貧乏山(501.0m)
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1/25000地形図 「大沼公園 」
カーナビの案内通りに進んだが、ゲート前でリタイア |
「水源かん養保安林」案内板、これを見て林道が近くを通ると確信 |
今も伐採作業が行われているようだ |
貧乏山、この奇妙な山名を目にしたのはかなり昔のことである。藪山登山を始める前のことであり、こんな山に登ることなど頭の隅にもなかった。最近、仲間内では貧乏山はよく話題に挙がるが、端境期に人気の道南にあることも然ることながら、やはりネーミングの面白さがその理由であろう。昨年「一人歩きの北海道山紀行」のsakag氏が地元ということもあって登頂、この山の様子がネット上にも紹介された。見れば簡単そうな山で、林道を利用すれば容易にその三角点を踏むことが出来そうだ。
道南三日目も天候は不安定、登ったことがない山として横津岳をピックアップ、旧横津岳スキー場へと車を走らせた。だが、ガスや雨ならまだしも、雷とあってはさすがに怖くなり、そそくさと逃げてきた。昨日は森町の道の駅で車中泊、今日は帰るのみである。今回の道南遠征は不安定な天候に邪魔され、予定していた山々は概ね不発に終わっている。ならば大沼観光でもと、車を走らせているとカーナビに貧乏山が表示された。遊び半分でカーナビの目的地をこの山に設定すると案内が開始される。無理とは思ったが、当然のこと案内されるままに進んでみる。5km、4km…と距離が縮まり、残り1kmの地点でゲートとなる。ここまで来ればそのまま帰る手はない。
林道からは、この刈り分けへと入る。頂上は近い |
三等三角点「貧乏山」 これに触るかどうかは迷うところ… |
ところが地図は無く、たとえ近づいて行ったとしても、頂上の特定となると難しいように思われた。いろいろ考えた末、札幌に居るチロロ2さんに電話し、写メールにて地形図を送ってもらうことにした。待つこと5分、付近の1/25000地形図が送信されてくる。だが、携帯の小さな画面では老眼鏡をかけても大体の様子しか判らない。後で考えれば、sakag氏のサイトからルート図をダウンロードする方法もあったのだが、こんな時には不思議とそんなことには気付かない。思案の末、ザックのどこかにGPSが入っていたことに気付き、チロロ2さんに再び電話して三角点の緯度・経度を送ってもらう。結局のところ時代はアナログよりもデジタルだった。
直線にして距離600m、ゲートの横からカリマ林道へと入る。林道は大きく右にカーブ、カリマ川作業道の入口を右に見て、そこから左へと折り返し徐々に標高を上げて行く。この日の天候は相変わらずの不安定、強風が吹いている。ただし、連日の暑さもあって、強風でさえ心地よい。この時期うるさいアカウシアブでさえ寄って来ないのだからなおさらである。距離が直線的に縮まって行くので、正面に見えている広い尾根上が貧乏山であろう。そのまま進むと距離100m前後まで縮んで、GPSの矢印が垂直になる。藪へ突っ込むことも考えるが、林道を進みながら様子を見るのが得策だろう。林道は貧乏山を回り込むように続き、4/3周ほど回り込んだ先で三角点のある伐採地へと入り込む刈り分けを見つける。入口には「地球環境保全の森
記念植樹」の看板を見るが平成6年のことで、7年経った現在、その後は手付かずといった感じでかなり荒れている。作業地内は何本かの刈り分けが入っていて、GPSを覗きながらさらに奥へと進んで行く。この様子を仮に昔の人が見ていれば、間違いなく宇宙人と思うだろう。結局のところ、一番奥の刈り分けの行き詰まりが貧乏山の頂上だった。
三角点「貧乏山」は地面から飛び出しており、離れたところからでもすぐにそれと判る。言わば貧乏の絶頂に到着である。触ると貧乏が乗り移るのでは…
つい触れることを躊躇ったが、後日、OtaさんからのFacebookの書き込みで、「私なら貧乏を擦り付けてくる」とあり、そんな発想もまた真なりかな?
と思った。彼の論理では、私は持って行った“貧乏”をそのままかかえて下山してしまったことになる。今後どうするかは私のふところ具合と相談しながら考えてみようと思う。この貧乏山について、sakag氏の山行記によれば、以前に小学館「小学4年生」に漫画で登場、UFOの基地がある不思議な場所ということで紹介されていたと載っている。こんな北海道の藪山が全国区となったこと自体が面白い話で、できればそのUFO話はぜひとも信じたい。
下山後、ゲート前で一休みしていると、いきなり私の車の横を3台のオフロードバイクが猛スピードで通過していった。一応、ここもバイクの走行は禁止されているようだが、彼らはゲートの横をすり抜け、騒音を撒き散らしながら林道の奥へと消えていった。UFOの化けた姿かとも思ったが、いやいや、当時の「小学4年生」を読んでいた子供達の成長した姿かとも思った。いずれにせよ、ちょっとしたタイミングだったが、心静かに“貧乏”を楽しむことが出来たのはラッキーであった。(2013.8.17)
貧乏山の山名について、札幌の中央図書館で七飯町町史を調べてみた。この地区の名が軍川・いくさがわで、ここに住んでいたアイヌ人酋長の名からという説が通説と載っていた。だが、貧乏山についてのそれらしい記述はどこにも見られなかった。思うに軍川付近の開発は、いろいろな計画の中でいろいろな人達によって、冷害などによる不作、あるいはヒグマ等の獣害、その他多くの障害に耐えながら行われていたようである。当然のことながら、こんな土地ではそのものズバリ「貧乏」の名が山の名となっても決しておかしなことではないように思う。道内各地に見られる「共栄」「豊里」等の地名は、言い換えれば「貧乏」「貧困」の裏返しであり、基本的にはどれも同じ貧乏状態だったのだと想像する。
【参考コースタイム】 カリマ林道ゲート P 7:35 → 貧乏山頂上 8:10、〃 発 8:20 → カリマ林道ゲート P 8:40 (登り 35分、下り 20分)
【メンバー】saijyo