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    美瑛岳(2052.2m) ・・・ 微妙だった長靴登山

 

雲の平付近から望む美瑛岳

    

1/25000地形図 「白金温泉」

十勝岳にも雲がかかりはじめる
頂上からの美瑛富士は丘程度にしか見えない
出発時は風は強いが晴天だった
ポンピ川は雪渓に埋まっていた
美瑛岳がぐんと近づくが、なかなか進んで行けない

  美瑛岳に前回登ったのは実に35年前だった。まだまだ若く、そのまま気軽にオプタテシケ山まで足を伸ばしたのが昨日のことのように甦る。そんな記憶は良き思い出として取って置くのが良いのかもしれない。歳相応という自覚は絶対に必要であった。

 晴天が予想されるこの日、久々に美瑛岳〜美瑛富士でも歩いてみようと準備はしたが、つい寝過ごしてしまい、4時札幌発の予定が、5時半の出発となる。入山予定の望岳台には9時着。周囲を見渡して、えっ!と思った。 3年前の同じ時期に十勝岳へ入っているが、その時にはここからスキーを付けて入っている。今回は何と初夏の光景である。それどころか、標高の高い十勝岳避難小屋付近にさえ雪渓は残っていない。地球温暖化とは言われているが、その影響かどうかは判らないが何かしらの恐ろしさを感じる。足回りの選択肢としては長靴とプラブーツを持って来たが、この状況では当然長靴だろう。ピッケルも持ってはきたが場違いの感じである。目指すは美瑛岳・美瑛富士、余裕綽々とはこのことだと感じた。

 写真目的と思われる先導者には「おはようございます」とエールを交わし、滅多にないHighな気分で登山道を飛ばす。単なる登山道歩きと、半分バカにして美瑛岳分岐まで進む。ここで、登山ルートを外してしまい、GPSで修正、まあ、こんなこともありか・・ といった気分だった。雲の平付近から思わぬ雪渓が現れた。フラットな登山道とは違い、雪渓は斜面と同じ角度で前方を塞ぐ。キックステップで進まなければならないが、今日の選択は長靴だった。盟友のIkkoさんは年中長靴で山に登っている。そう考えれば決して無謀な選択ではないように思えた。先行パーティがいるようで、ステップが続いている。ある程度であれば長靴でもOKだろう。不安定さは感じるが雪渓上のステップに新たなるステップを刻んで進んで行く。

 何度か登山道が現れ、再び長い雪渓上のトラバースが続く。しばらくそんな状態が続いて、ポンピ沢の通過となる。ポンピ沢は完全に雪渓に埋まっていた。地形図を見ても、実際を見ても、ここから先はかなりの急斜面を登ることなる。途中から斜面を見てはいたが、見ている位置の角度的なものからか、壁としか映らなかった。こんなことはよくあること、実際に斜面に入れば、それほどでもないことは多い。時折現れる登山道と雪渓のミックス状態の中、急斜面へと入って行く。

 傾斜が徐々に増して行き、そんな中、最初の雪渓が現れた。先行パーティのステップは明瞭で、それを利用しさえすれば、通過は可能と思えた。入ってみると、潅木や笹薮もあり、少なくても滑落する危険はないように思う。ステップは心許なく、潅木や笹につかまりながらもその雪渓を通過する。登りきったその先で極め付けの雪渓が現れた。下はルンゼ状で見えないほど、雪渓は急角度で落ち込んでいた。仮にここでバランスを崩してステップが崩れた場合、正直言ってどうなるかは判からない。雪渓の向こう側にはここから続く登山道が見えるが、先行パーティもさすがにこの雪渓を横切ってはいないようだ。一度上部へと登り、崖下の少し傾斜が緩い斜面をトラバースして、雪渓の向こう側を下っている。プラブーツを履くかピッケルでも持って来ていれば・・ と思うが、思ったところでしょうがない。頭の中の悪い想像を追い払い、意を決っしてストックでバランスをとりつつ、長靴でさらなるステップを刻む。だが、登りは良いとして帰路の下りはどうなるんだろう? 不安は尽きないが、なんとか上部へと到達、慎重にトラバースを決行する。そこからの下りは思ったほどのことはなく登山道へと逃げ込むことに成功する。まずはホッとひと息だった。

