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      大天狗岳(567.1m)

  

  

おびらしべ湖の上流部から望む大天狗岳
おびらしべ湖の上流部から望む大天狗岳

1/25000地形図天狗岳」

林道は粘土質  倒木で行き止まりとなる
大天狗への沢は細々と続く

 天塩山地主稜線の西側は道内では登山情報の空白地域と言ってもよい。高い山でもせいぜい標高は500〜600m程度で、藪に覆われた頂上では展望も期待できないばかりか、そのアプローチとなる林道の状況も判りづらい。おまけにヒグマの恐ろしさを題材とした小説「羆嵐」(吉村昭著・新潮社刊)の舞台となったエリアとあっては、登山というイメージとはほど遠いものがある。ただし、それだけに手付かずの“北の山”がしっかりと残されている地域であり、藪山志向派としては自分達の山行スタイルを十二分に生かすことができるエリアと言える。ヒグマの習性を生々しく伝える三毛別羆事件”については、今後、奥三毛別山にでも登頂する機会があればぜひ触れてみたい。

いよいよ稜線への詰め、急な雪渓を登る
サクラソウはいたるところで見られる
ニリンソウが美しい
大天狗岳頂上に到着   三角点を囲んで

 “大天狗”の名が付く峰は道内には二ヶ所あるが、どちらも標高は500m台と低く、高さでは完全に名前負けする感じである。しかし、両山とも、その山容は“小粒の山椒”と言える厳しさを秘めており、容易にはその登頂を許さない。“天狗”と呼ばれる山には同じ山域に小天狗、さらには中天狗を従えていることが多い。後芦別山群しかり、定山渓天狗しかりである。今回目指した小平・達布の大天狗岳は、今でこそ地形図から小天狗の名は消えたが、周りにしっかりと二山を従えた山域の盟主である。東側に大岩壁を張り巡らし、正に天然の要塞ともいえるこの大天狗、ポイントはこの大岩壁の弱点をどう攻めるかである。

 アプローチとなった林道は、最初はアップダウンも少なく快適な感じであるが、途中二ヶ所で倒木に行く手を阻まれ、鋸を出して林道上の倒木処理にあたる。この林道へ入る車はあまりないのか、だんだん荒れ気味となり、林道上の土も天塩山系特有の粘土質とあって、ぬかるんだ轍にタイヤが取られそうになる。さらに進むと大きな樹木が倒れて道を塞いでおり、さすがに車両はここまでである。林道終点からは雑草の繁る林道跡を進み、途中から入渓する。粘土質のためか、かなり水は濁っていてとても飲めそうにない。しばらくは単調な河原歩きが続くが、進んで行くうちに突然朽ちたコンクリートの橋脚が現れ驚かされる。林道が付近まで伸びていたのだろうと納得したが、あまいものこさんが炭鉱の遺構であるホッパーを見つけ、自然回帰してしまった炭鉱跡であることが判る。こんな山奥にも以前には炭鉱があり、石炭を運ぶ鉄道が走っていたということである。汽笛を鳴らして走るSLの当時の勇姿を想像するだけでも、鉄道ファンならずとも興奮する思いである。産出された石炭は続く天塩炭礦鉄道(留萌〜達布)を経て留萌港へと運ばれて行った。今となっては炭礦鉄道隆盛期の“夢の跡”である。

 平凡な河原歩きが続き、コンタ190mの二股となる。両股とも小さな釜となっているが、全く問題なく通過する。雪が消えて間もないのか、泥質の斜面にはアイヌネギやコゴミが姿を出している。また、足元にはザゼンソウなども見られ、さすがに豪雪地帯の遅い春である。コンタ240mで再び二股となる。右股には大天狗岳の大岩壁が頭上に望まれ、大きくハングっているその迫力には圧倒される思いである。両岸がかなり狭まり、傾斜の増した沢筋には雪渓が現れる。スパイク地下足袋程度のフリクションでは何とも心許なく、潅木や笹の生える尾根筋へとルートを変更する。この時期の雪渓は意外に深い落とし穴が待構えていて、藪へ逃げるといった選択肢もあながち邪道とは言えない。地形図上で岩壁がない地点を探り、いよいよ最後の詰である。詰は草木の繁る急斜面であるが、潅木に伝ってさえ行けば何とかなりそうだ。ここまでの状況ではとても500m程度の山とは思えない奥深さを感じるが、稜線上へは意外と簡単に飛び出す。やはり奥深くても低山である

コンタ190mの二股、両股とも小さな釜となっている 頂上から少し歩くと小天狗岳(標高575m)も見える
雪が消えたばかりの小沢は山菜の宝庫となる 天塩山地の主稜線が小高く望まれる

 稜線上の藪は意外に薄く、頂上へは簡単に到達するものと思えたが、標高を上げるごとに根曲がりの密度が増してくる。悪いことに枯れた山葡萄のツルが絡まってザックを引っ張るため、容易には前へ進ませてくれない。シーズン始めとはいえ意外な苦戦である。密度の濃い薮の中では位置が特定しやすい崖の縁にルートを取らなければ迷ってしまいそうだ。竹薮の隙間からは吸い込まれそうな崖下が望まれ、竹薮ごと崩れ落ちるのではないかとつい嫌な想像が頭を過ぎる。ふと見ると足元には竹の子が顔を出し、そちらにも気を奪われるから困ったものである。

 苦戦しつつも何とか三角点のある頂上に到達する。既に到着していたメンバーは崖を見ようと崖側の潅木帯へ降りていったが、見ている方が怖い感じである。少し薮が被った頂上ではあるが、釜尻山や三頭山をはじめ、天塩山地の主稜線が小高く望まれる。また、苫前付近の海岸線には風車も確認でき、薮山としてはまずまずの展望である。頂上から少し歩くと小天狗岳(標高575m)も見えるが、こちら大天狗岳よりも若干標高が高い。大と小の差は高さではなく岩壁の大きさの差であり、その迫力の差であろう。その後には奥三毛別山が見えるはずであるが、小天狗岳が邪魔してこちらからは見ることができない。頂上ビールに記念撮影、山座同定等…しばし秘峰のピークに時を過ごす。

 札幌・藻岩山と同程度の標高しかない大天狗岳ではあるが、山の面白さは高さだけではなく奥深さや険しさも大きな要素であることを実感させられた。それを克服しての登頂は日高や大雪の一山を登るのに比べ、勝るとも劣らない充実感を味わうことができた。それは自分達で山を見つけ、その地形図から多くのルートを考え、さらには頭の中でシュミレーションし、実際に行動へ移し完結するといったプロセスの中から湧き出す喜びとも言える。(2006.6.4)

参考コースタイム】 林道・倒木終点 6:30 → 190m二股 7:10 → 大天狗岳頂上 9:55、〃発 10:30 → 途中、山菜取りに時間を費やす林道・倒木終点 13:30

メンバー】Ko玉氏、EIZI@名寄氏、Ogi氏 、あまいものこさん、キンチャヤマイグチさん、Naka氏、Nakasiさん、saijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga)

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