:40 鉄甲山 12:30、〃発 13:00 → ゲート P 13:40  (総登山時間;6時間15分)

  【メンバー】あまいものこさん、marboさん、saijyo、チロロ2

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