一番危険を感じた雪渓  長靴では心許ない

 ここからもかなり急な登山道となって続くが、登山道であれば特に問題などない。そうこうしているうちに美瑛岳から続く尾根上となる。そのまま頂上へと向かう雪渓に針路を変更する。この日は晴天予想であったが、オホーツク海にある低気圧からの前線が道内付近に伸びており、強風が吹いている。しかも予想外なことに雲が覆い始め、遠く大雪山はすっぽり雲の中に隠れてしまう。天候が下り坂であることは明らかだった。出来るだけ素早く頂上を踏んだ方が無難だろう。順調だった歩調もぐんと落ちるが、自分の年齢を考えれば当然と思えた。何歩か進んでは呼吸を整え、再び前進を繰り返す。帰路のあのルンゼに残る雪渓の通過が頭から離れない。場合によっては十勝岳まで縦走してしまった方が安全かもしれない。いや、美瑛富士避難小屋から白金温泉へと下る手もある。

 近そうに見える頂上岩峰だが、なかなか近づいては来ない。やはり2000mを超える山でありいつもの低山とはスケールが違う。登山道らしき雪渓上のつながりを発見、踏み入れたところで腰まで埋まってしまった。中が空洞化していたのだろう。登山道を諦めて、雪渓が完全に消えるまではその上を歩く方が安定しているようだ。雪渓が消えたところで登山道が現れた。あとは普通の尾根歩きだが体力的にも精神的にもさすがに疲れた。最後の登りを残して岩峰の下で大休止とする。復路は十勝岳へ向かおうと心に決める。飲み物とパンを採って、しばし十勝岳へ続く尾根を眺めるが、なんとも遠い。天候は完全に崩れ気味で急がなければならないところだが、体力的に不安が残る。

やっと頂上  だが、ゆっくりとはしていられない

  美瑛岳頂上へは一歩一歩となる。ひょっとして、いつもの山とは違ったスケールに位負けしているのかもしれない。予想を超えてのオーバータイムとなり、13時近くに35年ぶりの美瑛岳頂上に到着となる。眺望はさすがに圧倒するものがあり、美瑛富士が丘のようにしか見えない。十勝岳もオプタテシケ山も遥かに遠い感じである。この時間帯から美瑛富士へ向かうのであれば避難小屋から下るしかない。その場合の問題は車の回収である。一方、考えていた十勝岳方面への縦走については、この強風では予想以上に多くの時間を費やしそうな気がする。三角点の写真をとったら直ぐに行動に移さなければならない。さあ、どうする? ・・・  出した結論は、結局同じルートの引き返しである。雪渓の通過は時間をかけて慎重にやりさえすれば良い。引き返すにしても、美瑛富士から周っていたのでは体力的にも時間的にも余裕がなくなる恐れがあり、ここからおとなしく引き返し、同じルートから下山するのが一番の安全策と思えた。

 今回の山行では多くの反省点があった。出発時間の遅れ、道具選択のミス、雪渓判断のミスなど、挙げたらきりがない。何を措いても、一番の失敗は登山道ということで嘗めてかかったことだろう。多少なりとも緊張感があれば出発時間をもう少し真剣に考えただろうし、慎重を期するならピッケルくらいはザックに付けて行くべきだった。そもそも、この時期の登山道は雪渓の残り具合によっては今回のような危険要素を秘めている。主だった山であれば「山開き」というのがあって、安全な夏山登山の解禁日となっている。そうではない時期に登るのであれば山は何んでもありと考えた方が良く、状況の変化と常に対峙できる覚悟と用意が必要であった。山は逃げないが、年齢と共に遠くなる。今の私の今の体力的なものを考えると、正にそう感じざるを得なかった。(2016.5.28)

参考コースタイム】望岳台 P 9:00 → ポンピ沢 10:50 美瑛岳頂上 12:40 、〃発 12:45 ポンピ沢 14:00 望岳台 P 15:50 (登り3時間40分、下り3時間5分 休憩時間を含む)    

メンバーsaijyo

 **山行写真**

 

雲の平付近から雪渓が現れる

美瑛岳頂上へは雪渓を登って行く

遠く下ホロカメットク山まですっきりと見える

頂上から北方の眺め

頂上から十勝岳  雪渓が硫黄で黄色く色付いている

 

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