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   阿女鱒岳(1014.4m)  

途中から見た阿女鱒岳

/25000地形図  「阿女鱒岳」

常盤貯水池への道路に車を停める
送電線が読図のポイントとなる
だらだらと緩い登りが続く
途中からは余市岳が望まれる

阿女鱒とは渓流に住むイワナが海へ出て大きく成長したものを言うそうである。阿女鱒岳は余市川支流であるアメマス沢川の水源の山というところからその名が付いているようであるが、余市川自体も鮎釣りの北限の川としては名高い。アメマス沢川も以前はおそらくイワナが豊富な沢だったのであろう。この山域の最高峰である余市岳から西へ伸びる尾根上の夏道のないマイナーな山であったが、近年のキロロリゾートの開発と相俟ってスノーモビルでの入山者が増えてきた。キロロを開発したキロロアソシエイのグループ企業であるヤマハ発動機鰍ェスノーモビルの大手ということもありここでは素人対象のスノーモビルツアーが企画されており、残念ながら阿女鱒岳はそのコースとなっているようである。静かな清流・アメマス沢川もこんな騒がしい時代を迎えることになろうとは、だれも予想がつかなかったことであろう。

この山への初見山は20年ほど前である。厳冬の利尻山で帰らぬ人となってしまったSさんと2人で登った。当時は今とは違ってかなりマイナーな感じの山であり、気さくなSさん以外はだれもこんな山へは付きあってはくれなかった。ネットもない時代であり、この山の情報は皆無であったが、ルートは今ではだれもが登る落合からであった。その後、何度も多くの山仲間を誘ってこの山を目指したが、ガイドブックには載っていない名山・入門編の山としては格好の存在であった。歩くスキー+冬山の醍醐味という点では適度な気軽さがあり、しかも頂上からの展望も良いとあっては、だれもが次の一山への憧れを抱かずにはいられない山であった。

今回、久々に単独で落合から入る。以前には常盤貯水池方面への道路が除雪されていなかったため、この道路の入口に車を停めたが、今は奥にどこかの大学の施設があるために綺麗に除雪されている。ただし、この道路は通行量が極めて少ない感じなので脇に車を停めることにする。落合の集落をぬけ、橋を渡ると林道入口である。今年の後志地方は積雪が多かったのか、林道の存在すら判らないほどである。途中からは前日のものと思われる2人パーティのトレースが現れる。おそらく駐車場所に苦労したのだろう。単独行というのはいろいろな意味で勉強になると言われているが、どんな小さな感動でも共有できる仲間がいない山行は私としては味気なさしか感じない。頂上へむかってただ黙々と歩くのみである。

コンタ530mで送電線を横切る。以前、頂上でジンギスカンでもやろうという目的で春爛漫の残雪期にこの山へ登ったことがあるが、頂上でビールを飲み過ぎたため、下山角度を若干間違えてしまった。山域の広いこの山では下るごとにその誤差が広がり、現在地が全く判らなくなってしまった。この時、送電線の鉄塔に付いている番号を覚えていたメンバーがいて、鉄塔を確か二つほど戻り事無きを得た記憶がある。間違えのポイントとなったのは886.8m三角点の巻きである。頂上でシールを外したため、ここでの登り返しは出来なかった。この日は晴天であり、陽気のためザラメ上のトレースは完全に消えてしまった。読図をすることもなく、ただ感覚に頼った結果である。今となっては懐かしい思い出であるが、この状況下で鉄塔の番号を記憶していて正確にルート修正をしたK女史の細かな観察力にはただ脱帽である。

阿女鱒岳頂上に到着
番号を確認すると便利

電線から急斜面を一登りすると雪庇の付いた小ピークが現れ886.8m三角点のコブに到着する。トレースはこのピークの左側を巻いたところで終わっている。ここからコルへは見た目にはけっこう下らなければならない感じだが、実際は大したことはない。前日の先導者はここで時間切れとなってしまったのか、トレースはここまでである。ここから先には3つのコブがあり、それを登らずに上手に巻くことができれば、頂上は意外に近く感じることだろう。次に現れるコンタ910mのコブはキロロリゾートのスノーモビル体験ツアーコースとなっているようで、何台ものスノーモビルが爆音をたてて控えている。ツアー責任者が私を見つけ駆け寄ってきて詫びていたが、この阿女鱒岳がキロロからも近く、格好のスノーモビル・コースとなっていることは最初から判っていたことで、山は我々だけのものではないことも十分に理解していた。しかし、我々の聖域に土足で踏み込むようなモビルの存在を感情的にはどうしても肯定できないのは事実であり、彼らにもそのへんのところは十分に解ってほしいものである。

  騒音を背に阿女鱒岳ピークを目指す。天候も下り坂であり、少々先を急がなくてはならないようだ。頂上東側の肩に到着する頃には細かな雪が舞い落ち、先ほどまで見えていた余市岳も雪雲の中に霞んでしまう。最後の斜面はこの時期特有の暖気と寒気の繰り返しのため表面が堅く凍ってしまい、シールは全く利かない。北面の深雪が付いた斜面へ逃げながら頂上へ飛び出す。期待していた絶景を望むことは出来ない。数多くの山仲間と感動を共にした阿女鱒岳頂上であるが、78年ぶりの単独での頂上もまた、感慨はひとしおである。昨夏、地図がガイドチームで南面の大石沢川から夏期のこの頂上を目指したが、詰の藪漕ぎを考えると時間的に登頂は厳しく、余儀ない敗退を強いられたピークでもあった。頂上ビールは一缶とし、いつもよりはかなり慎重に往路のトレースを下ることにする。(2006.4.2)

【参考コースタイム】落合 9:40 → コンタ530m送電線 11:10 → 阿女鱒岳頂上 13:20、〃発 13:35 → 落合 15:15

メンバーsaijyo

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