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 アトサヌプリ(508m) ・・・観光地として有名な「硫黄山」

観光駐車場から見たアトサヌプリ  見慣れたアングルから

1/25000地形図 「川 湯

硫黄山_山頂にて (Ikkoさん提供)
硫黄山_キタキツネ足跡 (Ikkoさん提供)

途中、ダイナミックな夜明けとなる
アトサヌプリの斜面を登る

これを越えるといよいよ頂上台地上、もう一頑張り!

 観光地・川湯の硫黄山、正式名はアトサヌプリだが、平成13年に落石による死亡事故が発生して以来、立ち入り規制区域となっている。そのことは登ってきた翌日、Web検索していて判った。盗人猛々しいとはこんな私のことを言うのかもしれないが、登ってしまったのは事実であり、今さら隠したところで何の益にもならない。何かと世知辛いと感じる昨今の世情だが、少なくても藪山登山の世界くらいは大目に見て頂きたいものと思っている。ウィキペディアによれば「アトサヌプリの名は、アイヌ語の「アトゥサ」(atusa, 裸である)と「ヌプリ」(nupuri, 山)に由来する」とのこと。この山には以前に登山道があったこともWebを見ていて判ったが、今は消えかけているようだ。頂上で見た頂上標識も登山道があったとあっては合点が行く。私のような不届き者のまねをする人間が出てはまずいので、あえて入山口の説明は控えるが、いつもの藪山でもそうするように一番登りやすそうな斜面から取付くことにした。

 この日の予定はアトサヌプリ〜マクワンチサップ、あわよくばサワンチサップまで足を伸ばすというもの、足回りはスパイク長靴である。スキー、スノーシューと全て揃えてやってきたが、少ない積雪と活火山ということもあり、下手したら上部は地表が出ているのではないかと思えたからである。これは昨年、火山マイスターのK氏から、昭和新山の上部は地表温度が高く雪が積もらないと聞いていたことに拠る。入山地点からハイマツが現れる。これはハイマツの生命力の強さであり、この山の火山性ガスに耐えられるのはこの種のみらしい。スタートからの高山的な雰囲気はとても500mそこそこの山とは思えない。ハイマツと岩の間を縫っての急斜面の登高の開始である。暖冬といわれる今年だが、さすがにここ道東の内陸では氷点下10℃に近い。この山は過去の落石事故もそうだが、総じて岩も不安定のようである。やはりこの山に安全に登るのであれば全てが凍てつく厳冬期に限る。

 ひと登りしただけでぐんと視界が広がり始める。特に噴煙の背後からの御来光は神々しささえ感じられ、凍りついた空気や噴煙の力強さとマッチ、実にダイナミックな光景を造り出している。まだ眠っている観光施設と駐車場、その向こうには朝の陽で眠りから覚めたばかりの斜里岳が姿を現している。次の急斜面、正面はゴーロ状で、先頭を行くIkkoさんは緩そうな横の雪面から取付くが、膝上くらいのラッセルに四苦八苦、すぐに雪のない正面へとルートを切り替える。このあたり、さすが経験豊富な彼だから自然とそんな選択になるのだろう。確かに岩のゴロゴロ状態には圧倒されるものがあるが、実際は正面から見たほどの傾斜はなく、すんなりとこの急斜面をクリアする。概ね平坦地と急斜面を繰り返しながら標高を稼いで行く。

 噴煙が各所に見られ、これを交わすように登らなければならず、幾通りかルートを考える。多少駐車場からの真正面寄りにはなるが、やはり安全が優先する。見ると駐車場には車も着き始め、降りてこちらを見ている様子。だが、我々を見ているのではなく山を見ているのである。山全体から見れば、よほど意識的にでも探さなければ登っている人間など見えるものではない。岩石帯の中央を左に回り込んで頂上部手前の斜面へと出る。急斜面はここまで、あとは正面に見える小高くなった高みへと歩いて行くだけだ。幾つかの高みはあるが頂上は一目で判る。長靴でも埋まらない程度の積雪を踏んで強風の中、頂上到着となる。厳冬期のこの強風が余計に登頂感を盛り上げているような気もする。頂上は大岩となっていて、古い頂上標識も見られ意外な気がした。大岩に登ってみると、数十m先にはこちらよりも明らかに高そうな鋭角的に伸びた岩峰がひとつ。さすがに、これは登れない。休憩するには寒過ぎるので、写真を撮ってすぐに頂上を後にする。次はマクワンチサップである。

 地形図上、アトサヌプリは崖記号で囲まれており、どのルートを取るにしても簡単にはマクワンチサップとのコルへ下ることは難しい。そんなこともあって、下降ルートは既にKo玉氏から入手済み。彼の以前たどったとされる地点へと向かう。一見して道路かとも思われるところへ出るが、こんな火山に道路などあるはずがない。幾つか分岐となっているので、偵察かたがた下ってみるが、最後は20mくらいの段差でストンと落ちている。動物の足跡をたどるがこれもダメ、1ヵ所だが、底の硬い登山ブーツであればステップを刻んで下れそうな雪渓に出る。もちろん底の柔らかい長靴では滑落は必至、長靴のスパイクレベルでは話にならない。緩い沢形で、ハイマツにシュリンゲを巻いてそれを支点とすればゴボウでも下れそうだが、ここで無理をしたところで、マクワンチサップへの登りでは活火山の積雪状況とは違い長靴では難儀するだろう。スノーシューを置いてきてしまったことを後悔するが、後の祭りである。

最高地点からマクワンチサップを望む 硫黄山_下山途中のマクワンチサップ (Ikkoさん提供)

 結局、億劫でも登り返し、一つとなりの崖記号のない尾根を下ってみることにする。もちろん、ここも上手く下れたところでマクワンチサップへ向けての状況に変わりはない。しかし、下れるかどうかの興味が尽きなかった。トラバース気味に西側の崖地形を巻き、ハイマツを交わしながら下れそうな斜面を探す。先頭を行くIkkoさんはどんなところでも下ってしまいそうな勢いでどんどん下って行く。斜面の傾斜は下るほど増して行く感じがする。結局、ここの斜面も転がり落ちそうな急傾斜で谷地形に消えていて、その先がどうなっているかは判らない。つかまるものが必ずあるのであれば何とかなるかもしれないが、それがなければ万事休すとなる。マクワンチサップは一度下山してから登り直すことにして、さらなるトラバースを繰り返して往路のルートへと戻る。結果的には穴ぼこだらけのハイマツ帯を腰まで埋まりながら右往左往した分だけ労力の無駄遣い、まあ、これもありか… そんな気分での下山となった。

 今回は厳冬期ということもあって、崩落の危険はまるで感じなかった。このアトサヌプリで落石によって死亡事故が発生したという事実を風化させてしまうことは確かに許されない。だが、以前のような観光気分で誰もが入山していた実情を考えれば確率的には十分起こりうる状況だったようにも感じる。管理側の責任が問われるような登山道であればそんなものはない方が良い。山は誰かのお膳立ての上に登るのではなく、自分のルートファインディングによって自分自身が登るもの。登山道が消えた現在、噴火の危険性が高くはないのであれば「かっての登山道はありません」などと掲示して注意を促す程度で良いのではないだろうか。登ってしまってから言うのは何だが、ついそう感じずにはいられなかった。(2014.1.2)

【参考コースタイム】 入山口 7:00 → アサトヌプリ頂上 8:25、〃 発 8:35 入山口 11:15   (登り 1時間15分、下り 2時間50分 ※下降ルート偵察時間も含む)

メンバーIkkoさん、saijyo、チロロ2

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