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       真谷地・752mピーク(752.3m)

鉄塔の建つ752mピーク

 1/25000地形図「紅葉山」

ゲート前に車を置く
少し進むと、人々が生活していたと思われる地点を通過する
藤やルピナス、主の去った里だが今も咲き誇っている
毒は持たないが、狂暴性を持つアオダイショウ

“花の夕張岳”を計画して札幌を早朝に発つ。時期が時期だけに恐る恐る現地入りしてみたが、やはり車を停めるスペースなど全くなかった。覚悟はしていたが、この時期の夕張岳はやはり人気の的となっているようだ。結局、空きスペースが見つからぬまま夕張岳は中止とする。林道のかなり手前に車を停めてあとは歩くという手もあったが、そこまでの情熱はとても湧かなかった。簡単に中止としたには他にも理由がある。以前、HYML(北海道山メーリグリスト)の投稿で冬期に登ったという夕張市南部の通称;真谷地の752mピーク(点名;上真谷地)がいつも気になっていて、何かの折には一度踏んでみたいと考えていたことである。もっとも、こんな機会でもなければおよそ計画などしそうもないピークで、道路を歩くばかりでは山行と呼ぶには少々おこがましさを感じていたのが正直なところだ。今回は支笏湖の紋別岳やこの山域の雨霧山やクオベツ山等を考えればそれもありかと、山行記として取上げることにした。地形図は当然のことながら代替案として用意していた。

 かつては北炭真谷地炭鉱で名を馳せた真谷地も現在はその遺構すらも次々と姿を消している。2004年の鬼首山の山行時に残っていた旧炭鉱事務所を車窓から探してみたが残ってはいなかった。すっきりしたといえばその通りだが、“炭都”と呼ばれた夕張の夕張たる部分がいとも簡単に消え去って行くことについてはある種の哀愁を感じる。真谷地の街を通り過ぎた終点(ゲート)が山行のスタート地点である。ゲートからはしっかりとした道路が続いていて、電信柱や電線が少しうるさい。普通の電線よりは太く、頂上の施設に電力を送るためのものと思われる。ゲートから少し歩くとルピナスが群生しているところに出る。この植物は当然のことながら自生植物ではなく、以前には人々の生活の場となっていた証でもある。昭和から平成へと時代が移り産業構造が大きく変化してしまった道内では随所に同じ光景を見る。また、ルピナスを逆さに吊るしたような藤が大木を伝って広がり、樹木全体が一見“藤の大木”と化して見事な光景を作り出していた。主の去った夢の跡、野生化して行く植物達のこの時期ならではの饗宴と感じた。

道路終点のNTTの電波搭
防雪策が両側に取り付けられ、稜線上であるにも関わらず視界はきかない

道路終点のNTTの電波搭

 そこを過ぎると林道のような雰囲気となり、冬期であれば滑るのに良さそうな登り一辺倒の道路となるが電線はやはりうるさい。この日は蒸し暑いせいか所々でアオダイショウが繁みから出て日向ぼっこをしていた。間違って踏んだりでもしたら咬み付かれそうで、しっかり路面を見ていなければならないようだ。試しにストックの先で突付いてみたが、だらっと一直線に伸びきっていた身体を一気にくねらせストックを激しく攻撃してきた。毒を持たない種類だからよいものの、そうでなければ恐ろしい蛇の本性といえる。日頃は平気で籔漕ぎを楽しむ我々だが、さすがにこの日だけは籔が気味悪く感じられた。

 車を走らせる目的で作られた道路は緩いカーブが続き、歩く側にとっては必要以上に長い歩行を強いられるものだ。ショートカットでもしようものならアオダイショウとガチンコしそうで気持が悪く、忠実に道路をたどるしかないようである。であればと、この日はこの時期ならではの自然をじっくりと楽しみながら徐々に標高を上げて行くことにする。水溜りにはオタマジャクシやサンショウウオの幼虫、沿道に咲き乱れる菜の花にはカラスアゲハをはじめ色々な蝶やトンボが飛び交っている。これはこれで十分に楽しめそうだ。仮に都会に育つ小学生でも連れて図鑑片手にこの環境の中で一日過ごそうものなら、私共々理科オタクとなること間違いなしだ。一方大人達の興味の対象といえばやはり花より団子、タケノコやウドは時期が遅かったのか既に伸びきっていた。

三等三角点「上真谷地」は鉄塔横の高みの頂点に埋まっていた

車道のわりには急なNTTの管理道路は南の沢林道終点で唯一の分岐となる。この林道は鬱蒼としてけっこう荒れている様子、この管理道までの全線はきっとつながってはいないだろう。分岐付近からは徐々に尾根上となって緩くなる。737m標高点手前で主稜線上へと飛び出す。道路の両側には雪対策から吹き上げ防止式防雪柵が設けられており、冬期間の利用も見込んでいたようだ。おかげで、楽しみにしていた展望はほとんど利かず、廊下でも歩いているような状態が頂上の施設群まで続いている。こんな中でもヒグマの糞だけは見られるから、道路歩きだからといって油断はできない。ここも立派に奥深き山の中ということだろう。この日は2箇所に糞を見た。

 ゲートから約2時間で頂上のアンテナ群が現われる。頂上というには何とも寂しい光景だが、三角点だけは確認したいものだ。道路の終点にはNTTドコモ?のかなり大きな無線中継所が建ち、その周辺を一周したがそれらしいものは見つからなかった。よくよく見て見ると、どうやらこの施設は西側に伸びる尾根をかなり大きく削って建てたようで、三角点は東側のコンクリートで固められた落差3040mくらいの崖斜面の上にありそうだ。崖上へは1つ手前のアンテナ施設の横から上がることにする。背丈以上の笹薮を漕いで約5分、崖の淵から50cmくらいのところに三等三角点「上真谷地」を発見する。覗き込むと崖下に吸い込まれそうで、さすがに手を伸ばして触るのがやっとといったところである。真正面には前述のアンテナ施設がこの山よりも高く立ち上がって見えるが、その背後には鬼首山や冷水山、夕張南部の市街地が広がっている。

我々が歩いて登ってきた管理道路だが、森林管理所の管理する国有林をNTTドコモとコミュニケーションズが借り受け無線中継所まで通したもので、光ファイバーが全盛となった現在ではその任はほとんど終えたように感じる。その他にもアンテナ施設が2基ほど残っているので、こちらの管理のために現在も使用しているのかもしれないが、全体的には荒れかかっているような印象を受けた。崖っぷちの「上真谷地」を眺めながら感慨に浸っている私を尻目に、後続はなかなか姿を現さない。この標高ではさすがに丁度よいタケノコも残っているようで、あれほど恐れた蛇をもすっかり忘れ、三角点そっちのけでタケノコ採りに興じている様子だった。(2011.6.19)

【参考コースタイム】 真谷地ゲート前 P 8:20 → NTT無線中継所 11:15 → 752m三角点 11:20、〃 12:05発 → 真谷地ゲート前 P 13:50 (登り 1時間55分、下り 1時間45分 ※タケノコ採り、休憩時間を含む)

メンバーsaijyo、チロロ2、チロロ3(旧姓naga)

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