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       アポイ(810.2m)

様似町・榮町の丘から望むアポイ岳

 1/25000地形図「アポイ岳」「様 似」

アポイ山麓自然公園の駐車場に車を停める
樹林帯の中のかなりしっかりとした登山道を進む
登山コースのいたるところで見られる案内プレート、見ているだけでこの山の特徴が判る
五合目・避難小屋付近からは本峰が見上げるように望まれる
五合目からは開放感溢れる尾根道となる

アポイ岳は全山カンラン岩からなる日高山脈の中でも特殊な地質とのこと。そんなこともあってこの山は高山植物の宝庫であり、「アポイ岳高山植物群落」として国の特別天然記念物にも指定されている。当然のことながら花好き諸氏には人気の山となっていて、シーズン中には多くの登山者で賑わう。こんなメジャーな山であるが、ニカンベツ林道偵察の折、少し時間があったので立ち寄ってみることにした。この山は以前に子供と登った思い出でがある。もちろん、当時は私の子供達も未だ小さく、親としては大変だったという記憶のみがこの山の印象となっている。今回は花の季節はとうに過ぎ、花など何処にも見当たらない。ところが現地入りして、こんな時期にもかかわらず多くの登山者が訪れているのには驚かされた。何が目的かはよく判らないが、それだけ花のみならず多くの人達に親しまれている山ということなのだろう。

朝方訪れたニカンベツ林道には当然のことながら人影など全くなかった。ヒグマへの恐怖心があってもよいところだったが、この時はそれを全く感じなかった。ところが人が大勢入っているこの登山道でヒグマ注意の看板を見た時には何か恐いものを感じた。今年はヒグマの好物とされるドングリ類が気候の影響で不作とのこと。おかげで何と札幌・中央区の市街地にもヒグマが出没して大騒ぎとなっている。北海道を良く知らない本州の人達が「大通公園にもクマが出るんだってね」との話は以前からの笑い話だが、これがまんざら冗談ではなかったということが50年以上も札幌に住んでいて初めて判った。おかげで、藻岩山麓に居を構える私としては思ってもいなかった緊張の中で毎日の犬の散歩を強いられている。要するに人間を恐れないクマはやはり恐いということである。ヒグマや人間にとっての平穏な日々が一日も早く戻ってくることをただ祈るばかりである。

かなり整備されたアポイ山麓自然公園、ここから一級国道ともいえる登山道が始まる。一合目の標識が現われるのは公園内を過ぎて直ぐのところ。森林帯の中の登山道はアポイ岳の西に伸びる派生尾根を巻くように進み五合目の避難小屋へと続いている。途中の小沢では、さすがに整備された山とあって、登山者の靴を濡らさぬよう橋まで掛けられていた。さらに所々にクマ除けの鐘まで吊下げられていて驚かされる。果たして効果のほどは如何ようなものか…私も試しに鳴らしてみたが、お通夜や法事のあの無常感漂う空気が見事に蘇えり、ついお経を口ずさんでしまいそうだった。たとえこの鐘を設置しなかったためにヒグマの被害にあったとしても、管理責任まで問われることはないだろう。ある意味、登山者を楽しませるオブジェとでも考えた方がよいのかもしれない。

避難小屋の建つ五合目からは一転して開放感たっぷりの尾根道となる。有名どころとあって、ここにもご多分に漏れず木材を使っての階段が設置されている。この手のものの大方は歩幅に合わず、利用者をまるで考えていないと非難されるケースが多い。そのために余計に登山道を広げてしまうこともしばしばである。ここでは金網に石を詰めた中間点を作って、私のような短足の人間にも負担とならぬように配慮されている。こんなところまで細心の注意が払われているのはさすがである。足許はともかくとして、ここから始まる展望は高山的雰囲気を感じさせて思いの外素晴らしい。カンラン岩から成る地質や海岸に近いという環境が大きな樹木を育ちづらくさせ、このような見事なパノラマ景観を作り出しているのだろう。この山の素晴らしさは決して花だけではないようだ。

馬の背を隔てて見える様似市街 途中からはピンネシリや吉田岳の姿も見えてくる

馬の背まで上がると展望はさらに広がる。この辺りがアポイ高山植物帯の核心部のようで、「監視員」の腕章を付けた年配の登山者が睨みを効かせていた。私は盗掘者ではないが、なぜか怒られそうで恐かった。聞けばこんな時期でも盗掘はあるとのことで、この日は一日ここで監視を続けるらしい。こんな時代だからこそ、こんな余計な仕事もしなければならなくなる。盗掘する物、売る者は当然のことだが、このへんの事情にはそれを買う側にも問題がありそうだ。珍しい高山植物の価値は現地にあってこそ映えてくるもの、たとえ自宅の庭にあっても何の価値もないことを知るべきである。

アポイ岳頂上の一等三角点「冬島」

馬の背からは頂上までの一本道。吉田岳の頭が見え隠れしている。稜線上には吉田岳へと向かう登山者の姿も見える。背後には平になった馬の背を隔て、様似の市街地が広がっている。途中からは吉田岳の向うにピンネシリも見えてきた。普通であれば頂上が目前に見えて期待が大いに膨らむ場面だが、 この山は頂上手前から樹林帯となって肝心の頂上展望はない。ここは三角点を見て目的完遂と満足するしかないようだ。吉田岳へも足を伸ばしてみたいところだが、この山へ足を伸ばすにはやはり最初から計画していなければ時間的にも厳しいものがある。

 珍しい高山植物の宝庫であるアポイ岳、私としては“花の名山”としてのみの認識であったが、そもそもは日高造山運動の際の深層部のマントルが地表に露出したカンラン岩からなる珍しい地形の山とのこと。そんな意味で、今現在は日本ジオパークに認定され、世界ジオパーク入りをも目指しているらしい。前述の階段もそうであったが、途中の登山道には雨裂を作らぬように水の逃げ道まで細部に渡って作られていた。つい感心してしまうような手の施しようである。自分達の手で郷土の誇る自分達の山を守る。これからの北海道はそんな方向に進んで行くようにも感じられた。(2011.10.9)

【参考コースタイム】 自然公園・駐車場 9:20 → 五合目避難小屋 10:30 → アポイ岳頂上 11:40、〃発 12:25 → 五合目避難小屋 13:10 → 自然公園・駐車場 14:45   (登り 2時間20分、下り 2時間20分)

メンバー】saijyo、チロロ2

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